表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編

スパイラル・カーブ

作者: 青井渦巻

思い付きをそのまま書きました。

俺の好きな音楽、それはヘビーメタルだ。あの腹にずしりとくる重い音、それでいてご機嫌な楽器群。たまらん。


「音量下げるね?」


しかし俺の趣味は理解されていない。この女はヘビーもメタルもまったく興味がない。

付き合ってからの1年間、俺はコイツに必死でヘビーメタルを刷り込ませようと努力した。だが、いつまでたってもコイツは「うるさい」の1点張りで、比較的静かなイントロさえも聴こうとしない。今もそうだ、車内に流している初心者用の楽曲詰め合わせCDの音量を下げた。小さすぎてもはや聞き取れないレベルまで下げた。

それでも俺は抵抗し、どうにかコイツの注意を音楽に向けさせようとして、ノリノリで体を揺らす。曲が盛り上がってくると(耳を澄ませないと分からないのだが)、頭も深く激しく上下させる。


「鬱陶しいんだけど?」


それもダメ。コイツ、すべてを受け入れないつもりだ。

仕方なく体を静止させ、窓の外を眺める方にシフトする。何度となく通ったこの道の景色はとうに見慣れているし、別段面白くもない。面白くないついでに、俺はこっそりとMDのボリュームを弄ろうと手を伸ばす――


「あのさ、いい加減にしてくれない?あたしも乗ってるんだから少しは配慮してよ。そもそも運転手はあたし。あんたは助手席でボーっとしてればいいかもしれないけど、あたしは運転に集中しないといけないんだって。ねぇ、分かって?なんでそんなに無神経なの?なんであたしのこと労わってもくれないの?曲が聴きたいなら一人の時にやってよ、こっちもあんたの趣味にまでうるさく口出しするつもりないから。それが出来ないんだったら…もう別れる?」


ボリュームが上がったのはこの女の方だった。

別れる。また、まただ。コイツの口癖だ。この女は別れるなんてことが人質になるとでも考えているのか。自分が固執されるほど魅力的だとでも勘違いしてるのか?


「おい、そこ曲がれよ…」


「ッチ…分かってる、黙って!!」


「そうかよ」


ああクソ、タバコはどこにやったかな。ポケットの中に見当たらない。もしかすると、家に忘れてきたかもしれない。気が紛れない、とても不愉快だ。

こういう時こそヘビーメタルが聴きたい。ずっしりと腹に響くあのサウンド…


「分かった。事故らせたいんだね。」


「…なんでだよ。」


ほら。こうやって、俺の好きなものは全部コイツに奪われていくんだ。ずけずけと心を蝕むこの罵声。なんでこんな女と付き合ってるんだか。

家に帰ったらまずビールだ。絶対にビール、もう邪魔はさせない。俺の楽しみを奪われるわけにはいかない。


「あんたが一番好きなものってなに?」


「気持ち良いことなら、なんだって好きだ。」


最後のいつも通りの質問を、俺はいつも通りに流した。流れたこの言葉は目の前の分かれ道を左に曲がって、この道を通る時にまた出会うことになると思われる。

ご清覧ありがとうございました、もし誤字あったらすんません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ