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1話 ウルク孤児院

ナノマシーンリミッターの研究室の端末に見つけたエルヴィンの隠しファイル。



その中身はアヌの蘇生方法、それからその危険性を知らせる物だった。



しかし、変わってしまったエンキにその警告はまるで響かなかった。

あれから数年の時が流れていた。



ここは1区ゾーン5、旧アメリカメリーランド州ボルモチア。



ワシントンから東に50キロ程のかつての大都市だ。



この頃、1区はさらに巨大化しておりワシントンから旧ボルモチアを含むまでの広大な範囲がひとつのカプセルに収まっていた。

10キロごとに旧壁面があり、ゾーン2、ゾーン3と広がっている。



広がっていると言えば聞こえはいいが実のところ度重なる戦争の爪痕は大きく、初期の頃のゾーン2や3辺りの破損を覆い隠す様に肥大化した物だった。



1区の被災者がゾーン1へ集中し、戦闘による近隣区のカプセルの被災者も集まる中、修繕しながら規模を拡大していったのだ。



ここ、ゾーン5もそうやって付け足された区画で出来て日も浅く街全体が真新しい。



ストリートや区画だけが再利用されているが基本的には一度氷の世界に閉ざされた古の街の上に建てられた全くの別の都市だ。



かつては他の州とは一歩独立した州でタバコの輸出港として栄えた地域だったが今はその面影はない。



戦火に見舞われた避難民と世界各区から新ゾーン建設で出稼ぎに来たまま住み着いた移民の街だ。



出稼ぎ定住者が多いのが特徴と言える。



それ故、多民族で人が多く大きな住宅は殆どない。



集合住宅の様な建物が所狭しと並んでいる。



かつてのアメリカからは想像も出来ない程に土地のない都市構造だ。



そしてこの街の一角にポールローレンス・ダンバー高校と言うハイスクールがある。



これもまたかつてこの街にあった高校にあやかって名付けられた高校で昔に存在していた学校と特に縁やゆかりがある訳ではない。



そしてこの高校に通う一人の少女がいた。



名をイシュタル・フセイン・カヤと言う。



黒髪に透き通るような白い肌をした17歳の女の子だ。



彼女は遠い祖先に日系と中東系の共に由緒正しい血筋を持つ。



しかし長い時を経て今は身よりもなく戦争孤児として孤児院に拾われ、奨学金を貰って高校に通う貧しい身の上だった。



彼女の育った孤児院はこれもまた過去にあったストリートの名前そのままのゲイストリートと名付けられたストリートの一角にある。



その名は『ウルク孤児院』



そこでの暮らしは決して楽ではなかったが、兄弟姉妹のように仲が良く助け合って生きていた。



この日もいつも通り、孤児院は朝食の時を迎えていた。



因みにこの孤児院の院長は桃井と言うおとこだ。



敢えておとこと形容させてもらおう。



桃井はめっぽう腕っぷしが強く、屈強な身体と精神力を誇る。



しかし、彼には少し常人とは違う感性が備わっていた。



それがイシュタル達の悩みの種でもあった。



そして今朝も爽やかないつもの朝が訪れる。



桃井「おはようー!」



この桃井、どういう訳か男の子ばかり引き取って来ては12歳になるとすぐに里親を探してきて送り出してしまう。



お陰でこの家にいるのは万年決まった女子ばかりである。



この日の顔ぶれもいつもの女子三人と桃井だった。



高校生のイシュタル、中学生のナンナ、そして年齢不肖で3歳まで犬に育てられて育ったリリイだ。



ここ1区の学校制度はエレメンタリースクール、ジュニアハイスクール、ハイスクールと6.2.4年という制度をとっている。



ここではイメージしやすい様に日本風に小中高校で表記する事にする。



残念ながらリリイは通常の学校には行けずに保護観察という立場だ。



この時代は社外的弱者を保護するという考えはなく、問題を起こせば罰し起こさなければ保護者に委ねるという形だ。



氷河期と戦争の中を生き抜く上では健常者もその辺りで頻繁にのたれ死んでいる様な時代にあってそれは自然の流れでもあった。



皆、生き抜く事で精一杯なのだ。



桃井はそんな事は意にも介さずリリイも含めて分け隔てなく子供達を可愛がった。



まるで友達の様に。



そう、決して親子と言う感じではなかった。



桃井が調理場からキッチンへ料理を運ぶ。



両手に四角い大きなトレイ。



片方にはパン、もう片方にはスープが乗っている。



コツコツと木の床を歩くその姿はスーパーモデルを思わせる様な凛とした姿勢の良さだ。



少しラメの入った光沢のあるタイトで柔らかそうな薄手の生地はその鍛え抜かれたボディのシルエットを余すところなくくっきりと浮かび上がらせている。



因みに色は淡いピンクだ。



しかし、彼は一応聖職者だ。



シースルーでミニスカート程の丈しかないのが欠点だがアカデミックなガウンを着用して影だけ見れば牧師に見えるだけの気遣いもある。



孤児院の建物の造りは極めて簡素だ。



木造で飾り気のない造りだが所かしこに花が飾ってあったり簡単な装飾が見られる。



これらは、イシュタル達が飾ったのではなく桃井が毎朝手入れしている庭の花壇から季節ごとに植え替えているのだ。



そう、桃井は花を愛する心を持ったおとこなのだ。



木のテーブルにトレイをコトリと置くと優雅に配膳をする。



桃井「さぁ、お食べなさぁい。」



その重くダンディな声がキッチンに響くと、子供達は神に祈りをし、皆で朝食を食べ始める。



いつもと変わらない朝の光景だ。



しかし、今日の桃井は落ち着きがない。



何か少しモジモジしている様にさえ見える。



チラチラとイシュタルの方を見ながら何か言いたそうにしている桃井。



イシュタル「何?」



と、冷たい一言。



すると、さすがに気まずそうに重い口を開く桃井。



桃井「イシュタァル、何か学校の事で父さんに隠してなぁいか?」



イシュタル「な、何も隠してないわ。。」



朝食を食べながら明らかに動揺するイシュタル。



桃井「父さん昨日、買い物に行った時にぃ、たまたま耳にぃしたんだよ。。」



イシュタルは冷や汗をかきながら恐る恐る聞きかえす。



イシュタル「な、何を?」



すると桃井は覚悟を決めて劇画風まがおになり一言



桃井「お前の学校で保護者面談があるそうじゃないか。」



その言葉を聞いて凍りつくイシュタル。



イシュタル「な、何をおっしゃるの。。。?そ、そんなものはないわ!」



桃井の顔も見ずに滝の様な汗をかきながら答えるイシュタル。



桃井「隠してもそう言う事はバレるんだよイシュタァル。」



桃井は劇画風なまま続ける。



桃井「お前も思春期なのは分かぁる。でも、学校の事は別じゃなぁい?」



最後の「なぁい?」の所で明らかに顔がほっこりと緩む桃井。



明らかに何かを妄想している様だ。



そんな桃井のウットリした顔を疑いの視線で見ながらイシュタルは



イシュタル「その顔、嫌な予感しかしないからやめて。。。」



と、本当に嫌そうだ。



そう、イシュタルがそんなに嫌がるのには理由が2つある。



一つはこの桃井が自分の保護者として学校に来るのがとてつもなく恥ずかしいのだ。



もう一つは。。。

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