63話 作戦会議
ラナが戻ってきて間もなくして、二人の男女が入ってきた。
女性の方はラナと同い年くらいだろうか、高そうな服を着ていて、どこか品がある。
貴族か王族の人かもしれない。
肩にはどこか見覚えのある生き物が、ちょこんと乗っている。
あれはこの前ルシアナが使役していた、ピクシィか。
男の方は、顔に多数の古傷がある、40代くらいの騎士だった。
なんだか近寄りがたいような、ただ者じゃない雰囲気を感じる。
顔の傷のせいもあるかもしれないけど。
この人がラナの言っていた騎士団長かな?
両手でかなり大きめの水晶を持ちながら入ってきた。
「おい、ありゃザナトスじゃねーか?」
「ああ間違いねー。すげー存在感だ」
「あれが、ゼル王国の『鉄壁』か」
他の冒険者の人達がヒソヒソ話をしている。
やっぱり凄い人なんだ。
見るからに強そうだもんね。
「皆様、今回はゼル王国の危機へ駆けつけてくれて、ありがとうございます。私はこの国の第一王女『ナタリア・ゼル』と申します。
急な話ですが、大量の魔物がこのゼル王国へと向かってきています、恐らく5日後には到達する見込みです。――――ザナトス」
「はい」
やっぱり王族の人だった。
しかも第一王女か。
ナタリア王女が指示を出すと、騎士の人が水晶をテーブルへと置いた。
「まずは私の使い魔が監視している、現在の魔物の様子を見て下さい」
ルシアナの時と同じように、赤いピクシィの目が光り、水晶に映像が映し出された。
「なんなんだこりゃ…………オーガやオークはわかるが、フレイムモンキーにロックスネーク、しまいにゃドラゴンまでいるじゃねーか……」
「聞いてはいたが、実際目にするとヤベーな」
「こんな事がありえんのかよ……」
映しだされた映像を見て、建物内に動揺が走る。
大多数をオーガやオーク等、Bランクが占めているものの、Aランクの魔物もそこそこいる。
そしてその上空を、無数のドラゴンが飛んでいる。
映像からもヤバさが伝わってくる。
Sランクのドラゴンまで複数いるなんて…………
今のところ、白いドラゴンは見えないけど。
本当に何が起こってるんだろうか…………
「見ての通りです。我が国は今だかつてない程の危機に晒されいます。どうか、お力をお貸し下さい」
王女様が頭を下げる。
「冗談じゃねー、悪いが俺達は降りるぜ。命の方が大事だからな、いくぞおめーら」
「ああ、これはあまりにも分が悪い。この国はもう終わりだ」
次々と冒険者達が出ていく。
誰も彼らを止めない。
あの映像を見せられた後じゃ、無理もないような気もするけど……
二百人程いた冒険者は、もう半分以下になっていた。
けど二千の魔物達を相手にするとなると、二百人全員が残ったとしても無茶な気もするけど。
何か考えがあるのかな。
「いいぞいいぞ! 腕に自信のない奴はどんどん帰れ。ドラゴンは、俺が全て殺す」
クラーガさんが目をギラつかせながら、舌なめずりをして、水晶の先のドラゴンを睨んでいる。
最終的に残ったのは、僕達とクラーガさん、そして数組のパーティだけだった。
人数にして、五十人くらいだ。
半分以上減ってしまった。
「五十人程ですか、結構残ってくれましたね。ではこれより、作戦会議を始めたいと思います」
ナタリア王女は、人数が減ったことをあまり気にしてないようだった。
まるで想定内とでもいうように、話を進める。
「人数が減った事に関しては、あまり気にしないでください。この程度の映像を見て逃げ出す人達ならば、居ない方がマシです」
「この程度……ね。逃げ出すには十分な映像だと思うが、まだ何か隠してやがるのか?」
王女の言葉に、クラーガさんが食いつく。
「…………こちらをご覧下さい」
ザザッと、水晶の映像が切り替わった。
そこに映っていたのは………………白いドラゴンだった。
前にリファネル姉さんが斬った個体よりも、遥かに巨大だ。
映像だというのに、嫌な汗が頬を伝った。
「いいねぇ、最高だ! この手で白いドラゴンを葬れるなんて! あぁぁ、今から滾ってしかたねぇっ!」
体をクネクネさせながら、顔を赤くして、血走った目で水晶の中の白いドラゴンを見ている。
この人は戦闘狂なのかな…………凄い愉しそうに笑っている。
「作戦とはいいましたが、実際に倒すべきはこの白いドラゴンだけと思って頂いて構いません」
どういうことだろう、二千の魔物は?
「あん? どういうこった? ドラゴンは俺が全て殺すぞ」
「そう焦るな。ここからは私が説明しよう」
怪訝そうなクラーガさんを横目に、騎士の人が一歩前に出た。
「私はゼル王国の騎士団長をしている、ザナトスというものだ。
実は二千の魔物に関しては、もう対策済みなのだ。我が国の魔術師、総勢百人で超大規模魔術を放つ。予想ではそれで大方殲滅できるはずだ」
魔術師が百人って、とんでもない数だな。
でもそれならば、いけるかもしれない。
「だが、白いドラゴンの力は未知数だ。それに遥か上空を飛行しているため、魔術の範囲外になる可能性が高い。残ってくれた君達には、我々騎士団と共に、生き残った魔物の殲滅と、白いドラゴンの相手をしてもらいたい」
「ちっ、しょうがねー。今回は白いドラゴンだけで勘弁してやるか。だが、ドラゴンの生き残りがいたら俺が殺すから邪魔すんなよ」
ラナに聞いてはいたけど、クラーガさんのドラゴンに対してのこの執着はなんなんだろうか。
「そういう訳で、作戦と言えるようなものでもないが、当日は宜しく頼みたい」
魔物の到達は5日後と言うこともあって、その日は残りの冒険者達と挨拶をして、解散になった。
クラーガさんが頻繁に話しかけてきたけど、その度にルシアナと姉さんに邪魔されていた。
大男は最後まで椅子でグッタリと倒れたままだった。
夜はラナが用意してくれた、少し高めの宿に泊まることに。
一人一部屋とってくれてたのに、何故か皆僕の部屋に集まっていた。
「白いドラゴン、強そうだったね。大丈夫かな?」
「恐れることはありません。この前倒したではありませんか」
そうだけどさ……大きさも全然違うし、白い特殊個体だし、やっぱり不安だ。
「そんなに心配なら、今から私が倒して来ますわ」
「ちょ、落ち着いてよルシアナ」
ルシアナが強いのはわかってるけど、あれに一人で挑ませるのは駄目だ。
「相変わらず心配性ねぇ、ラゼルは。そこが可愛いところでもあるんだけどね」
「……胸が当たってるってば、レイフェルト姉」
絶対わざとだろうけど。
「ふふ、当ててんのよ」
やっぱりね。
「でも今回はクラーガさんもいるし、安心だね」
『ドラゴン殺し』って言われてるくらいだから、心強い。
「もぅ、あの女の話はしないでちょうだい。お姉さん妬いちゃうわよ」
レイフェルト姉はクラーガさんを女性だと思ってるのか。
「いやいや、クラーガさんは男の人だよ。だから姉さん達が気にする事ないと思うんだけど」
なんでこんなにも、クラーガさんに反応するんだろ。
「あんな発情臭漂わせて、男なわけないでしょ。あいつは間違いなく女よ」
「えっ?」
「そうですよラゼル。あの女には気をつけてくださいね」
「次お兄様に近づいたら、今度こそ串刺しですわ」
女性だったのか…………確かに綺麗な人だったけど。
でも良かった。
僕がドキッとしたのは女の人だったんだ。