59話 出発
出発は明朝。
王国の手配した馬車が、家まで迎えにくることになった。
詳しく聞くと、魔物がゼル王国に辿り着くまでには、約十日ほどと予想されているらしい。
あくまで予想なので、早まる可能性もあるが。
ここからゼル王国までは、馬車で5日はかかるので少し急ぎ気味だ。
僕達が首を縦に振った瞬間、ラナは気が抜けたのか、その場で膝をついてヘタりこんでしまった。
よっぽど切羽詰まった状況だったのかも。
今は一度王城へと戻って行った。
「も~、まだ家を手に入れてから、数日しか経ってないのに」
「まぁまぁ、ラナを助けると思ってさ。それに国からお金も出るって言ってたし、頑張ろうよ」
さっそくグチを溢すレイフェルト姉を宥める。
Aランクの魔物は厳しいだろうけど、今回はBランクやCランクの魔物もいるって言ってたし、ちょうどいい。
僕が一人でもやれる所をみせる、いい機会が巡ってきた。
「ま、ラゼルがやる気みたいだし、お姉さんはラゼルが危なくならないように頑張るわ」
「ラゼルの近くには魔物を近づけさせないので、安心してください」
「お姉様達はともかく、私がいるのです。何千匹いようが、一撃で殲滅してみせますわ」
姉さん達の中では、僕が戦うって選択肢はないんだろうな…………
「その事なんだけどさ、今回は僕も戦いたいんだ。ほら、いつも姉さん達が倒しちゃうから、たまには僕も実践経験を積まないと。いざって時に感覚が鈍っちゃうから」
使い魔を通して僕の戦いを見てたんなら、Cランクの魔物くらいなら戦わせてくれるかな?
「ふぅ。ラゼルにも困ったものですね。わかりました、スライムに限定して戦う事を許可します」
スライムは害のない魔物の代表で、そこら辺の子供でも倒せる。
リファネル姉さんは駄目そうだな…………
「……レイフェルト姉」
僕はレイフェルト姉に助けを求めた。
初めての依頼の時、ゴブリンと戦わせてくれたし、リファネル姉さんほど厳しくない筈だ。
「別にいいじゃない、リファネル。危なくなったら私達がいるんだし。それにラゼルは、Aランクの魔物だって、頑張れば倒せるくらいの実力はあると思うわ」
うん、それは無理。
信じてくれるのは嬉しいけど、Aランクだった白いゴブリンを倒せる気がしない。
今の所はBランクの魔物を余裕で倒せるようになるのが、当面の目標だ。
「……わかりました。ですが、危なくなりそうだったらすぐに私が斬りますからね」
渋々ながらリファネル姉さんが了承してくれた。
良かった。何とか、戦う事はできそうだ。
「お兄様、そんな事よりも早くギルドに行きましょう」
「そうだね、そろそろ行こっか」
僕達は、皆でギルドに向かった。
大量のお金が入った、袋を持って。
暫く家を開けることになったとき、お金はどうしようかという話になった。
少しは持ってくにしても、今まで稼いだのを全部持ってったら邪魔にしかならない。
かといって、家に置いとくのも恐い。
そんな時に、ギルドにお金を預けられる事をラナが教えてくれたのだ。
しかも冒険者カードを見せれば、違う国のギルドでも引き出せるのだとか。
「すいません、お金を預けたいんですが」
大量のお金を机に並べながら、受付のお姉さんに声をかける。
「お金のお預かりですね、少々お待ち下さい」
「あと、冒険者登録をお願いしますわ。当然、お兄様と同じくAランクで」
別に今日登録しなくてもいいんだけど、ルシアナが姉さん達の冒険者カードを見て、一人だけ仲間外れは嫌だと言い出したので、ついでに作る事になったのだ。
お姉さんは、困った顔をしながら奥へと行ってしまった。
こんな小さな少女が、いきなりAランクからスタートさせろって言ってきたら、そうなるよね。
だけどセゴルさんなら、ルシアナの力を見抜いてAランクから始めさせてくれるかもしれない。
「おお、よく来たな。ラゼルに嬢ちゃん達。ん? 何だか一人増えてるな」
お姉さんが奥の部屋から、ギルドマスターのセゴルさんを連れて来た。
「僕の妹のルシアナです。今日は冒険者登録とお金を預けに来ました」
「Aランクからスタートしてくださいな」
やたらとAランクにこだわるルシアナ。
「はっはっは! いきなりAランクからか、どれどれ――――――ふむ、まぁよかろう」
いいのか…………
セゴルさんは暫くルシアナを見たあとで、すんなり許可してくれた。
Aランクって、こんな簡単になれるものなのかな?
実力的には、確実にAランク以上だけども。
「で、急に金を預けてどうした? どっか遠くに行くのか?」
「はい、ゼル王国に行く予定です」
「なるほどな。そういえばゼル王国から、応援要請が来てるらしいな。お前らが行くのか……」
セゴルさんはゼル王国の事を知っていた。
流石ギルドマスターだ、情報が早い。
「気をつけろよ。魔物が数千単位で動くなんて、聞いた事もないからな。きっと何かある筈だ。といっても、お前らに限って心配なぞ不要か」
「ありがとうございます。早く帰れるように頑張ります」
その後、ギルドで用事を済ませ、帰りにポーション等の道具を買い込んで、家に帰った。
ルシアナは、お揃いの冒険者カードが手に入って嬉しそうだ。
さて、準備は整った。
あとは、明日を待つだけだ。
二千の魔物とか想像もできないけど、ゼル王国にも結構人が集まるっぽいし、大丈夫だと思いたい。
そして、二千の魔物以上に不安なのが白いドラゴンだ。
いったいどれ程の強さかはわからないけど、弱い筈はない。
今回ばかりは、流石の姉さん達も苦戦するかもしれないなぁ…………
色々考えてたら、いつの間にか寝てしまったらしい。
目を覚ますと、朝になっていた。
当然、僕の周りには姉さん達が寝てる。
ルシアナに至っては、僕の上で寝てるし…………
「ほら、みんな起きて。そろそろラナが迎えにくるから」
各自用意を終え、外で馬車を待つ事に。
「すいません、お待たせしました。お乗り下さい」
大きめの馬車が到着して、中からラナが出てきた。
シルベスト王国を代表して、ラナも一緒にくるようだ。
僕達はゼル王国に向けて出発した。