66話 見直しました
ラゼル達から離れ、ドラゴンがブレスで壊した城壁から外に出るリファネルとレイフェルト。
「また飛ばれると面倒臭いので、とりあえず羽を斬り落とします。私は右を、貴女は左をお願いします」
普通片方の羽がなくなれば飛べなくなるだろうが、念には念を入れて、両方斬り落とすべきと判断した。
「わかったわ。それにしてもあの女、結構戦えてるわね」
「一応Sランクらしいですからね。これくらいは当たり前じゃないですか? でもだいぶ傷を負ってますよ」
「――――――ちょっと…………あいつまたブレス撃とうとしてないかしら? 大口開けてこっち見てるんだけど」
もうすぐでドラゴンへと辿り着こうかというとき、クラーガと戦闘中のドラゴンが二人の接近に気付き、口を大きく開け、ブレスを放とうとしていた。
口の中に、光が集まっていく。
「ふむ、避けるのは容易いですが…………」
肩越しに後ろを軽く振り返るリファネル。
「後ろにはラゼルが居ます。ついでにゼル王国もあります」
正直リファネルにとっては、国がどうなろうとそこまで興味はなかった。
シルベスト王国のように住むべき家があるわけでも、知り合いがいるわけでもない。
だが、そこにラゼルがいる。
それだけで、彼女にとってそこは、命に変えても守らなければならない場所になる。
「じゃあ――――」
「ええ――――」
「斬るしかないわね」
「斬るしかないです」
数日前、ブレスをドラゴンごと斬ったリファネルだが、今回の白いドラゴンのブレスの威力は、彼女の目から見ても異常だった。
「久しぶりに『あれ』をやりますよ」
「そうね、あの馬鹿げた威力だもの。もしもの事を考えたら『あれ』をやった方がいいかしら」
もちろん二人とも、一人でも何とかできる自信があったが、今回は後ろにラゼルがいる。
失敗は許されなかった。
「お前ら何やってんだっ、 さっさと逃げろっ!!」
ドラゴンがブレスを放とうとしてるのに、剣を構えた二人。
それにたいして、クラーガが叫んだ。
後ろに国があるのは彼女もわかっている。
だが、あのブレスの威力は剣でどうにかできるレベルを軽く越えている。
それにも関わらず、二人は焦った様子もなく、剣を構える。
「――――っっっクソがぁ、間に合えっ!!!!」
既にドラゴンとの戦闘で深傷を負っていたクラーガだが、渾身の力を振り絞り、全力で地面を蹴り、ドラゴンの真下へと走った。
「ッラァァァァァアア!!!」
そしてブレスが放たれる直前、彼女はドラゴンの無防備な顎に向けて、蹴りを喰らわせた。
その細身から放たれたとは思えない、あまりにも速く、重たい一撃。
一瞬、足が見えなくなるほどの速度だった。
彼女の蹴りによって、ドラゴンのブレスはリファネル達の方から、上空へと軌道を変えた。
雲を突き破り、空に大穴を開けたドラゴンのブレスは、不発に終わった。
「ガァァァァァァアアアッッッッッッ!!!」
顎を蹴りあげられ怒り狂ったドラゴンが、足元に倒れるクラーガを睨み、前足を振り上げた。
「へっ……………………ここまでか」
本当に最後の力を振り絞ったのだろう。
ドラゴンに一撃を与えた後で、クラーガは力尽き倒れた。
「もう体に力が入らねー、後は騎士団が何とかすることを祈るしかないか。どちらにしろ、俺の冒険は終わりだがな…………
全てのドラゴンをぶっ殺すって誓ったのに…………悔しいなぁ」
これから踏み殺されるであろう状況でも、クラーガの目は力を失っていなかった。
最後まで力強い瞳で、ドラゴンを睨み続けていた。
ズドンッッッッッッッッ!!!
そして――――――
クラーガの居た場所にドラゴンの足が振り落とされた。
地面が揺れ、その周囲は地割れが起きていた。
けれどドラゴンが前足を地面から上げると、そこにあるであろう筈の人間の死体はなかった。
「貴女、中々やるではありませんか。少し見直しましたよ」
「ええ、そこら辺の冒険者とは一味違うわ。けど、だからってラゼルに近付くのを許した訳じゃないわよ?」
クラーガは最初、何が起こったか理解するまでに時間がかかった。
もう後は死を待つだけだった筈なのに、自分はまだ生きている。
リファネルに抱き抱えられ、ドラゴンから少し離れた所にいた。
「助かった……色々聞きたいことはあるが、とりあえずは礼を言わせてくれ。ありがとう」
あんた達は何者なんだ? と聞きたかったが、とりあえずは飲み込む事にした。
――――あの距離を一瞬で詰めて、俺を救うなんて事が可能なのか?
いったいどれだけの速さなんだ。
「貴女はここにいてください。すぐに片付けるので」
「待ってくれ、アイツは二人でどうにかできる相手じゃない。騎士団と協力した方がいい」
今まであらゆるドラゴンを葬ってきたクラーガだが、この魔物の強さは他とは一線を画す。
二人を案じて提案したことだったが、返ってきた答えは意外なものだった。
「ふむ、そんなたいした敵には思えませんがね。まぁ安心して見てるといいです。あの蜥蜴の命はここで終わりです」
「じゃ、そういうことだから大人しくしてるのよ。貴女、結構重症よ? 無理したら死ぬわよ」
そう言って二人は、ドラゴンに向かって歩いていく。
そこに焦りだとか、緊張感は一切みられない。
まるで、勝つのが当たり前の戦いに身を投じるかの如く、剣を抜きながら進んでいく。
「ハハッ…………蜥蜴って」
仲間の事は心配だが、今の自分に出来る事はない。
クラーガは目を閉じた。




