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83話 二つの斬撃

 


 ラゼル達が必死で戦ってる最中、こちらでも異次元の死闘が繰り広げられていた。


 ルシアナがあらゆる魔術を駆使して、魔族の強化された体を徐々にだが確実に削っていき、その合間を縫ってレイフェルトとリファネルが弱った部位を斬り込む。


 今までの敵と違い、一度で致命傷を与えるのは困難と判断した三人は、こうした一見地味とも見える戦い方に転じざるを得なかった。


「ああもうっ!! 本っ当に嫌な相手ねッ!!」


 レイフェルトが苛立ち混じりに声を上げた。


「ええ、ですがだんだん終わりが見えてきました。それよりもルシアナ、さっきからゼル王国の方が騒がしいですが、本当にラゼルは大丈夫なのですか?」


 ゼル王国内で何かが起こってることを、リファネルは感じ取っていた。


 ラゼルを何より大事に思うリファネルは、彼方が気になって仕方なかった。

 本当ならこの場は二人に任せて、自分だけでもラゼルの元へと行きたい所たが、ルシアナがさっき言っていた通り三人で戦った方が早く終わる。

 決して勝てないとまでは思わないが、一対一だと時間が掛かりすぎる敵だった。


「安心して下さいな。少しムカつく所もありますが、実力は確かな護衛をつけましたので」


「……ならいいのですが」


 賢者とまで呼ばれる妹の言葉を聞いて、ひとまず安心するリファネル。



「ガーッハッハッハッ!! 楽しくなってきなぁ、オイッ!!」


 魔力で強化して鉄壁を誇っていた魔族の体だが、先ほどからルシアナの魔術、リファネルとレイフェルトの斬撃を受け続け、あちこちから血が流れ出ていた。


 だがそれでいてなお、不敵に楽しそうに笑う魔族。




「まずは一番厄介な魔術師、お前をすり潰すッ!!」


 降り注ぐ火の雨を全身に浴びながらも、漆黒の剣で斬り掛かってくる。


「フン、やってみろですわ」


 ルシアナが魔術で創りだした火の雨で、僅かとはいえダメージを受けてる筈だが魔族は止まらず、遂にはルシアナのすぐ近くまで到達していた。


 だがそれでもルシアナに焦った様子はない。


「――――なッッ、なんだこれは!?」


 それはまさに天変地異クラスの魔術だった。

 魔族の下の地面が広範囲で盛り上がり、巨大な体を持つ魔族を見えなくなる程の高さまで押し上げた。


「お姉様方、お願いします」


「任せなさい、細かく斬り刻んであげるわ」


「ええ、任せて下さい」


 リファネルとレイフェルトが空に向けて、剣を振った。


 レイフェルトの数千もの斬撃、リファネルの空をも斬り裂かんとする巨大な一筋の斬撃。


 二人の攻撃は宙で交わりながら、一直線に空に、魔族の元へと飛んでいった。


 斬撃が魔族に当たった瞬間、激しい轟音と共に雲が弾け、空気を震わせた。


 そして少しして、ズシンッッという音と振動が響き、魔族がズタボロの状態で空から地面へと落ちてきた。




「……流石に終わりよね? もう動かないわよね?」


 地面に仰向けで倒れる魔族を遠目に、レイフェルトが言った。


「どうでしょうね……。これで終わりならありがたいですが」


 リファネルはまだ警戒を解かない。


「これで生きてるようなら、私の全魔力で今度こそ滅しますわ!!」


 今日一日で何度も大規模魔術を放ってるにも関わらず、魔力切れを起こす気配は微塵もないルシアナ。




「――――――――痛ってぇなぁ、畜生。まさか、これ程とは正直思わなかったぞ」


 あれ程の総攻撃を受けたにも関わらず、魔族は生きていた。

 ゆらりと立ち上がり、三人を見下ろした。


「……何ていうか、素直に称賛するわよ。その頑丈さ…………」


 呆れ気味にレイフェルトは首を横に振る。




「ガハハ、さぁ続きを始めようぜッッ!! ガーッハッハッハッハッハッハ!!――――――――んぁ?」


 傷だらけの体で漆黒の剣を構え、再び戦闘が開始されようとしていた時、魔族がゼル王国の方から飛んでくる物体に気付いた。


 パシッと、魔族はその飛んできた物体を大きな手で見事にキャッチして、呟いた。


「――――――ベネベルバ、いったい何があった?」


 飛んできたのはラゼルとセロルによって吹き飛ばされてきた、ベネベルバだった。


「コホッ、も、申し訳ありません、魔王様……少し油断しました」


 ベネベルバは口から血を吐きながらも、自らの足で立ち上がり魔王の姿を見た。


 そして驚愕した。


「…………魔王様!? そのお姿はいったい…………そちらこそ何があったと言うんですか!!?」


 体中ボロボロで斬り傷だらけの魔王を見て、ベネベルバは驚きを隠せなかった。


 おかしい、いくら魔王様が戦うことが好きな戦闘狂だとしても、これ程の傷を負うなどあり得るのかと。


「ガハハ、なぁにかすり傷だ!! お前をここまでにするとは、王国内にも強いヤツがいるのか。人間も侮れねーなぁ!!」


「……申し訳ありません、すぐに片付けてきます」


「いや、待て」


 再びゼル王国に戻ろうとするベネベルバを魔王が止めた。


「今回は出直すぞ、俺も久々に楽しめた」


「……はい、魔王様がそう望むのなら」


 漆黒の剣を宙に放り投げる魔王。

 すると、何もない空間に亀裂ができて、その中へと消えていった。


「ちょっと、このまま無事に帰れると思ってるのかしら? こんなに傷だらけにしてくれちゃって」


 相手も確かにボロボロだが、レイフェルト達も無傷とはいかなかった。

 所々流血している。


「ガハ、俺は帰ると言ったら帰るぜ、何者も俺を止めることはできねぇ――――――――行くぞ、ベネベルバ」


 魔王の指示に従い、白いドラゴンへと姿を変えたベネベルバ。


「なッッ、ドラゴンになったわよアイツ!?」


 レイフェルトは驚きながら、白いドラゴンを見上げた。


「そんなことは今どうでもいいです、そこの魔族、あなた王国の方から来ましたが、ラゼルに危害を加えてないですよね?」


 リファネルの言葉に一瞬ポカンとなったベネベルバだったが、ラゼルという言葉には聞き覚えがあった。


 そういえば、あの少年がラゼルと呼ばれていたなと。


「フフ、あの少年のことですか。どうでしょうね、まだ生きてるといいですが」


 ベネベルバもラゼルが死んだとは思っていないが、リファネルの口調からしてラゼルを大切に思ってることは容易に想像できた。

 だから最後に嫌がらせ、とはいかないまでも嘘の一つでも言ってやろうと、そんな軽い気持ちだった。


 だがそれが間違いだった。




「――――――ガッッッ…………な、何が起こったのですか!?」


 リファネルの剣を持つ腕が、僅かに揺れたように見えた。

 本当にそれくらいの変化だった。


 気付くと、ドラゴンに変化しているベネベルバの右の翼が地面に土煙を上げて落ちていた。


「ぐッッ……馬鹿な、私は今斬られたのですか? いったいどうやって!?」


「……ラゼルに何をしたのか言いなさい」


 再度リファネルの剣がブレた。

 今度は左の翼が地面へと落ちた。


「――――――ガァッッッ……何が起こってるというんですか!?」


 ラゼルのことで我を忘れたリファネルの剣速が速すぎて、ベネベルバにはそれが視認できなかった。

 故に、何が起こってるか理解出来なかった。


「……次は首を落とします」


「チッ、翼を落とされちゃ飛べねーじゃねーか……仕方ねーな」


 リファネルの刃がベネベルバの首を斬り落とす直前、魔王が何か石のような物を手に取り、それが眩く光を放った。


「――――お前らとはまた戦いてえなぁ、あばよ」





 光が収まると魔族の姿はなく、その場には鬼の形相をしたリファネルが残されていた。


「早くラゼルの無事を確かめなければ…………二人ともすぐに戻りますよ――――――――って、おろ?」


 余りの怒りにリファネルは気付いてなかったが、ベネベルバがラゼルのことを喋った直後、レイフェルトとルシアナはリファネルを残し、ゼル王国へと駆けていたのだった。



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