18話 リミッターの完成度
700年近い長き眠りから覚めたエンキは右も左もわからなかった。
唯一の情報はエルヴィンからの短い手紙のみ。
一体ここはどこなのか?
エンキは探索を始める。
エンキは手紙を置くと部屋を見渡した。
20畳程のその部屋の壁際に2台の生命維持装置、それを挟む様に両脇に扉がある。
そして足元を見るとそこにも小さな箱があった。
開けてみるとその箱には白い運動靴が入っていた。
履いてみると丁度いいサイズ。
ナノマシーンも気になるが、靴を履くとやっぱり外の様子が知りたくなって外の様子を見る事にした。
エンキ「外に出るのは。。こっちね。」
右の壁の扉のL字型のごつい取手を重そうに回して扉を開けると扉の外は何もかもが朽ち果てていた。
一体どの位の時間が経てばこんな事になるのだろう?
壁もところどころ割れて崩れている。
気温もかなり低く、まるで冷凍庫を開けた様な冷気だ。
患者衣に素足に運動靴という寒そうな格好で息を白くしながらエントランスの出口まで恐る恐る近寄る。
出口から光が差し込んではいるがカプセル内部は相変わらずの薄暗さだ。
ガラスのドアがあったろう痕跡から表に出るとちょうど簡単に登れそうな高見やぐらのような物があったので登ってみた。
すると目の前に広がっているのは見渡す限りの廃墟だった。
薄暗いせいか余計にそれが不気味に見える。
もはやカプセル全体が放棄されている雰囲気だ。
このカプセルはもう死んでいる。。。
エンキは静かにそう悟って先程の部屋に引き返す。
エルヴィンの手紙にあった通り、出てきた扉の脇にはパネルがあった。
果たして人類は生き残っているのだろうか?
そんな事を思いながらパネルに手をかざしてロックを解除し、生命維持装置のある部屋へ戻る。
外の景色を見たエンキの動揺は大きく、ため息をついた後しばらくはそのまま一点を見つめて物思いにふけった。
それから左側の壁の扉から研究室へ向かう。
左側の壁の扉はエンキが近づくと赤いランプが緑に変わり自動的に開いた。
何かしらの認証システムが入っている様だがそれが何なのかは見た目には分からなかった。
廊下へ出ると一斉に照明がつく。
急に明るくなったが目を細めてよく見ると、ふかふかした青い絨毯が敷いてある。
そしてそこにベージュ色した布製のスリッパが2足置いてあった。
ここも先程まで真空だったのかまるで劣化が見られない。
エンキはスリッパに履きかえると隣の部屋の前へ行く。
すると先程同様に扉が開いてに中に入れた。
扉が開くと同時に照明がつくのが分かる。
部屋の中は真ん中に大きな装置があり、沢山の計器と円運動をする機械が並んでいる。
部屋にはその装置のメンテナンスロボットが2台、エンキに気がついて一度カメラを向けたがまた元の状態に戻って特に動くこともなくたたずんでいる。
恐る恐るその装置に近づき横にあるデスクのキーボードに触れる。
すると空中ディスプレイが立ち上がりパスワードを聞かれた。
エンキは少し迷ってから自分の知っているパスワードを入力すると認証はあっりと通り画面に情報が映し出された。
一瞬ホッとしたが表情はまた緊張に変わり中のデータを読み解いていく。
リミッターは完成しているのだろうか?
していなけれはこれからどうすれば良いのだろう?
色々な思いがエンキの胸の中で渦巻いていた。
心臓の鼓動が高まるのを感じていた。
そしてついに明らかになる。
空中ディスプレイにリミッターの完成度を示すプログレスバーが表示されるとエンキはそれを見て自分の目を疑った。
その数値はエンキの期待を大きく裏切っていたのだ。
リミッターのナノマシーン共生率は78%
そしてこのモニターに映し出されている西暦は2911年。
ここでエンキはあの眠りから700年近い年月が経っていることに気がついた。
エンキ「に、2911年。。。」
エンキは頭を抱え込んで狼狽する。
単純に考えても700年弱点で78%なら早くてもまだ完成までには100年以上かかる。
エンキ「え?うそ?」
エンキ「そんな。。。まだ100年以上も。。。」
生命維持装置は自分には直す自身が持てない。
かと言ってこのままではジリ貧になってしまう。
とにかく情報が足りない。
この廃墟となったカプセルの外はどうなっているのか?
外に他のカプセルがあったとしたもそこまで行く手段はあるのか?
エンリルはまだ起こせない。
ここに置いてもいけない。
ぐるぐると色んな思いが頭を駆け巡る。
エンキ「と、とにかく情報を集めないと。。」
エンキはまず、この装置の端末から得られる情報を探した。
しかし、この端末にはナノマシーンに関する情報しかなく外のネットワークとも繋がっていなかった。
当然である。
そういったサービスには定額の料金を払い続けなければならないからだ。
では電力はどこから来ているのか?
その情報は端末にあった。
この部屋や生命維持装置等の電力はナノマシーンによる生体電気によって賄われていた。
発電用のプラントがありそこで発電用のナノマシーンに適合した動物細胞が死ぬことも老いることもなく働き続けているのだ。
この部屋から得られる情報を確認し終えるとエンキは部屋を出て更に奥の部屋へと向かった。
エルヴィンはこの奥に食料庫と生活する為の施設があると書いていた。
そこなら何か情報があるかも知れない。
エンキはそう期待しながら次の扉を開いた。




