55話 オーガ討伐
朝、いつも通りの暑苦しさで目を覚ます。
姉さん達に抱きしめられてる腕を外し、なんとかベッドを出る。
初めはガッチリと抱き抱えられていて外せなかったけど、何となくコツがわかってきた。
今日はギルドに行こうと思ってる。
お金に困ってる訳ではないけど、家にいても特にする事はないし、一人で剣を振ってるのも少し飽きてきた。
そろそろ相手が欲しい所だったので、僕でも倒せそうな魔物を倒しに行こうかと考えていた。
それに、お金は沢山あるけど、それらは全て姉さん達が手に入れたものだ。
なるべく、自分で手に入れたお金で暮らしたい。
なるべくだけどね…………
当然、僕が一人で行くと姉さん達がついてくる。
そうすると、僕が戦う間もなく終わってしまうので、今日は姉さん達に気付かれないように向かう。
「う~ん、何処にいくのかしら?」
レイフェルト姉が目を覚ました。
他の二人は寝たままだ。
「おはよう。ちょっと庭で剣でも振ってこようかなって。あと、そこら辺を軽くジョギングかな」
「そう、程々にね」
「うん、じゃ行ってくるね」
流石のレイフェルト姉も、庭まではついてこなかった。
嘘をつくのは心が痛むけど、こうでもしないと一人でいけないし、たまにはいいよね?
僕は家を出て、なるべく足音を立てないようにして、ギルドに向かった。
「おはようございます、ラゼルさん。今日は何か依頼を受けてくんですか?」
ギルドに入ると、いつもの受付けのお姉さんが笑顔で出迎えてくれた。
何だかもの凄く久しぶりに感じる。
実際はそんなことないんだけどね。
「おはようございます。魔物の討伐依頼を探してるんですけど、なんかオススメありますか? なるべく弱いのでお願いしたいんですが」
自分で掲示板を見て探してもよかったんだけど、せっかくなので聞いてみることにした。
「弱い魔物の討伐ですか? …………少々お待ちくださいね」
お姉さんは、なんだか不思議そうな顔をしている。
この人は僕がAランクの冒険者って知ってるから、こういう風に言っとかないと、Aランク相当の魔物をあてがわれてしまうかもしれない。
同じパーティの姉さん達が強すぎるだけで、僕自身の強さはDランクなのだ。
「えーと、この前と同じくゴブリンでもいいのですが、これなんてどうでしょうか?」
「オーガ……ですか?」
依頼書には、オーガの討伐と書かれていた。
オーガとは、成人男性と同じくらいの大きさの、額にデカイ角を生やした魔物だ。
実際に見たことはないが、確か推奨ランクはCランクだった気がする。
「ええ。ゴブリンより少し強いくらいですし、オーガは基本単独で行動してるので、戦いやすいかと」
うーん、ゴブリンより少し強いくらいならいけるかな?
普通のゴブリンは僕でも余裕だったし。
「それに、ゴブリンと違って魔石の買い取りだけじゃなく、討伐すること自体にも報奨金がでます。最悪、オーガを見つけられなかったとしても、ゴブリンを討伐すれば、魔石は買い取りますから、無駄足にはならないと思います」
なるほど、場所もこの前と同じキャニオ森林だし、丁度いいかも。
「それでお願いします」
ギルドを出て、僕は一人でキャニオ森林へと向かった。
向かう途中で、屋台で軽い朝食を済ませた。
うん、ポーションも持ったし、準備はオーケーだ。
なんだろう、この国に来て初めて、冒険者らしい事をしてる気がする。
なんだかワクワクしてきた。
キャニオ森林に着き、奥へ進んでいく。
オーガを探してる途中で、ゴブリンを何度か見かけたが、とりあえずは無視することにした。
今日の目的はあくまでオーガ討伐だ。
どうしても見つからなかった場合、諦めてゴブリンを倒して帰ろう。
「……居た」
奥へ奥へと進んでいったが、中々見つからず、そろそろ諦めも視野に入れ始めた頃だった。
遂に見つけた。
あの額のデカイ角、間違いない。
だけど…………少し大きい気がするな。
気のせいかな?
成人男性と同じくらいの大きさと聞いていたが、今僕の視界に映るオーガは、それよりも一回り程大きかった。
まぁ、人間にも大きい人もいれば、小さい人もいる。
魔物にも個体差はあるのだろう。
僕はオーガの正面に出て、剣を構えた。
後ろから奇襲をかけてもよかったのだが、一応修行も兼ねてるので、正々堂々と戦う事にした。
「ガアァァァァァァァァァッッ!!」
僕の存在に気付いたオーガは、荒々しい叫び声と共に拳を振り下ろしてきた。
「うわ……」
速さはそこまでなかったので、なんなく避ける事はできたのだが、オーガの拳が直撃した木が、へし折れていた。
一撃でも食らったら終わりだ。
「ガアァッッ!」
それから、オーガの拳を避け続けた。
まだ一度も反撃は出来ていない。
避ける事に集中していて、そんな暇はなかった。
「ガァッ、ガ……」
次第にオーガも疲れてきたのか、明らかにスピードが落ちてきた。
ここだっ!
かなりスピードも落ち、避けるのも容易になってきたパンチを避け、後ろに回り込む。
オーガはまだ此方を向いていない。
「っっだぁ!」
僕は無防備な首筋に向かって、思い切り剣を振った。
オーガは絶命し、消えていく。
その場には魔石だけが残っていた。
「ハァ、ハァ……何とか倒せた」
僕は魔石を袋に入れ、ギルドに戻る事にした。
ゴブリン以外の魔物を一人で倒した。
なんかもの凄い達成感がある。
たいした事じゃないんだけど、かなり嬉しかった。
帰り道、夕日がやけに綺麗に見えた。
「魔石の買い取りお願いします」
朝と同じ受付のお姉さんに、オーガの魔石を手渡す。
「お疲れです。少々お待ちくださいね」
魔石を受け取ると、お姉さんは奥に行ってしまった。
オーガの魔石か確認しているんだろう。
「お待たせしました。これが今回の報奨金と、魔石の代金です」
「少し多くないですか?」
元々貰えるはずの金額より、少し多かった。
「はい。今回ラゼルさんが討伐したのは、ハイオーガといって、オーガの上位種なんです。普通より大きくなかったですか?」
ハイオーガ? オーガにも色々いるのか。
確かに少し大きいなとは思ったけど、僕は普通のオーガを見たことがなかったので、こんなもんかと思ってた。
「なるほど……ちなみになんですが、推奨ランクは?」
「ハイオーガはBランクですね。流石はAランク冒険者です」
余裕はなかったけど、一人でBランクの魔物を倒せたってことか。
嬉しい誤算だ。
僕は上機嫌で家に戻ろうとして、気付いた。
外はすっかり暗くなっている。
ここまで遅くなるつもりはなかったんだけど。
姉さん達、絶対心配してるよね…………
次話から、毎日投稿じゃなくなります。
早ければ二日に一回。
遅くとも三日に一回でいこうと思います。
宜しくお願いします。




