7話 報酬
シルベスト王国に戻る頃にはすっかり日も暮れていた。
「魔石の鑑定と買い取りお願いします」
「す、すごい量ですね……Dランク冒険者の方がこれだけの魔石を持って来たのは初めてですよ……」
受付カウンターにて魔石が大量に入った袋を出す。
受付のお姉さんは朝と同じ人だった。
「この量だと、鑑定に少々お時間がかかりますが大丈夫ですか?」
「じゃあ飲食スペースにいるので終わったら教えてください」
「「乾杯」」
鑑定に少し時間がかかるとの事だったので、今日はこのままギルドで食事をとる事になった。
魔石のお金が入ってから贅沢しよう。
「プハァーッ、これよこれ! この時の為に生きてると言っても言い過ぎじゃないわね~!!」
「……おっさん臭いよ、レイフェルト姉」
グビグビとお酒を飲み干してくレイフェルト姉。
もうジョッキで4杯目に手をつけていた。
酔うと面倒くさいから嫌なんだよなぁ。
でも今日の白いゴブリンは本当に危なかったな。
今こうして晩飯を食べてるのが奇跡のようだ。
確実に殺されると思ったからなぁ……
そしてそのゴブリンを、いとも簡単に葬った目の前の酔っぱらい、もといレイフェルト姉。
剣聖とは冒険者ランクだと、どのくらいの実力なんだろうか?Aランクの魔物を一撃と考えるとAランクは確実にあるはずなんだけど……もしかしたらSランクくらい強かったりしてね。
でも世界でも9人しかいないって言ってたし、流石にないか。
「ちょっとぉ~、私の話きいてうの~?」
うわ、もう完璧にできあがってるよ。
呂律が回ってない。
「ごめん聞いてなかったよ、なに?」
「だから~今日はラゼルの初依頼成功祝いなんだから、もっと飲みなはいよぉ~」
そういってお酒の入ったジョッキを押し付けてくるが、僕はまだお酒を呑める年齢じゃない。
「僕はまだ飲めないから、ジュースで付き合うよ。それで勘弁してよ」
「じゃあせめて隣にきなさい」
隣に座るくらいいいかと、向かい側のレイフェルト姉の横に移動する。
だがこれが間違いだった。
「えへへ~ラゼルぅ、可愛いわね。いい子いい子」
隣に座った瞬間に頭を胸に抱き寄せられる。
ボフッと顔が胸に埋まる。ああ、いい匂いがする。それに撫でられるのも気持ちいい。
このまま眠ってしまいそうになる気持ちを抑えて、
「ちょレイフェルト姉、離してってば」
何とか抜け出す事に成功する。
「まったく、いくら弟みたいに思ってるからってやり過ぎだよ」
ラルク王国を一緒に出てからずっと、レイフェルト姉のスキンシップが激しくて困る。
「ふふふ、弟みたいだからって理由だけでここまでしないわよ」
お酒のせいで顔が赤いせいか、凄い色っぽくみえる。
「え? それってどういう事?」
他にも理由があるのだろうか? なんだろう、見当もつかない。
「ラゼルさん、魔石の鑑定が終わりました」
鑑定が終わったらしいので、食事を終えカウンターにむかう。
途中レイフェルト姉が、「もう、いいところだったのに」とむくれていたけど気にしないことにした。
「あのー、お二人に確認なのですが、魔石に白いゴブリンの物が1つあるんですけど……もしかして戦ったりしました?」
「はい、戦いました。倒したのは僕ではないですけど……」
そう言って、僕の腕に絡みついているレイフェルト姉に視線を向ける。
「そうですか……わかりました」
白いゴブリンを倒したと聞いて、周りの冒険者達がヒソヒソとこちらを見てくる。
「これは買い取り分の100万ゴールドになります、ご確認ください」
ん? 今この人なんて言ったんだ? 100万? え?
受付カウンターの机に乗せられた袋の中を確認すると、そこには見たことないほどの大金が入っていた。
えーと、宿に一泊するのが大体1万ゴールドくらいだから、その100倍?
「それとギルドマスターがお二人に話を聞きたいそうなので、明日また来ていただけますか?」
登録したばかりの冒険者がいきなりAランクの魔物を討伐したのだ、疑われて当然だ。
白いゴブリンの魔石があるのは事実なのでお金は貰えたが。
また明日行くという約束をして、僕達はギルドを出た。
「いきなり100万ゴールドなんて、凄いね冒険者って。はいレイフェルト姉」
宿に向かう途中、僕は自分の分のお金を少しだけ抜いてから、残りを全部レイフェルト姉に渡した。
こんな金額になったのは間違いなく、白いゴブリンの魔石があったからだ。
そしてそれを倒したのはレイフェルト姉で、僕は震えていただけだ。
「あら? そんなにいらないわよ私」
「でもあの白いゴブリンを倒したのはレイフェルト姉だから。多分あれが凄い高かったんだよ」
「もうラゼルったら、私達はパーティなのよ? パーティの報酬はパーティのものよ! 私は必要になったらいうから、それはラゼルが持ってて。もちろん自由に使って構わないわ」
「レイフェルト姉……」
どうやら僕達がパーティを組むのは決まってるらしい。
というよりもうパーティらしい。
「申し訳ありません、この時間ですと一部屋しか空いてません」
宿に着くと昨日とまったく同じ言葉が、猫耳の女の子から返ってきた。
横でレイフェルト姉がニヤニヤと笑っている。
今日は色々あって疲れたし仕方ないか。
渋々ながら昨日と同じく、レイフェルト姉と同じ部屋で泊まることになった。
朝起きると、当たり前のようにレイフェルト姉は僕のベッドに寝ていた……