20話 ハンバーグ
700年近い長き眠りから覚めたエンキは右も左もわからなかった。
エルヴィンからの手紙を頼りに施設の外や中を探索していくと食事を得る方法が分かった。
そしてリビングルームへ来ると食料庫で聞いたハウスキーパーが現れた。
目の前にいる女性はTシャツにジャージパンツにベージュのエプロンといういかにもハウスキーパーという感じの服装で笑顔でたたずんでいる。
歳は20歳位に見える。
金髪のポニーテールで呼吸から視線や細かな仕草から見てもとても彼女がアンドロイドとは思えなかった。
声もちゃんと声帯と肺を使って発声している様に見えた。
本当にアンドロイドなんだろうか?
機械にしてもそんなに長く壊れない機械なんて作れるものなんだろうか?
と、色々思いつつも流石に呼び名がハウスキーパーマミイはないと思った。
エンキ「ハウスキーパーマミイはちょっと長くて呼びにくいわ。マミイさんでいいかしら?」
エンキがそう言うと、とても残念そうに
「そうですか。。。かしこまりました。」
と答えるマミイだった。
それでもエンキは
エンキ「マミイさん、宜しく。凄いのね、とてもアンドロイドには見えないわ。」
と話を続けた。
マミイ「ありがとうございます。お身の回りのお手伝いが出来る日が来た事を嬉しく思います。」
エンキ「良かった。こうして話が出来る相手がいる事がこんなにも心強いものなんて知らなかったわ。」
マミイ「では、お食事の様ですのでとりあえずキッチンへどうぞ。」
そう言うとエンキをキッチンに案内した。
キッチンは小さなシンクとテーブルと椅子、それからここにもまたさっきのよりは小さいが何かの装置と食器棚があるだけの簡素なものだった。
マミイ「お飲み物はどうなさいますか?」
食事の乗ったトレイをテーブルに置き、席についたエンキはマミイが尋ねるとまるで喫茶店にでも来たかの様な口調で
エンキ「そうね。。とりあえずお冷を頂けるかしら?」
と言うと、トレイにあったナイフとフォークを手に取り食事を始めた。
マミイは頷くと食器棚からグラスを取り出して先程の装置に入れる。
すると、装置からグラスにチョロチョロと冷水が注がれた。
特に何かのボタンを押したという訳でもなく程よく冷えた冷水が何の操作もなく注がれたのだ。
しかし、エンキは既に目の前のハンバーグに夢中だ。
お皿に盛られたハンバーグはデミグラスソースがかけられており、そこに半熟玉子ととろけるチーズが散りばめられていた。
サラダはキャベツの千切りとキューリと人参のスライスにコーンとクルトンが散りばめられている。
そしてドレッシングはシーザーでこちらにもやはり半熟玉子が乗っている。
一体どうやったらこんな物があの短時間にあの材料の水槽から作れるのだろう?
不思議で仕方なかったが、匂いも見た目も間違いなくエンキの知っているそれだった。
そして一口食べる。
ジューシーな肉汁が口の中にとろけだし半熟玉子とデミグラスソースとのハーモニーが絶品だった。
エンキは目を丸くして驚いた。
エンキ「これは。。。!」
脳がしびれた。
舌が歓喜にうち震えトレイの上のハンバーグが輝いて見える。
そして遥か昔、若かった頃にアヌと行ったJAPANのドッキリゴリラというハンバーグ店を思い出した。
楽しかった日々がまるで昨日のことの様に思い起こされる。
いつしかエンキの顔は緩みきってしまっていた。
しかし次の瞬間、ハッと我に返って取り繕う。
エンキ:なんて美味しさなの。。
エンキは一瞬違う扉を開かれた様な気がしていたがこの世界の情報を得るという使命がエンキを呼び戻した。
エンキ:危ないわ。。危うく大切な事を忘れる所だったわ。。
それでも自慢げに「オイラの作る物は特別だからね!」と言っているエルヴィンの姿が頭をよぎるとエンキはくすりと笑う。
マミイ「どうかされました?」
エンキ「え?いえ、な、何でもないわ。」
エンキ「それよりマミイさん、あなたには聞きたいことが沢山あるわ。」
マミイ「何なりとどうぞ。」
エンキ「ありがとう。じゃあ食事が済んだらリビングでお話しましょう。」
マミイ「わかりました。」
そしてそれからしばしの間、エンキは食事を楽しんだのだった。
それは至福の表情だったと言う。




