50話 届かぬ刃
リファネル姉さんに戦いを申し込むハナさん。
パーティーで会った時と同じで、敵対心剥き出しだ。
「あららら? 誰かと思ったら、魔族が攻めてきたにも関わらず気絶していた、勇者パーティの一員ではありませんか? 私と戦う? 相手をよく見てから挑んだほうがいいですよ? 貴女はラゼルに危害をくわえようとしたので、戦うなら容赦はしませんが」
いつもよりも饒舌に喋るリファネル姉さん。
もしかしたら、お酒の影響もあるのかもしれない。
「あいかわらずムカつくわね…………魔族の事はファルメイア様に聞いたわ。でもね、私は貴女達が魔族を撃退したなんて信じちゃいないの。どうせファルメイア様が弱らせた所を上手くやったんでしょ? 私は私が見たものしか信じない」
「いいでしょう。ちょうど食後の運動がしたかったところです。軽く斬り伏せてあげましょう」
「ふん、ついて来なさい」
ハナさんがこちらに背を向け、歩き始めた。
ラナはお姉さんと仲直りしたがってたし、ハナさんに何かあればきっと心配するだろう。
「……リファネル姉さん、やり過ぎないでよ?」
「ええ、さっきはああ言いましたが、ちゃんと手加減しますよ。任せて下さい。それにラゼルは家で待っててもいいですよ?」
「いや、僕も行くよ」
多分大丈夫だろうけど、念のためにね。
いざとなったら姉さんを止めないと。
「お兄様が行くなら、私も行きますわ」
ルシアナが僕の手を握る。
うん、心強い。
最悪、ルシアナに止めるのを手伝ってもらおう。
「私は先に帰って寝てるわね」
レイフェルト姉は興味がないのか、家の方へと歩いて行く。
「ちゃんと自分の部屋の、自分のベッドで寝てね」
「ラゼルの為に、ベッドを暖めておくわね、それじゃ」
会話が成立しない…………
僕達三人は、ハナさんについていった。
「ここなら、周囲に人も住んでないし、思う存分戦えるわ。さぁ剣を抜きなさい」
そこは、シルベスト王国を出て、少し歩いた場所だった。
周りは木々に囲まれていて、僕達のいる場所を中心に円形に地面が広がっている。
誰かが、人工的に作った場所のようだった。
「実力の違いをみせてあげましょう」
お互い剣を抜く。
僕とルシアナは端っこの方へと下がって、二人の戦いを見守っている。
ルシアナは目を擦って、欠伸をしている。
眠そうだ……
「私から行くわよっ!」
先に仕掛けたのはハナさんだった。
魔術で剣に炎を纏わせて、リファネル姉さんへと斬りかかった。
ハナさんのスピードはかなり早いが、まったく見えない程ではなかった。
僕でも集中すれば、かろうじて見ることができた。
見えたとしても、対応できるかは別の話だけど。
姉さんは最初の一太刀をなんなくかわして、ハナさんの後ろに移動した。
「なっ!?」
避けられた事に驚きつつも、直ぐに後ろのリファネル姉さんへと向かっていく。
だがその攻撃も空振りに終わった。
リファネル姉さんは、一太刀目と同じように避け、また後ろへと回り込む。
今の所、攻撃を仕掛ける気はなさそうだ。
「ちょこまかと、スピードには自信があるみたいだけど――――」
ハナさんが右手で剣を構えつつも、左手をリファネル姉さんへと向ける。
「これでどうかしら?」
リファネル姉さんを取り囲むように、氷の柱がいくつも現れる。
氷に埋もれて、姉さんの姿は見えなくなってしまった。
「油断したわね、私が魔術師であることを忘れてたのかしら!? これで終わりよ!」
追い討ちをかけるようにして、次の魔術が放たれる。
ハナさんが炎を纏った剣を横凪ぎに振ると、炎の斬戟が氷に向かって飛んでいく。
凄い音が響いて、氷は粉々に弾け飛んだ。
けど、そこに姉さんの姿はなかった。
「……姉さん」
もしかして、脱出が間に合わなかったのか?
あれが直撃してたら、いくら姉さんでも…………
「ふぁ~、まるで子供のお遊びですわね」
ルシアナが欠伸をしながら、呆れた目でハナさんの後ろを見ていた。
僕もつられて後ろを見ると、何事もなかったかのように姉さんが立っていた。
あれだけの攻撃でも、服には汚れ一つ付いてない。
「なんで…………どうやって避けたのよっ? 私の魔術は完璧だった筈なのに、どうして!?」
後ろに立つリファネル姉さんに気づいたハナさんは、本当にわからないといった感じで、苛立ちながら叫ぶ。
「あれで完璧とは、笑わせます。そうですね、一つだけ教えてあげましょうか。貴女は自分が強く、才能にも恵まれてると思っているんでしょう?
実際、魔術も剣術も中々のものだと思います。ですが…………」
大人しくリファネル姉さんの言葉を待つハナさん。
「それは一般人から見たらの話です。剣の道を極め『剣聖』とまで呼ばれるこの私には、どちらも半端にしか映りません。そんな半端者の貴女が私に勝てる道理などありません。貴女程度の者は、私のいた国では珍しくもありませんでしたよ」
「…………剣聖……?」
「貴女の刃が、魔術が、私に届く事はありません」
前の話の後書きで、10万文字越えたっていったけど、少し足りてなくて越えてなかったです…………恥ずかしい(*/□\*)
でも今回の話で確実に越えました。
今度こそ、十万文字と50話達成です♪
(*^ω^)ノ