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6話 白いゴブリン

 


 ガラの悪い冒険者二人組のせいで変に注目されてしまったので、その視線から逃げるように受付をササっとすませる。



「はい、依頼受付完了しました。今回の依頼ですとキャニオ森林でのゴブリン退治になります。数に決まりはありませんので、討伐したらした分だけギルドで魔石を買い取らせていただきます」


 魔石というのはゴブリン等の魔物を倒すと出現する石の事である。

 これをギルドにいる鑑定士に見せると、どの魔物の魔石か判別してもらえるのだ。

 だから嘘をついてもすぐにばれる。


 それでもゴブリンの魔石をワイバーンの魔石と偽って、売ったりする詐欺は後をたたないようだ。


 今回の依頼はキャニオ森林での、増えすぎたゴブリンの討伐、ようは間引きだ。


 ゴブリンとは全身緑色の、人間の子供くらいの大きさで、角が額に二本生えた魔物である。

 魔物の中では一番認知度が高く有名だ。


 現在大量発生していて、シルベスト王国付近まで降りてきて、子供を拐ったりするもんだから問題になってるらしい。


 こいつらは人間程とはいかないが、普通の魔物より知能が高い。

 基本的に単体で行動することはなく常に数体で動いていて、落とし穴等の罠も仕掛けてくる。


 一応Dランク指定の魔物ではあるのだが、油断して足元をすくわれる冒険者は後をたたない。


 よし! 初依頼だし油断せずにいこう!


「待ってください、最後にひとつだけ」


 受付の、お姉さんの話を聞き終わった後、気を引き締めて向かおうとして、呼び止められる。


「白いゴブリンをみたら逃げてくださいね。最近キャニオ森林付近で目撃情報があるんですよ」


 白いゴブリン? ゴブリンって緑以外の色もいるのか? 初耳だ。

 それにしても逃げろとは何故だろうか、ゴブリンなのに。


「そんなに危険なんですか、白いゴブリンって? それとも何か理由があって倒しちゃいけないとかですか?」


「はい、とても危険です。討伐が禁止されてる訳ではないのですが、強すぎて倒せないのです。今までになん組ものパーティが犠牲になっています。その中にはBランクの冒険者も何人か居たのですが……」



 ゴブリンに限った話ではなく、白色の魔物というのは普通の個体とは違っていて、通常よりも何倍も強くて厄介らしい。


 今までに何人も犠牲になっている事から、白いゴブリンはAランク指定の魔物として扱われてるとか。


 お姉さんが丁寧に説明してくれた。


 要は、Dランクの僕達なんかじゃ絶対に勝てないから逃げろって事だ。



 ま、滅多に遭遇する事はないらしいし、大丈夫だよね。



 そして今度こそ僕とレイフェルト姉は、初依頼でキャニオ森林に向かうのだった。
















 シルベスト王国を出発して西に歩くこと半刻、僕達はキャニオ森林に到着した。


 木々が生い茂った獣道を慎重に歩きゴブリンを探す。



 大量発生してるというだけあって、ゴブリンはすぐに見つかった。


 最初のゴブリンは三体で行動していた。


「レイフェルト姉、先ずは僕が行くよ!」


 ラルク王国に居たときにゴブリンとは何回も戦わされたので、大丈夫な筈だ。


 それに、レイフェルト姉がきたら一瞬で終わってしまいそうだったから。



 これからの事を考えると、何でも自分でできるようにしとかなくちゃまともに生活もできないからね。


「う~んそうね、あれくらいなら任せても安心かしら。でも危なくなったらすぐに行くわよ?」


 数歩先に敵がいるとは思えないほど緊張感のない、緩い声で返してくるレイフェルト姉。


 実際この人にとっては敵じゃないんだろうけど。




 まずは小石を僕達の反対方向に投げる。

 一瞬小石の方を見たゴブリンの隙を見逃さず、後ろから二体同時に首を跳ねる。


 すぐに二体は、消えて魔石になった。


 だが残った一体が棍棒を手に戦闘態勢にはいった。

「ギギャア」と奇声を発して殴りかかってくる。


 大丈夫だ、ゴブリンなら何回も倒したじゃないか。

 落ち着いて対応できれば負けることはないはずだ。



 スッと棍棒の軌道を読みかわす。

 だがゴブリンはかわされて空振りになった棍棒を、そのままの勢いでもう一度振ってきた。


 それも冷静にかわして、ザクッと剣を胸に突き刺す。


 最後の一体も魔石となった。


 だがさっきからどうしても気になってることがあった。


 ゴブリンがどう考えても弱すぎるのだ。

 三体もいれば負けはしないまでも、もう少し苦戦はすると思ってたのだが。


 少なくとも僕がラルク王国で戦っていたゴブリンは、こんなにトロくもないし攻撃にももっと威力があった。

 こんなに簡単に倒せるものではなかったのだ。

 おかしい……



「ゴブリンがあんまりにも弱くてビックリ! って顔してるわね? ふふふ」


「そうなんだよ、僕がラルク王国で戦ったゴブリンはもっと手強かった筈なんだ、でも今戦ったゴブリンは弱すぎな気がしてさ」


「それは当たり前よ、ラルク王国のゴブリンは修行の為に改良された、少し特殊なゴブリンだもの。強さも普通のゴブリンとは比べ物にならないわよ。今倒したのが普通なのよ」




 ふむふむ成程ね。


 て事はだ、いくら僕が剣や魔術の才能がないといっても、この森林のゴブリンにてこずる事は無さそうだ。


「どうりであっさり勝てると思ったらそういうことだったんだ……じゃあこの勢いでどんどん討伐して、今日は美味しい物でも食べない?」


「いいわね、大賛成よ! でもラゼル、いくら相手が弱くても絶対に気を抜いちゃだめよ? 一瞬の気の緩みが命取りになることだってあるのよ?」


「わかってるよ。じゃもう少し奥行ってみよう」









 それから僕達は、ゴブリンを倒しまくった。


 相変わらずレイフェルト姉の剣は速すぎて目では見えなかった。


 どんだけのスピードなんだろうか……


「これだけあれば結構なお金になりそうだね」


 僕とレイフェルト姉の魔石を入れる袋はパンパンになっていた。


 二人で50体は倒しただろう。


「そうね、そろそろ戻りましょうか。だいぶお腹も空いたわ」


「あ、ちょっと待ってて」


 満足したので帰ろうとした時、少しだけ離れた所に一体だけゴブリンがいる事に気付いた僕は、最後に倒してから帰ることにした。


 スパッ


 ゴブリンの首を斬り落として魔石を回収しようと、魔石に手を伸ばした時だった。





 全身を寒気が襲った。


 何事かと思い顔を上げるとそこには、全身真っ白な、僕の身長の二倍はあろうかという巨大なゴブリンが、僕を睨み付けていた。


 なんだこれ? 震えが止まらない、ヤバい! こいつは今までのゴブリンとは明らかに違う。

 色が白いとか体が大きいとか、そんな次元の話じゃない。



 コレは戦うとか逃げるとかそういう問題じゃない。


 こんなに死の恐怖を感じたのは生まれて初めてだった。


 恐い恐い恐い恐い恐いっ、嫌でもイメージしてしまう。

 これから自分がどうなるか。




 圧倒的な死の恐怖。




 今日僕は殺されるかもしれない……けどせめてレイフェルト姉だけは……


 震える全身を押さえ付けて、何とか声を絞り出す。



「レイフェルト姉!! 逃げて!!!」



 カチャン



「え?」


 レイフェルト姉が剣を鞘に納める音がした。




 え?この音が聞こえたってことは……



 恐る恐る後ろを振り返ると



「さ、早く帰りましょ! 今日は贅沢するわよ~!!」


 大きめの魔石がポツンと転がっていた。


 いつの間にか震えは止まっている。



「……うん……帰ろっか」




 とりあえずレイフェルト姉は、Aランク冒険者以上の強さを持ってる事は間違いないようだ……





 だってAランク指定の魔物を一閃だもの。





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