11話 対決
ゲームの中のキャラクターの姿のままログアウト後の世界に出てきてしまったショウ。
ゲーム運営を名乗る男達の言うまま施設へ。
そこは脳内携帯とも言える『インプル』も全く使えない閉ざされた空間だった。
アナトがからはここにいては危険だと言われ、看護婦東風平からも医師金森に気を付ける様に言われるなか、担当医金森から予想外の病状を言われて困惑するショウの耳にさらに飛び込んできたのは自身がイシュタラ隠微または共謀の容疑で指名手配になった事実であった。
扉をあけた金森医師の表情は硬かった。
元々少し近寄りがたい雰囲気の持ち主だったがこの時は尚一層硬い表情でショウのいる病室へ入ってきた。
そして、白い病室にピリピリとはりつめる空気を切り裂くように、金森の声がショウの耳まで突き抜けてきた。
金森「ニュースをご覧になりましたか?」
ショウ「は、はい。。一体どうしてこんな事になったんでしょうか?僕はただ懐かしくなってゲームにログインしただけで。。」
ショウも暗い表情で受け答えた。
金森「早急にイシュタラとの無関係を証明する必要があります。すぐに特別集中治療室の方へ移って下さい。」
ショウ「。。はい。」
不安はあったが今は金森にすがるしかなかった。
金森はショウの返答を確認すると内線で東風平を呼んだ。
間もなく、コンコンとノックがして
「失礼します。」と東風平はショウの部屋に来た。
しかし、入って来た東風平の表情は先ほどとは別人のように暗かった。
金森「東風平君。特別集中治療室へ他守さんを案内してくれたまえ。私は準備に入る。」
と、言うと金森は慌ただしく病室を出ていった。
東風平と二人になり、部屋がシーンと静まり返る。
ほんの数秒だったろうか?
しかし、ショウにはその僅かな沈黙が耐えきれなかった。
ショウ「あの、コチンダさん。。特別集中治療室ってどこにあるんですか?」
東風平「地下10階になります。。。」
ショウ「あの、僕はどうなってしまうんでしょう。。?」
東風平「。。。。」
ショウ「コチンダさん?」
東風平はショウの目を見ると直接会話(SP)でショウの心に話しかけた。
東風平→ショウ:「聞こえますか?」
ショウは驚いて思わず声を上げそうになったが慌てて東風平はショウの口を塞いで首を振った。
ショウはそれを見て、何も言わず大きく首を立てに振った。
東風平→ショウ:「他守さん。聞いて下さい。今からコンソールを出してメインを黒魔道士にジョブチェンジしておいて下さい。
ここは地下ですのでテレポトは使えません。ですが地下10階に行く前ならディメンションで脱出可能です。
地下10階は古の技術が使われており、入ればナノマシーンに制御がかかります。
恐らく他守さんでも脱出は困難です。
どうか逃げて下さい。。」
ショウ→東風平:「このタイミングで俺が逃げたらコチンダさんの立場はまずくなるんじゃないですか?」
ショウは東風平の手が震えているのに気がついた。
ショウ:こんなに怯えるって。。一体あの金森という人はなんなんだ?
ショウ→東風平:「先にあなたを逃がす。」
東風平はハッとしたが有無を言わせずショウは「ディメンション2」と唱えた。
詠唱ポーズを取るとショウの足元に黒い魔法陣が現れ、同時に現れた黒い空間の中に東風平は消えた。
空間魔法で瞬間移動させたのだ。
と、同時に病院内に警報音がこだました。
ショウ「か、感知された??」
アナト→ショウ:「おい!今のは何だ?」
ショウ→アナト:「魔法でコチンダさんを外に飛ばした。俺たちもここを出よう。」
アナト「魔法?お前、魔法が使えるのか?」
思わず擬態を解いたアナトがキョトンとしている所に数人の男達が駆けつけた。
男達「動くな!」
全身黒尽くめに黒いニットキャップ、サングラスをつけた5人ほどの男が入り口を固めた。
その手には銃器を持ってその先を向けている。
ショウは思わず「うわっ」と声を上げて驚き両手を上げた。
病室内に緊張感が走る。
しかし、アナトは相変わらず涼しい顔をしていた。
男A「おい!女!お前も両手を上げろ!」
と、一人が言うと他の者も一斉にアナトに銃口を向けた。
アナトは涼しげに微笑み
アナト「なんだ?それで威嚇しているつもりか?」
と、言い終わった瞬間に男Aの姿が忽然と消えて銃器だけが床に重々しくガチャリと落ちた。
男B「貴様!!な、何をした!?」
アナト「さぁな」
と、嘲笑うように微笑むアナト。
ショウは顔面蒼白になった。
ショウ:うわぁぁ。ここで『さぁな』かよ。。アナト怖ぇぇ。
ショウ:それにしても、どうなってんのあれ?魔法じゃなさそうだし。。。?
などとショウが思っている間にも
男Cは「くっ」と顔をしかめバン!バン!とアナトに向けていきなり数発発泡した。
銃声と共にキィーンという金属音が鳴り響き、銃弾はアナトに直撃するが、そのままクシャリと弾は潰れてカラカラと床に転がった。
アナトには全くダメージがない様子だ。
アナト「何かしたか?」
その言葉と共に、次は男Cの姿が銃器を残して忽然と消えた。
ゴトリと落ちる銃を見て他の男達は後退りしながら狼狽えた。
その時、男達の後ろから金森医師の大きな、そしてどこか冷静で威圧的な声が抜けてきた。
金森「何事かね!?銃を下ろしなさい!!」
男達はすぐに銃を下ろし左右に割れると、その間を通って今度は金森が入って来た。
金森「他守さんこれは何の騒ぎですか?」
そしてアナトに気付いた金森は訝しげな表情で
金森「君は。。?。。東風平君はどうしたのかね?」
男B「博士危険です!既に我々のうち2名がその少女によって姿を消しています!」
金森「姿を。。。?」
金森は驚きアナトに問う。
金森「君、一体何をしたというのかね?消えた二人をどこへやったのかね?」
アナト「さあな。今頃深海でゴミ粒にでもなっているんじゃあないか?」
アナトが金森に視線を向けようとした瞬間、男Bは金森をかばって金森の前に立ちはだかった。
その瞬間、男Bも忽然と姿を消した。
同時に男Dは金森を外に逃がしてドアを閉じ、ロックをかけた。
男D「博士、危険です。時間を稼ぎますのでここは退いて下さい!」
金森「。。。わかった。。後は任せる。」
金森はそう言うと廊下を駆け抜け、各区画の壁についたカードキーにカードを通して防御壁を閉めてまわりながら退避していった。
アナト「なぁ、折角だから地下10階とやらを見に行かないか?」
ショウ「え?逃げないのか?」
アナト「お前もお前に関する情報は欲しいだろう?」
ショウ「そりゃあそうだけど10階は脱出困難とか言ってなかったっけ?」
アナト「こっそりバレないようにお前を助けるのは難しいが隠れる必要がなければ話は別だ。もうバレてしまったし堂々と行こう。」
ショウはアナトの目を見てゆっくりと頷き
ショウ「。。。わかった。」
と答えた。
アナト「よし。ではまずお前のその情けない格好をとうにかしろ。」
言われてショウはようやく我に返り、慌ててコンソールから装備を選ぶ。
ショウ:さっき黒魔道士にジョブチェンジしたから。。『暗黒シリーズ』でいくか。
コンソールで選び決定を押すと装備がゲームさながらに切り替わった。
黒い魔女帽子というよりは古い形のトリコーンといった三角帽子にこれまた黒いいかにも魔道士といった膝までのローブ、黒いズボンに黒いミトンそして黒い尖ったブーツといった黒ずくめの姿になった。
帽子で顔が影になった分、赤い目の光がよくわかっていかにも魔法使いといった感じだ。
アナト「ふむ。人混みではなかなか目立つが逃亡するならまぁオムツよりは良いだろう。」
ショウ「ちょっとさっき飛ばしたコチンダさんの安否だけ確認するから待って。」
とショウは東風平に直接会話(SP)を入れる。
ショウ→東風平:「コチンダさん!コチンダさん!大丈夫ですか?!」
すると弱々しい声で返事があった。
東風平→ショウ:「。。。!他守さんですか?は、はい。えっと。。大丈夫です。」
ショウ→東風平:「?。。本当に大丈夫ですか?今どこですか?」
東風平→ショウ:「施設のすぐ外です。だ、大丈夫です。他守さんは大丈夫ですか?特別集中治療室へは?」
ショウ→東風平:「な、何か行かなくて済んだんですがやっぱり行くことになっちゃって。。でも大丈夫です!すぐそっちに行くんで待ってて下さい!」
アナト「おい!もう行くぞ!」
ショウ→東風平:「ごめんなさい!もう行かないと!」
ショウは直接会話(SP)を切ってアナトに駆け寄った。
ショウ「ちょっと待ってよ!」
アナト「まったく、いつまで待たせる気だ」
そしてアナトはロックされた扉に目を向けると今度は扉ごと消しさった。
ショウ:スゲー。。。
ショウ「ホントにそれどうなってんの。。?」
アナト「さぁな。それより外に一人、敵の気配があるぞ。」
と、まるで警戒している様子もなくアナトはショウに忠告した。




