44話 湯冷め
「ただいまぁ~、ックシュン」
ラナと話し終わった後、宿に戻ったはいいけど湯冷めしたかもしれない。
風邪引いてないといいけど。
「どこに行ってたのですかラゼル? 心配したんですよ」
「少し涼みに外に出てたんだよ。そしたら偶々、ラナが居てさ。少し話してたんだ」
こういうのは先に言っといた方がいい。
後でバレると、面倒臭い事になりかねない。
別に、悪いことしてる訳じゃないんだけどね。
「そうだったんですか。でも駄目ですよ? こんな時間に異性と会うだなんて。ラゼルにはお姉ちゃんがいるではないですか」
相変わらず心配性だな、リファネル姉さんは……
「まさか、変な事してないでしょうね?」
「……してないよ。てか、変な事って何さ……」
レイフェルト姉は、すぐにそっち方向に持ってくんだから。
困ったもんだ。
「ふふふ、わかってるクセに」
ニマニマと、妖艶な笑みを浮かべながら、頬っぺたをツンツンしてくるレイフェルト姉。
「ん、んぅ……お兄様ぁ?」
少し声が大きかったかもしれない、ルシアナが目を覚ましてしまった。
「あれ? いつの間に眠っていたんでしょうか? まぁいいですわ、お帰りなさいませ、お兄様! 何処に行ってたんです?」
寝起きにも関わらず、テンションの高いルシアナは、起き上がって早々、僕の元へと飛びついてきた。
姉さんが着せてくれたんだろう。
今回は服を着た状態だった。
常に全裸って訳じゃないんだけど、何か裸のイメージが強いんだよね……ルシアナは。
「……お兄様から、別の女の匂いがしますわ……」
僕に抱きつきながら、鼻をクンクンさせ、ジトッとした目を此方へと向けてくる。
あれ? 前にもこんな事あったような……
なんでみんな、こんなにも鼻が利くのだろうか?
「この匂いは、昼間会った女のものですわ。確かラナといいましたね。お兄様、何でこんな時間に会ってたんです? まさか、私という者がありながら、浮気ですか? どうなんですか?」
浮気も何も、ルシアナは僕の妹でしょ……
僕が、誰と会おうとも関係ない筈なんだけれど……
ルシアナの目をみる。
うっすらと淀んでいる。
こういう時のルシアナには何を言っても無駄か……
「散歩してたら、偶々鉢合わせただけだよ。別に何もしてないさ」
「当たり前ですわ。もし何かしていたのだとしたら、私はきっと、おかしくなってしまいますわ!」
もう十分、正気じゃない気がするけど……
その間も、僕に抱きつく力はどんどんと強まってく。
「ちょ、そろそろ苦しいって」
「駄目です、お兄様から違う女の匂いがするのは許せません。私で上書きしないとですわ」
体全体を、スリスリと僕へ擦り付ける。
「……助けて」
僕は最後の手段として、姉さん達へ視線を向けた。
「今回はラゼルが悪いです。もう少し、ルシアナに付き合ってあげてください」
「そうね、ラゼルが悪いわ。夜にラナとこっそり会ってたなんて……お姉さん悲しいわ。シクシク……」
レイフェルト姉の、わざとらしい泣き真似を見て思った。
僕、何も悪いことしてないよね?
これは、みんなを落ち着かせるのに時間がかかりそうだ……