69話 別の個体
書籍化について、活動報告に書きました。
良ければ見て下さい。
初日に作戦会議をした建物に入ると、中にはナタリア王女とザナトスさん、そしてラナが椅子に座っていた。
その周囲には他にも何人か騎士団の人が立っている。
「どうやら落ち着いたようですね」
建物に入るなり、そう声をかけてきたナタリア王女。
その視線は僕というよりも、姉さんやルシアナの方に向いていた。
「はい。ご迷惑をおかけしました」
姉さんとルシアナはというと、さっきまでの様子が嘘だったんじゃないかと思えるくらい、機嫌が良さそうだ。
ルシアナに至っては、僕にベッタリとくっついて離れようとしない。
正直、かなり歩きづらかった。
無駄に体を擦り付けてくるし…………
「迷惑だなんてそんな、あなた達が居なければ被害はもっと大きくなっていました。本当に助かりました」
「いえ、それに全員が無事だった訳じゃありませんし……」
ここに着くまでの間、辺りの様子を見てきたけど酷いものだった。
夜も更けた頃だというのに外には人が沢山いて、皆パニック状態で、騎士団の人達がそれを収めるのに追われていた。
僕達と同じ宿にいた人達や、その後ろの建物に住んでいた人達は、ドラゴンのブレスで跡形もなく消失してしまった。
恐らくだけど、数百もの命が失われた。
僕は姉さん達がなんとかブレスに気付いたお陰で助かったけど、あと少しでも遅れてたらきっと………………
想像するだけで、背中から嫌な汗が流れるのを感じる。
「それでも、皆さんのお陰で被害が抑えられたのは事実です。多くの人々が犠牲になってしまいましたが、私達には下を向いてる暇はないのです」
ナタリア王女の言うとおりだ。
白いドラゴンは倒したとはいえ、明日には大量の魔物がこの国へと押し寄せてくる。
油断はできない。
「そういえばあなた、ピクシィでドラゴンを監視してたんですよね? それでいて、なんでこんな事態になったんですか? 大規模魔術を放てる人数の魔術師がいるんです、もしブレスに気付いたのなら防御くらい出来そうなものですが」
僕にくっついたまま、ルシアナがふいに口を開いた。
「……今日きてもらったのはその事なんですが。………………これを見てください」
ルシアナの言葉を聞いて、ナタリア王女は水晶を取り出して、僕達に見えるように置いた。
初日に見た大きいものとは違い、片手で持てるような小さな水晶だ。
王女の肩に乗ったピクシィが、水晶へと映像を映した。
「えっっ!? なんで…………」
なんと、水晶には白いドラゴンが空を飛んでる姿が映し出されていた。
どういうことなんだろうか?
今さっき、姉さん達が確かに倒した筈なのに…………
「どういう事かしら?」
レイフェルト姉も訳がわからないといった感じで、水晶を見ていた。
「私達は一時もドラゴンから目を離してはいませんでした。
信じ難い事ですが、先程この国を襲ったドラゴンは、この水晶に映るものとは別の個体ではないかと思われます」
って事は、またあのブレスがいつ飛んできてもおかしくないってことじゃないか?
怖くて今夜は寝れそうにないよ…………
「一番の問題は、クラーガ君を含めた『炎極の業』のメンバー全員が戦闘不能という事だ。我々は明日、Sランク冒険者抜きで白いドラゴンと戦わねばならない」
重い口調で、ザナトスさんが口を開いた。
「ザナトスの言うとおりです。明日はかなり厳しい戦闘が予想されます。こちらも相当数の騎士団で望みますが、どうなるかはわかりません。明日に備えて、一応報告だけはしておこうと思いまして。遅くにすいませんでした」
※
ナタリア王女の話を聞いた後、僕達はまた新しく手配してもらった宿で体を休める事に。
ラナはナタリア王女の部屋に泊まってるみたいだ。
もう朝になるまでそんなに時間がないけど、少しでも寝ておかないとね。
またブレスが飛んでくる可能性について、姉さん達に聞いてみたんだけど、ルシアナが周辺を使い魔で見張ってるから大丈夫らしい。
「次ブレスがきたら、弾き飛ばしますわ」とか自信満々で言ってたから、一先ず安心して寝れる。
ザナトスさんやナタリア王女は厳しい戦いになるって言ってたけども、僕はそんなに心配してなかった。
姉さん達、白いドラゴンを瞬殺してたし。
あの時は、姉さん達とクラーガさん達で協力してドラゴンを倒したって伝えたけど、ザナトスさん達はきっと、ほとんど『炎極の業』の人達が倒したと思ってるんだろうね。
だからクラーガさん達が戦闘不能状態になって、あんなに焦ってたんだと思う。
まぁ普通はそう思うよね。
それとさっきザナトスさんに、クラーガさん達の怪我の状態を聞いたんだけど、とりあえず命に別状はないみたいだ。
本当によかった。
宿についてすぐ、僕達は明日の戦いに備えて眠ることにした。
あんな事がなければ、とっくに寝てる筈の時間だしね。
姉さん達とルシアナが、緊張感なくいつも以上にくっついてきて寝苦しかったけど、自分でも思ってる以上に疲れてたのか、僕はすぐに意識を手放していった。




