84話 使い魔
「……来た」
「あ、本当だ」
セロルの言葉を聞いて門の方へと目を向けると、砂煙を巻き上げながら物凄い速さで、レイフェルト姉とルシアナが此方へと向かってきてた。
「ラゼル!!」
「お兄様ぁ!!」
二人は息を切らしながら僕の所へくると、そのままいつもの様に抱きつこうとしてきたけど、
「って、ど、どうしたのよラゼル、そんなに傷だらけで…………何があったの!?」
「……お、お、お兄様から、血が、血が出てますわッ!! ど、どうしてこんなことに…………」
僕の満身創痍な姿を見て、立ち止まった。
良かった、流石にこの状態で抱きつかれたら辛かったからね。
「お疲れ様、ルシアナ、レイフェルト姉。無事で良かったよ」
二人にしては珍しく、全身が擦り傷だらけだ。
それ程の相手だったってことだろうけど。
「わ、私達が無事でもお兄様が全然無事じゃありませんわッ!! こんなに怪我を負って……早く治療しないとですわ」
これまで訓練中にいろいろ怪我をしてはきたけど、確かに今回のは今までに経験したことのない程の怪我だ。
でもクラーガさんやザナトスさん達に比べたら軽傷だし、死んでしまった人達に比べれば生きてるだけでも感謝しないと。
「大袈裟だなルシアナは。僕は大丈夫だよ。血は出てるけど思ったより傷は深くないし。ていうかリファネル姉さんは? 姿が見えないけど」
「リファネルはすぐに来ると思うわ。――――それよりもルシアナ、貴女ラゼルに信頼できる護衛をつけたって言ってたわよね? 何でこんなことになってるのかしら?」
レイフェルト姉が、ルシアナの肩を揺する。
「はっ、そうでした…………セロル、貴女がいながら何でお兄様がこんなことになってるんですのっ!? 説明を求めます」
ルシアナの視線は、さっきから僕の傍で無言のまま佇んでるセロルへと向いた。
良かった、さっきから二人してセロルについて触れないから、僕にしか見えてないかもとか思っちゃったよ。
ていうより、ルシアナはセロルのことを知ってるっぽいけど、知り合いなのかな?
「ラゼルと一緒に戦って魔族を撃退した。何も問題ない筈」
鼻息荒いルシアナとは逆にセロルは、事もなげな様子で淡々と答えた。
「それでお兄様が怪我してたら意味ないですわッ!! 何の為に貴女を護衛につけたと思ってるんですの!? 問題しかないですわ、大問題ですッッ!!」
セロルに近付いていき、両手で頬を引っ張るルシアナ。
「……痛い」
仲のいい姉妹みたいだ。
「……えっと、二人はどういう関係なの? 護衛って聞こえたんだけど」
「セロルは私の使い魔ですの」
驚きの答えが返ってきた。
確かにさっきの戦いじゃ人間離れしたことをしてたけれど、見た目は人間にしか見えないし、僕はそういう魔術もあるんだなくらいに思ってたよ……
そもそも使い魔って喋れるの?
「何百回も言ってるけど、私は使い魔なんかじゃない」
少しムッとした感じで反論するセロル。
表情は変わってないけど、何となくそんな感じがした。
「フンッ、私の魔力で現れたんですから使い魔と一緒ですわ」
「ルシアナは暴君」
言い争う二人。
何だか微笑ましい光景だ。
「それよりも早くラゼルを治療できる場所に移動しましょ」
「わっ、ちょレイフェルト姉、恥ずかしいよ」
怪我をした箇所を刺激しないように、そっと僕を抱き抱えるレイフェルト姉。
所謂お姫様抱っこ状態だ。
「その足じゃ歩くの辛いでしょ? 今は我慢してちょうだい」
「……ありがとう」
いつものふざけた感じじゃなくて、本当に心配そうな顔で言われたので、素直にお礼を言う。
「――――――――ラ、ラゼル……?」
「あ、リファネル姉さん。良かった、無事だったんだね」
レイフェルト姉に抱き抱えられた僕の前に、リファネル姉さんが暗い表情で現れた。
この世の終わりみたいな顔をしてる。
「その怪我はどうしたんですか、いったい誰にやられたんですか、何があったんですか!!?」
「えーっと、これは――――――」
「はいはい、心配するのはわかるけど質問は後にしましょう。今は治療が最優先よ」
僕の言葉を遮るようにして、レイフェルト姉が言った。
「私に回復魔術が使えれば良かったのですが……」
その横でルシアナが悔しそうに顔をしかめた。
あらゆる魔術を扱い、その無尽蔵の魔力で賢者と呼ばれてるルシアナだけど、回復魔術だけは使うことができない。
ルシアナ曰く、回復"魔術"なんていわれてはいるけど、回復魔術はそもそも魔力では使うことは出来ないらしい。
回復魔術を使うときは、魔力とは別のよくわからない別の力が働いてるんだとか。
そのよくわからない力を持つ人達のみ回復魔術を使える。
勇者パーティのヒリエルさんもその一人だ。
数の少ない魔術師だけど、その中でも更に珍しいのが回復魔術を使える人だ。
まぁ全部ルシアナが教えてくれたことなんだけどね。
賢者が言うことなんだから間違いないだろう。
その後、僕は姉さん達が戻ってきた安心感からか、いつの間にか意識を失っていた。




