82話 光の渦
「ほぉ。理由はわかりませんが、その人間のことを相当気にいってるようですね」
今まで僕を助けてくれていた少女に話しかけながらも、目線をチラチラと僕の方へ向ける魔族。
「別に…………ちょっと興味があるだけ」
少女は表情を変えずに答えた。
「そうですか。少し興味がある程度ならば、退くことをおすすめしますよ。この国はこれより我々魔族の拠点となるのですから」
「あなた達こそ退くことを勧める。あっちで戦ってる仲間も苦戦してる」
ベネベルバの後ろ、門の外で戦闘中であろう姉さん達の方向を指差す少女。
「確かに、魔王様にしては少々時間が掛かり過ぎな気はしますが…………まぁ、いつもの悪い癖で戦いを楽しんでるのでしょう」
ん!? 今、魔王って言わなかった?
聞き間違いかな?
ヤバい……ますます頭がこんがらがってきたよ。
魔王がどれだけ強いかは、勇者の物語で何度も読んだ。
でもその時の魔王は、初代勇者パーティに倒された。
今現在の魔王を名乗る魔族がどんだけの強さかはわからないけど、相手が魔王なら姉さん達の苦戦も納得できるような気もしてくる。
「一つ忠告する。今あなたの仲間が戦ってる三人の人間は、普通じゃない」
「ふ、あなたにそこまで云わせる人間とは……私も興味が湧いてきました。では、あなたとそこの人間を排除した後で様子を見に行くとしましょうか」
そう言って、今度は全身をドラゴンの姿へと変えたベネベルバ。
そしてすぐに、ブレスを放った。
「ラゼル、私を信じて」
「えっ!?」
いつの間にか、僕の目の前にまで移動してきていた少女。
そう言った直後、少女の体は淡い光と共に消えてしまった。
ブレスはすぐ近くまで迫ってきている。
「どうすれば……」
『斬って』
再び先ほどと同じように、頭に声が響いた。
「……無理だよ、あんなの斬れる訳ないよ。僕は姉さん達とは違うんだ」
『大丈夫。私を信じて。剣を振るの。早くしないと間に合わなくなる』
選択肢は限られていた。
このまま何もせずにブレスで消滅するか、少女の言葉を信じるか。
「――――――ッッッだぁぁぁ!!」
抉れた右足の痛みを堪えながら、僕は持てる全ての力を振り絞って、剣を振った。
ありえないことが起こった。
夢でも見てるようだった。
僕が剣を振ると光の渦のような、わけのわからないものが出現して、ブレスを呑み込んだ。
「なッッ……!!?」
ブレスを呑み込み、勢いを更に増した光の渦は、ドラゴン状態のベネベルバを直撃した。
ベネベルバは光の渦の中でボロボロになりながら、門の向こう側へと吹き飛ばされていった。
「今のを……僕が!?」
とても信じられなかった。
僕の実力は僕が一番わかってる。
「そう。私の力をラゼルに混ぜた」
「うわっ、ビックリした!!」
再び少女が僕の前に現れた。
さっきの一撃といい、頭に響いた回避の声といい、この少女はいったい何者なんだろう……
「混ぜたってどういうこと?」
「簡単に言えば、私がラゼルの体に憑依した。二人の力」
憑依って…………ベネベルバも別の次元がどうのとか言ってたし、本当に人間じゃないのかな……
「何が起こったかはわからないけど、君が助けてくれたのはわかるよ、ありがとう」
「……セロル」
「ん!?」
「私の名前」
「そっか。ありがとう、セロル。僕の名前は――――――ってそういえば何で僕の名前知ってたの?」
さっきから当たり前のように僕の名前を呼んでいたけど、名乗った記憶はないし、今日が初対面なはずだけど。
「ずっと見てたから。だからわかるの」
ん~……答えになってないような気がするけど、今はいいか。
それよりもクラーガさんとザナトスさんが心配だ。
僕は二人の所へ、急いだ。
足を怪我して上手く歩けない僕を見て、途中セロルが肩を貸してくれた。
「これは酷い……」
二人はかろうじて息はしていたけど既に意識がなく、全身ボロボロだった。
生きてるのが奇跡、それくらいの傷を負っていた。
「どうすれば……ポーションはもうないし……」
せっかく危機を乗り切ったのに、このままじゃ二人が死んじゃうよ……
「――――――騎士団長!?」
声が聞こえ振り向くと、そこには騎士団の人が二人立っていた。
「君、何があったんだ、ドラゴンは何処に!?」
「ドラゴンは何とか撃退しました、でもその際に二人が攻撃を受けてしまって」
「成る程。――――――おい、急いで運び出すんだ。絶対に死なせるな」
本当に良かった。
これで安心、とは言いきれないけど、後は二人の生命力にかけるしかない。
「さぁ、君も一緒にくるんだ」
「いえ、僕は大丈夫です。それよりも二人を早く治療してあげて下さい、お願いします」
戻ってきた騎士団の人は二人。
それぞれがザナトスさんとクラーガさんを運ぶとして、足を怪我してる僕のペースに合わせてたら治療が遅れてしまう。
「……わかった、すぐに戻ってくるからここで安静にしててくれ」
僕の足の怪我を見て察してくれたのか、騎士団の人達はザナトスさんとクラーガさんを背負い、急ぎ気味に戻っていった。
「ふぅ…………もうクタクタだよ」
立ってるのも辛くなってきたので、壊れた家屋を背に座りこむ。
「ラゼル、大丈夫?」
セロルが聞いてくる。
顔には出さないけど、何となく心配してくれてるのかなっていうのは伝わってくる。
「少し痛むけど大丈夫だよ」
声だけ聞こえてた時は敬語で喋ってたけど、その幼い容姿を見てからは普通に喋ってた。
ルシアナくらいの年齢だろうし大丈夫だよね?
色々考えたいことはある。
さっきの攻撃でベネベルバを倒すことは出来たのか、セロルは何者なのか、姉さん達の相手は本当に魔王なのか。
でも体中痛くて、考えるのも億劫だ。
今は姉さん達が無事に戻ってくるのを、ここで待とう。




