5話 冒険者ギルドへ
朝、窓から差し込む日差しの眩しさで目を覚ます。
「やっぱりか……」
昨日は宿が一部屋しかとれなかったので、仕方なくレイフェルト姉と同じ部屋で寝る事になったのだが、僕はまたベタベタとくっつかれるのが嫌だったので、先にお風呂に入って早々に寝てしまう事にした。
のだが、やっぱりというか予想通りというか、僕の隣にはスヤスヤと気持ち良さそうに寝息をたててる美女がいた。
何でベッドが2つあるのに、態々同じ所で寝てるんだこの人は……
また、くすぐって起こそうかとも思ったが、今回は本当に寝てるようなのでもう少し寝かせてあげることにする。
それから少しして、レイフェルト姉が起きたので宿で軽く朝食をとってから、当初の目的通り冒険者ギルドへと向かうことにした。
「それにしても、人のベッドに潜り込んでくるのはやめてよ」
朝起きて、隣に薄着の美女が寝てるというのは心臓によろしくない。
「そんなに警戒心がないと、いつか悪い男に襲われても仕方ないよ?」
「あら、それは大丈夫よ。私はラゼル以外の男にはあまり興味ないもの。それに、襲われたら襲われたで斬り捨てるだけだもの」
それは弟としてだよね?
こちらに、軽く微笑みながら答えるレイフェルト姉。
昔から一緒に居すぎて、たまに忘れてしまいがちだけど、この人は剣聖にも劣らない強さをもってる。
心配するだけ無駄か。
「でもありがとね。心配してくれたんでしょ?」
「いや、冷静に考えてみたら、レイフェルト姉を襲う相手の方が可哀想だったよ」
間違いなくその相手は、瞬時に斬られる事になるだろう。
「いやーんラゼルの意地悪~、こんなか弱そうな美女に向かって、あんまりだわ」
腰をクネクネさせながらこっちを見てくる。
か弱い女の子アピールでもしてるのだろうか? 残念だけどその強さを知ってる僕には全然か弱く見えないし、逆に恐い。
話しながら歩を進めてると、いつの間にかギルドに着いた。
ギルドの外観は思ったよりも普通で、一見宿みたいにもみえるがその大きさは宿とは比べ物にならないくらいに大きい。
正面の扉を開けてギルド内に入る。
中に入ると思ったよりも人が多く、ほとんどの人が武器なんかを装備しているので、一目で冒険者だとわかった。
正面には受付カウンターがあって、少し離れた隣は飲食スペースが併設されていて、朝から酒を呑んでる冒険者の人たちもチラホラいる。
うん、何かこの自由な感じの空気いいな。
「冒険者登録したいのですが、ここで合ってますか?」
「はい、ここで大丈夫ですよ。それでは冒険者登録との事ですので、私から少々説明させていただきますね」
受付のお姉さんの話をまとめると
冒険者にはランクというものが、S A B C Dという順番にあってSに近づく程に実力があると認められて、受けられる依頼の幅も増えるのだという。
けれどSランクなんて基本滅多になれるものじゃなく、全世界でも9人しかいないのだとか。
後、冒険者カードというのをもらった。
これは冒険者ギルドに登録した事を証明する証で、どの国のギルドに行っても使えるようで、身分証明にもなるとか。
余程の実力者でもないかぎり基本的には皆、仲間同士でパーティを組んで行動するのが一般的だという。
一人ではモンスター討伐系の依頼はどうしても不利らしい。
一人で地道に薬草の採取を専門とする人も、多くはないがいるみたいだけど。
成る程、実質Aが一番上ってわけか。
僕はとりあえずは、そこそこ楽しく過ごせて、普通の暮らしができればいいから、まずはCランクに上がる事を目指して頑張ってみよう。
僕達は駆け出し冒険者の証であるDランクの冒険者カードを受け取り、併設されている飲食スペースでこれからの事を話し合うことにした。
「とりあえず僕はお金もないし、何か簡単な依頼を受けようと思ってるんだけど、レイフェルト姉はどうする?」
「どうするって、私はラゼルについてくって言ったでしょ? 勿論受ける依頼も一緒よ。私達はパーティなんだから、一心同体よ」
いつの間にパーティを組んだのだろうか?
「一心同体って……じゃあ何かいい依頼ないか見てくるね」
僕は依頼書が張ってある掲示板に行くことにした。
冒険者達はこの依頼書を見てから、依頼内容や報酬、危険度を計算して受ける依頼を決める。
気に入ったのがあれば受付カウンターに持っていき、条件があえば依頼が成立するシステムだ。
もちろん護衛なんかの依頼はランクが低いと受けられないこともある。
Dランクの冒険者じゃ盗賊とかに襲われたら普通に負けそうだもんね。
ゴブリン討伐に、薬草採取、ワイバーン討伐、盗賊討伐、様々な依頼がある。
せっかくレイフェルト姉もいるんだし薬草採取っていうのもなんだかなぁ、でも安全を考えるとなると……
「決めたよ、レイフェルト姉! ゴブリン討伐! どうかな?」
悩んだ末にゴブリン討伐の依頼書をテーブルに置いて、レイフェルト姉の意見を聞く事にする。
ゴブリンならラルク王国でも、修行の時に何回も倒した事がある。
あんまり強い魔物だとレイフェルト姉は余裕かもしれないけど、僕が足を引っ張っちゃうからね。
「そうね、初めての依頼だし丁度いいんじゃないかしら?」
「決まりだね」
依頼書をカウンターに持っていこうとした時
「おいおい、そんなヒョロっちい身体じゃゴブリンにも勝てねーんじゃねーか? 仲間はそこの女だけみたいだしな」
「ハハハッちげーねーっ!」
見るからにガラの悪そうな二人組の冒険者に絡まれてしまった。
何だいきなり、いくら僕だってゴブリンくらい倒せるさ……ギリギリだけど……
てかいきなり現れて失礼にも程があるんじゃないかこいつら……
「ゴブリンは何回か倒したことあるから問題ないよ。忠告ありがとう」
こういう輩は相手にしないに限る。二人組の冒険者の横を通り過ぎようとして。
「待てよ、つれねーなあ、もう少し話そうじゃねーか?ここであったのも何かの縁だろ?」
腕を捕まれ、足を止める。
縁もなにもそっちが絡んで来ただけじゃないか。
「おい女! こんなヒョロい奴といるより、俺達とこねーか? 楽させてやるし、贅沢できるぜ? その分、夜はたっぷり奉仕してもらうけどなあ!」
「そんな奴といてもこの先、苦労するだけだぜ?」
言いたい放題だな。周りの冒険者の視線もこっちに集まってきてるような気がするし。
ここには暫くいる予定だから、変に目立ちたくないんだけどな……
「……その汚い手をラゼルから離しなさい、ゴミ共」
今まで黙っていたレイフェルト姉が口を開いた。
「……あ"?ゴミってのは、俺達の……」
レイフェルト姉の様な美女が、汚い言葉を吐いたのが信じられなかったのか、一瞬固まったがすぐに怒りの形相に変わるゴミ……じゃなかった冒険者達。
カチャン
だが次の瞬間には全て終わっていた。
「カチャン」という音が聞こえたということは「斬った」のだろう。
いや正確には、斬り終わった後という事だ。
「なっ、おっおい! お前、その格好!!」
「うおっ! 何だこりゃ!てかお前もだぞ!」
絡んで来た冒険者の服はパンツを残して細切れになっていた。
剣聖と互角に渡り合ったレイフェルト姉の剣速は尋常じゃなく速く、常人の目では見ることすらかなわない。
故に鞘に剣が収まった音が聞こえた時には、だいたい全てが終わってるのだ。
「失せなさい。これ以上絡むのなら本当に斬るわよ?」
二人組に優しく微笑みかけるが、目は全然笑っていない。
「「ヒィッ、!!」」
自分達の格好をみて、斬られたのだと気付いた冒険者達は、震えた声を出しながら逃げていった。
恐いよなぁ、だって服だけ斬るよりも、身体を斬るほうが楽に決まってるんだから。
あえて服だけ斬ったのはレイフェルト姉の忠告だ。次は斬るぞという。
周りの視線が更に集まってしまった気がするが、気にするのは止そう。
「早く受付を済ましちゃいましょ」
何事も無かったかのように向かうレイフェルトの背中を見ながら思う。
この人絶対Dランクじゃないでしょ




