12話 地下10階
ゲームの中のキャラクターの姿のままログアウト後の世界に出てきてしまったショウ。
ゲーム運営を名乗る男達の言うまま施設へ。
そこは脳内携帯とも言える『インプル』も全く使えない閉ざされた空間だった。
疑心暗鬼になりながらも遂に施設側と事を構えたショウとアナト。
謎の地下施設10階へ向かう。
東風平が怯えたその場所には一体何があるのか?
アナト「そうだな。今度はお前の実力を見せてもらおうか。女の影にばかり隠れていては男が廃ろう?」
アナトは、蔑んだ笑みを浮かべてショウを見る。
言われたショウも、ちょっとムッとして言い返す。
ショウ「なんだよ?俺だって好きでこんな事に巻き込まれたんじゃない!それに、俺に何が出来るっていうんだよ!」
アナト「お前には『魔法』とやらがあるんだろ?ホラ、何かやってみせろ。」
ショウ「な、なんだよ!そんな言い方あるか!」
ショウ「それに!いい加減名前で呼んでくれないか?他守さんとか、ショウさんとか、言い方あるだろ?年配者をちょっとは敬ったらどうなんだ?」
すると、ちょっと意外そうな顔色をしたアナトはいぶかしげにショウを見る。
アナト「年配者ねぇ。。。」
ショウ「な、なんだよ?」
アナト「ふん、外の敵を何とかしたら考えてやるよ。」
と相変わらずの態度だ。
ショウ「ああ、やってやるさ!俺の魔法を見て驚くなよ!」
ショウは後に引けなくなった。
ショウ:くそー!攻撃魔法もちゃんと発動できるのか??やるしかないよなぁ。。
ショウ「見てろよ!」
そう言うと仕方なくショウはアナトが消し去った扉のあった穴の方を見る。
ショウにはコチンダがから自身の皮膚が硬化している事を告げられていたので敵に何か反撃されてもきっと大丈夫だという打算があった。
それにアナトの言う通り、今はゲーム内と同じく魔法が使える。。。はずだ。
ショウは手始めに外の敵をターゲットした。
すると視界にゲーム内で敵をロックオンした時にでる視覚効果が現れた。
ショウ:よし!ちゃんと壁越しにターゲット出来るぞ!
そしてショウはどこからともなくブラックワンド(杖)を取り出した。
ショウ「物理攻撃無効!プロテクト!マジックウォール!」
茶色、水色、エメラルドグリーン、次々と色鮮やかな魔法陣が足元に現れてそれと同系色のオーラがショウを包む。
それぞれの魔法の効果をイメージする視覚効果が、様々なパターンの光のベールになってショウを包みこんだ。
幻想的に淡い光を放ち、まさにファンタジーの世界観を具現化したかの様だ。
自分の守りを固めたショウは、次にさっきターゲットした壁の向こうの敵に魔法を放つ。
詠唱ポーズを取ると今度は黒い魔法陣が現れ、紫色のオーラのような物が湧き上がり敵に向かって壁をすり抜けて降り注ぐ。。
ショウ「スリープ!」
そう、それはその言葉のまんまの催眠魔法だった。
そして魔法の視覚効果が収まる頃、外の男は立ったまま眠ってしまった。
ショウは興奮気味に外に出てそれを確認した。
ショウ「うぉぉ!スゲぇ!ホントに立ったまま寝てるぞ!ゲームのまんまだな!ハハハ!どんなもんだ!?」
ショウ「よし!さあ行こう!アナト!」
と意気揚々にそう言ったところでアナトの氷のように冷たい視線が突き刺さっている事に気がついた。
アナト「。。。おい。」
ショウ「あれ。。?」
アナトはため息まじりだ。
アナト「散々今から戦うぞ!みたいに勿体ぶった挙げ句、何だこれは?」
ショウ「いや。。これなら誰もケガしないかと。。」
アナトはガッカリした様子でため息をついた。
そして金森が閉じて回った廊下を防ぐ防護壁に向かい、右の掌を壁に向けた。
空気が静電気を帯びてビリビリとしてくるのを感じる。
次の瞬間、アナトの全身から稲妻がほとばしり掌の前で玉になってそこから一気に壁の方へ雷が放出された。
ドーン!と言う落雷の様な雷鳴が響き、その雷の衝撃は、目の前の壁とその向こうにある数枚の防護壁を一撃で砕いた。
それは、あっという間の出来事であった。
アナト「せめてこの位やれ。お前!」
ショウ「ぐはぁ。。」
ショウは膝から崩れ落ちる。
ショウ:魔法も使わずにこれか。。もうこの人、何でもアリだな。。いや、だがちょっと待て!ここで終わっちゃー俺も男が廃る。。
ショウ「そ、その位!俺にだって出来るさ!」
と、今度はショウがアナトが砕いた反対側の防護壁へ向かい壁の前に立つ。
ショウ:黒魔道士レベル99。一番派手で一番威力があると言えば。。
そして目を閉じて魔法の詠唱ポーズを取る。
ゴォォォッという音と共に足元に赤い魔法陣が現れると、いつになく長い詠唱時間が過ぎる。。。
ショウ「フレイムⅥ!」
火属性の上級魔法が発動し杖の先端あたりからショウの身の丈はあろうかという巨大な炎の柱を放った。
熱風と煙が吹き替えした後、目の前の煙がゆっくりと晴れて視界がクリアになる。
すると、アナトと同程度に防護壁が廊下の奥の方まで破壊されているのが見えた。
もちろんゲームではこんな風にダンジョンや構造物の破壊は出来ない。
しかし現実の世界であれば火が付けば燃えるし水がかかれば濡れるのである。
但し、出した火や水は魔法の効果が切れると消えるようでその爆炎はかろうじて火事を引き起こす前に消え去った。
ショウ:うわぁ。。リアルだとこんな感じなんだ。。電撃と来たら炎かなと思って勢いで打っちゃったけど、よく考えたら地下で火事になる系はヤバイよな。。
ショウはホッとしてアナトの方を向き
ショウ「どうよ?!」
と強ぶって見せた。
アナトはやれやれといった感じて
アナト「お前はバカか?これから探索に行くのに火事になったらどうするつもりだ?折角の情報源を焼失させる気か?」
と、言いつつも少し納得したかの様な微笑みを見せて
アナト「まあ、威力はまぁまぁだな。。しかし前置きが長い。単身での戦闘使用は無理だな。」
と、分析をする。
ショウ「えーっと。魔法使いとはそういう物です。。ソロプレイなんてしませーん。」
不服そうなショウ。
ゲームなら魔道士が盾役なしに単身で狩りやボス戦に出ることはない。
詠唱中に攻撃されれば詠唱が中断されてしまい、そのままボコられて終わりだからだ。
そしてスリープが解けてそれらを目の当たりにしていた男は腰を抜かしたように床に沈み、叫んだ。
男「な、何なんだお前らは!?こんな検体は見た事がないぞ?」
アナトは顔をしかめて男を軽々と片手で掴みあげた。
男の胸元をねじり込むように持ち上げる。
そのか細い腕にはとてもそんなパワーを秘めているようには見えない。
しかし、握りしめたその拳の先に男の全体重がかかってもアナトはまるで紙くずでも持ち上げているかのように自然体だ。
ミシミシと音を上げ苦しそうにする男の姿を、まるで害虫でも見るかの様な蔑んだ目で見つめながら、さらに締め上げてアナトは男に問いいかける。
アナト「貴様の言う検体とは貴様らのくだらない実験の為に犠牲になった人間や動物達の事か?」
締め上げられて顔を高揚させながら男は答える。
男「うぐぐぐぐ。。くだらないとは何だ?こ、この研究が無ければ人は滅ぶしかないのだ。。今や放射能が徐々にカプセルを侵食し、さ、さらに次々に来るイシュタラによる侵略。じ、人類はなすすべも無い。これは!生き残り為の種の闘いだ!!」
アナトは無表情のまま。
「そうか、それがお前たちの後付けの正義か。ならば現時点で適性のないお前たちはもう既に滅びの決まった劣等種だ。無駄なあがきだったな。さっさと消えろ外道!」
アナトがそう言い終えると、男はまたしてもアナトの目の前から跡形もなく消え去った。
アナト「他守、次はせめてすぐに回復するような攻撃はするなよ。」
ショウ「おいおい、今度は呼び捨てかよ!少しは年長者を敬ったりしないの?」
アナト「希望通り個体名で呼んでやったのだ。感謝しろ。」
ショウ「。。個体名ってなんだよ。。」
その赤く光る目を渋そうに細めるショウにヤレヤレと言った感じでアナトは
アナト「それに、言っておくが私の方が年長者だ。」
そう言った。
ショウは目を丸くする。
どう見ても10代そこそこのアナト。
若く見えると言っても20歳超えている様には到底見えない。
ショウ「はぁ?あのさ、じゃあお前一体何歳なんだよ?その姿も俺のこの姿みたいにそれもキャラメイクか何かなのか?」
と、アナトに詰め寄るも
アナト「フン。オムツ野郎と一緒にするな。私はお前と違ってこれが母様から頂いた生来の姿だ。それにお前たちの常識では女性に年齢を聞くのは失礼なのだろう?」
と言いながらショウに顔を近づけてきて
アナト「全くモラルのない奴だな。」
と、だけ言うと振り返って
アナト「さあ行くぞ!」
と、テクテク先にあるき出した。
仕方なく、慌ててショウもついていく。
ショウ:チクショウ!なんか常にスゲーバカにされてる気がする。。
そして廊下をしばらく進んで、二人はエレベーターの前で立ち止まる。
アナト「下だな。」
アナトはそのエレベーターの下のボタンを押すと、ボタンは点灯してエレベーターの動く音がした。
アナト「リフトは生きている様だ。」
しばらくしてエレベーターの扉が開くと二人はお互いの顔を一目確認してから静かに乗った。
地10と書かれたボタンを押すと扉が閉まりウィーン。。というモーター音がしてエレベーターは降りてゆく。
そうやって、しばらくして『ポーン』という電子音が鳴り、エレベーターの扉が開いた。
中は明るく、他の階と同じ色のシーリングライトが輝いている。
しかし、他の階と違ってここはエレベーターを降りていきなり白い小さな小部屋があるのみで、正面には他の階とは明らかに違う音楽スタジオ並に重厚な、それでいて白く清潔な扉が、ただひとつポツンと、あたかも来たものを誘い込むかのようにそこにあった。
当然、二人はエレベーターを降りるとこの扉に目がいく。
この重厚な扉は手動で開閉するしかない扉で、見えている金属製の重厚な取っ手を90度にまわし手前に引いて開けるタイプだ。
防音の為か、中にスポンジか綿の詰まったような扉の縁の摩擦に耐えながらの開閉を余儀なくされる、そんな感じの扉だ。
恐らく金森はここにいるか、もしくは別の所から自分達を見ている。
何か仕掛けてくる可能性はある。
しかし、これをくぐっても閉じ込められる可能性は低いだろう。
こんな扉を機械的にロックするのは厳しいからだ。
そう思うと同時に、こんな地下でどうしてこんな防音の効いた扉が必要なのか不自然に思う。
ショウ「なんでここだけこんな防音?みたいな扉なんだ?」
アナト「地下だからな、外に騒音はない。あるとしたら中の音を外に漏らさない為、か。。」
ショウ「中の音?」
アナト「例えば悲鳴や断末魔がエレベーターを通して各階に漏れないためかもな」
ショウ「おいおい。。」
ショウはその強面なその悪魔顔とは裏腹に内心では段々奥に進んで中を見るのが怖くなってきていた。
そんなショウを気にも止めずアナトは、またしてもその重厚な扉を音もなく、そして忽然と消し去ってしまった。
すると中にはまた小さな今度は壁が金属質に少し光って見える部屋とセキュかリティロックのかかった扉が見える。
アナトは重厚な扉のあった四角い穴から中に入るとその扉もあっけなく消し去った。
ショウ「アナト、お前さぁ、大泥棒にも脱獄王にもなれるよな。。。」
アナト「そんな物と一緒にするな。中に入るぞ。」
と、更に奥の部屋に向かおうとした時だった。
突然キィーン!と言う高音のハウリングの様な大音量が鳴り響き、三半規管が狂わされて二人はその場に膝をついた。
と、同時にその部屋全体の水分が振動して加熱されはじめた。




