75話 漆黒の剣
【魔王(女)が臭い足を舐めさせようとしてくるんだが】の方もボチボチ更新するので宜しくお願いします。
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「ガハハッ、いいぞ、いいぞっ!! もっとだ、もっとこい!!」
魔族の愉しげな笑い声と、剣を弾く音が響き渡る。
リファネルとレイフェルトの攻撃を腕で弾いているが、ガキンガキンと響くその音は、まるで剣が硬い鉄のようなものに当たってるかのようだった。
「くっ、やはり硬いですね……」
「まったくだわ……どれ程の魔力を籠めればこんな硬度になるのかしら」
「どうした、腕を斬り落とすんだろ？ やってみせろ!!」
常人には捉えることも不可能な二人の猛撃。
さすがの魔族もその全てを受けきる事はできず、首筋や胸、至るところを斬られてはいるが、血を流す程の傷は負わせられてない。
ほとんどがかすり傷のようなものだった。
「さっきは急の事で焦ったが、もう油断はしないぜ。お前達は間違いなく強者だ。もっと俺を楽しませろ!!」
「これは一筋縄じゃいかなそうねぇ。早く帰りたいのに」
「まったくです。まぁ、勝てない相手ではないですが」
魔族の巨体を蹴り、一度距離をとる二人。
「仕方ないわ。あんまり好きな戦い方じゃないけど、地道に削っていきましょ」
一度は距離をとったが、再び魔族の元へと突っ込むレイフェルト。
だが今回は二人で斬りかかるのではなく、リファネルはその場から動いていなかった。
「ガハッ!! 二人でも駄目なのに、一人で戻ってきてどうする!!」
レイフェルト目掛け、巨大な手が振り下ろされる。
指一本一本が人間と同じくらいの大きさはあるであろう掌。
それに速さが加わり、想像を絶する威力になった攻撃。
魔族にとってはただ力いっぱい掌を叩きつけただけであるが、普通の人間、いや、あらゆる生命体にとってそれは、当たれば必殺の一撃になるであろう。
激しく揺れ、砕ける大地。
「そんな大振りの攻撃、当たるわけないでしょっ!!!!」
当たれば致命傷を免れぬであろう攻撃を更なる速さで交わし、レイフェルトは魔族の懐へと入っていた。
そして腰の剣を握り、抜刀した。
普段ならばすぐに"カチャン"という、鞘に剣を収める音が聞こえてくるが、今回は聞こえてこない。
代わりに剣が空を裂く音と、魔族を斬る鈍い音だけが延々と聞こえてくる。
ガキンガキンと、相変わらず魔族の強靭な体は刃を弾く音を響かせるが、
"ザクッ"
ある時を境に、音が変わった。
それは間違いなく、レイフェルトの斬撃が魔族へと届いた証だった。
「グッッ……、小賢しいんだよっ!!」
苦し気な声を漏らした後で、目を見開いた魔族。
瞬く間に目の前に、黒い魔力の光が集まっていく。
そして、レイフェルトを排除しようと、漆黒の光線が放たれた。
魔族の真骨頂、魔術。
人間にも使える者はいるが、魔族のと比べると魔力量も威力も劣ってると言わざるを得ないだろう。
「っぶないわねぇ、今よリファネルッ!!」
レイフェルトが魔術をかろうじて避けながら叫ぶ。
「ふふ、上出来ですッ!!」
「あん？ 」
魔術を放った後の魔族の眼前にはリファネルが立っていた。
無防備な状態の魔族へ、リファネルの剣が振るわれる。
一瞬といわれる間に何度も斬りつけるのがレイフェルトの剣だとするなら、リファネルのは真逆。
一太刀で何もかもを両断する剛剣。
"ボトッ"
地面に何かが落ちた。
あらん限りの魔力を腕に籠め、リファネルの一閃をガードした魔族であったが、その刃は止まることなく、魔族の肘から先の部位を斬り落とした。
「グッ、ガァァッッ……」
落ちた腕の上に、ドクドクと止まらぬ血が滴る。
「何故だ……」
少し前まではなんなく弾いていた筈の攻撃。
何故腕を落とされたのか、理解できなかった。
「あんたも馬鹿ねぇ。どれだけ魔力で体を強化してもね、斬ってれば削れて失くなってくものよ、魔力って」
「その弱った所を私が斬ったってだけです。それにしても安心しました。シルベストを襲った魔族のように再生したらどうしようかと思いましたが、その様子を見る限り無理そうですね」
腕を強く押さえ出血を止める魔族を見る。
リバーズルに関しては痛覚があるのかさえ謎だったが、この魔族は確実にダメージを受けていた。
「さぁ、もう終わりです。この隙を見逃す程、私は甘くないので。最後に何か言い残すことはありますか？」
弱りつつある魔族に近づいていくリファネル。
「……言い残すことだと？」
「ええ。敵とはいえ、貴方かなり強かったですよ。私が今まで戦った者のなかでも、間違いなく三本の指に入るでしょう。本当はこんなこと聞く前に止めを刺したい所ですが、今回は二対一だったので、せめてもの慈悲です」
「ガハッ、ガハハハハハッッ、ガハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!!!!!」
盛大に笑う魔族。
その巨体から発せられる声は大きく、ゼル王国へ避難した騎士団達にも聞こえる程だった。
「…………急にどうしたんですか？ そんなにおかしなことを言ったつもりはないのですが」
「リファネル、ちょっと様子が変よこいつ」
「フゥ、本当によぉ、こんな楽しい気分は何年ぶりだ？ 最っ高過ぎるぜ、お前達!!!!」
突如、魔族の体から溢れでる膨大な魔力。
魔術だろうか、何もない空間にヒビが入りその狭間から剣が出現した。
刀身から柄の部分まで、全てが漆黒の剣。
「ほらぁ、あんたが"言い残すことはありますか？" なんて調子に乗ってるから、また変なのが出てきたじゃないの!?」
「ふむ。あの剣、何か嫌な感じがしますね」
「"ふむ"じゃないわよ、まったく」
止めを刺す為近付いていた二人だが、ただならぬ雰囲気を感じとり、その場から一時離脱する。
「ガハッ、これを使うのは久しいな」
空間の切れ目に腕を突っ込み、剣を引き抜く。
異変はすぐ現れた。
まず地面に滴っていた血が、魔族の傷口へと吸い寄せられていく。
そして次に、その血を辿るようにして、斬り落とされた腕が魔族の体へと戻っていく。
「………………ねぇ、これって振り出しに戻ったんじゃないかしら？ 腕……くっついたんだけど!?」
「ええ、見ればわかります。本当に厄介な種族ですね、魔族とは」
