35話 赤い目覚め
ナノマシーンリミッターの研究室の端末に見つけたエルヴィンの隠しファイル。
謎のくるみ割り人形がエンリルを操り研究室の端末に接触するもマミイの妨害により退散した。
しかし、くるみ割り人形に触れたマミイのティアマトのオーラは暴走を始める。
マミイは自ら編み出した能力『移譲』で最後のチカラをエンキに託す。
それは想像を絶するとてつもない激痛だった。
体中の細胞の一つ一つがおろし金で摩り下ろされている様なそんな激痛である。
意識がハッキリしているだけにその痛みはクリアで強烈に脳にその刺激を伝えた。
いや、脳自体も激痛に満ちているのだ。
終わりの見えないその激痛は後数分なのかずっと続くのか全く分からない。
それが余計にその、時間を長く感じさせた。
エンキは絶叫しながらそれに耐え続けた。
何度「殺して」と叫んだであろう。
こんな想いをするくらいなら死んだ方がマシだ。
走馬灯の様にこれまでの事が頭に流れながらマミイを恨んだ。
それが永遠に思えた頃、エンキは気を失った。
深い意識の奥底の光の中でアヌの夢を見た。
悲しそうに、苦しそうに、紫色に輝く海の中で手をこちらに差し出している。
届くはずもない遠い海から何かを叫んでいる。
そんな夢だった。
そして目が覚めるとそこは研究室だった。
天井が赤い。
天井だけではない研究室全体が赤かった。
ゆっくりと起き上がるとエンキは自分の身体から赤いオーラが出ている事に気付いた。
エンキ「これは。。。ティアマトの?」
ふと目の前を見ると、マミイの来ていた衣服と機械の部品の様なものか数個床に落ちていた。
それを見て、エンキはそれがマミイの成れの果てだと悟る。
エンキ:マミイさん。。。
胸が苦しくなるのを覚えたがエンキは立ち上がる。
すると信じられない程に体が軽い。
まるでゲームの中のキャラクターでも操作しているかの様だ。
エンキ「な、なんて軽いの。。?」
呼吸、内蔵、疲労、衛生面など生物的な不快感が全く感じられなくなっていた。
あるのは、ティアマトの海の途方もない力の存在感と流入しようとする意識の様なものが心に重く不安を宿していると言う事だけだった。
このアンバランスから来るチカラの均衡の破れをマミイからスライドされたリミッターが緩和してくれているのであろうとエンキは思ったがマミイに言われた通り、直ぐに自分に新しいナノマシーンリミッターを口の中の皮膚から投与した。
すると、ティアマトの意識からの威圧感がいくらか暖和されるのが感じ取れた。
ティアマトのオーラも安定している。
暴走の兆しも感じられない。
エンキはそれだけ確認すると、マミイの亡骸もそのままに研究室を出てリビングを通り寝室へエンリルの安否を確認しに行った。
寝室ではエンリルは何事もなかったかの様にスヤスヤと眠っていた。
それを見てエンキはようやく安心して胸を撫でおろした。
エンキ「エンリル。。。無事で良かったわ。。。」
エンキ:でも、何が起こるか分からないし直ぐに生命維持装置に入れなくては。。。
エンキは迷っていた。
あのくるみ割り人形がまた現れる可能性は確かにある。
しかし、あの人形が敵だっのかどうかは不明だった。
マミイは確かに死んだ。
あの人形に触れたことが原因だった様だが。。?
しかしもっと触れていた筈のエンリルはなんともなさそうに見える。
そして、あのエルヴィンのパスワードを解除した理由は一体。。?
そもそも何故あの人形があのパスワードを解除できたのか?
ここを直ぐに離れるべきなのか、ここで出来ることを全うすべきなのか。
エンキが迷っていたその時、エンリルは目覚めた。
エンリル「かあ。。さん?」
エンキの赤いオーラに気がついてエンリルは驚いた。
エンリル「そのオーラ。。。どうして?」
エンキ「ちょっとね。。それよりエンリル、まだもう少しだけ研究があるからまた装置に入って眠って欲しいの。」
エンリル「まだ僕は治ってないの?」
エンキ「もう少しよ。母さんもこの通りあなたと同じになっても大丈夫だから。あと少しの所まで来てると思う。」
エンキ「それに、エルヴィンと父さんの事で大事な調査があるから。」
エンリル「エルヴィンがいるの?どこ?」
エンキ「ここにはいないわ。」
エンリル「。。。じゃあ父さんの事って?」
エンキ「まだ分からないんだけど遠くで生きているかも知れないの。」
エンリル「父さん生きてるの?遠くってどこで?」
エンキ「分からないからこれから調査するのよ。」
エンリル「。。。。」
エンキ「もう少しだけ待てる?」
すると、少し間をおいてエンリルは悲しそうに黙って頷いた。




