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41話 過去

 


「何故こんな所に?」


「僕は風呂上がりで、夜風にあたりにきたんだ。蛍を追ってきたら随分と長い距離歩いてたけどね。そんな事より、ラナは?」


「…………私も、夜風にあたりたい気分だったんですよ」


 そう言うラナの表情は、何か思い悩むような、疲れたような、元気のない感じだった。


「もしかして、お姉さんのこと?」


 何となくそんな気がしたので、聞いてみた。

 この前の様子だと、相当仲が悪いのは明白だ。


「…………」


 ラナは一度僕を見たあとで、何かを言おうとして、けれど言葉は出ず、そのまま俯いてしまった。


 しまった、いきなり図々しかったかもしれない。

 いくら仲が良くなったといっても、相手は王女様なのに……


 ラナの隣に立ち、一緒に川を見る。

 僕が近付いても蛍は逃げたりせずに、変わらずラナの回りをグルグルしている。


「…………」

「…………」


 しばらく無言のまま時が過ぎた。

 何か喋りかけようかとも思ったのだが、ラナの表情を見てやめた。


 なにかに落ち込んでるのは間違い無さそうだ。

 ここで、慰めや励ましの言葉を言うのは簡単だけど、落ち込んでる理由もわからない僕が言っても、気休めにしかならないだろう。



「知ってますか? この蛍、魔力に反応して近づいてくるんですよ」


 先に沈黙を破ったのはラナだった。


「そうなんだ、初めて知ったよ」


 ラルク王国にも同じ生物が生息していたが、魔力に反応するなんて知らなかった。

 ルシアナだったら知ってたかもしれないけど。

 ん? て事は…………


「ラナは魔術が使えるの?」


 人間は、生まれながらにして魔力を宿してるが、それを外に出す事ができるのは魔術師と呼ばれる才能ある者だけだ。

 ほとんどの人は、身体強化といって、体の内側を巡らせる事しかできないはずなのだ。

 もしラナの言ってる事が本当なんだとしたら、今ラナの周囲には魔力が溢れでてることになる。


「ふふふ、私は魔術師ではありませんよ。私に出来るのは、体内の魔力を外に放出するくらいです。お姉様と違って、私にはなんの才能もありませんから」


 それでも十分凄いと思う。

 普通の人は、それすらもできないのだから。


「でも、魔力を出せるなら、訓練次第では使えるようになるんじゃないかな?」


「訓練ですか……した事もありますよ。幼い頃ですがね。――――ラゼル様、少し昔の話を聞いてもらえませんか?」


「僕で良ければ」


 それで少しでも、ラナが元気になるのなら喜んで聞こう。


「といっても、大した話ではないのですが。

 私達姉妹に、魔術の才能があるかも知れないとわかったのは、まだ二人とも幼い時期でした。魔術師とは希少な存在です。その才能が娘にあるとわかった父は、魔術師の先生を私達につけました。魔術が使えれば、自分の身を守る事もできるし、国の役にも立つかもしれない。そんな力が自分にあるかもしれないとわかって、私は嬉しかったのです。ですが、それは最初だけでした……」


 そこで一拍おいて、ラナは川の蛍を眺めた。

 そして言葉を続ける。


「姉は天才でした。一度教えられた事はすぐになんでもできてしまい、私との差は一瞬で開ききってしまいました。どんなに頑張っても追い付けない程に。昔はお姉様も優しかったんです。落ち込んでいる私を励ましてくれたり、訓練にも付き合ってくれました。ですが、その時の私はそれが鬱陶しく感じてしまい、姉に強く当たってしまったんです。きっと、嫉妬してたんでしょうね。自分にはないものを持ってる姉が、天才といわれる姉が、羨ましくてしょうがなかった」


 天才と呼ばれる姉か…………僕に似ている。

 どんなに努力しても、決して埋まらない差。

 才能という壁。

 これは本当に残酷だ。


「お姉様もああいう性格ですから、私達の仲は時間とともに、どんどん険悪になってきました。

 最初の訓練から一年ほどたった頃、私は魔術を諦めました。その頃にはお姉様は、魔術だけではなく剣術の訓練も始めていて、そこでも才能を発揮していました。周囲の人達には『神童』なんて呼ばれて、期待されていました。

 認めるしかなかった。私には才能がないんだって。それからは、せめて国の王女らしくあろうと振る舞うようにしました。お父様は才能のない私にも、変わらず優しく接してくれました」


 ここが僕との、一番の違いかもしれない。

 だって僕の場合は、弱いからって、父に追放されたもんね…………


「結果的に、国民からはある程度慕われるようになったと思います。けれど、騎士団や貴族の方達はお姉様のことばかりでした。何をしてもお姉様と比べられ、だんだんと嫌気がさしてきました。そんなときでした。お姉様が勇者パーティにスカウトされたのは。私は嬉しかった、お姉様がこの国を出れば比べられる事もなくなると、そう思ってました。お姉様が国を出てから、私は前よりも必死に頑張りました。第一王女という立場を、奪い取るくらいの勢いで頑張りました」


 ラナの表情は、話を進める度にどんどん暗くなっていく。


「そして今回、久しぶりにお姉様がシルベスト王国へと帰ってきました。その時の、騎士団や貴族、周囲の喜びっぷりを見た時に悟りました。私はお姉様に勝つことはできないと。

 あの時私は、隣国の『ゼル王国』へと用事があったのですが、騎士団の方々を護衛に連れてくのを躊躇ってしまいました。皆、自分の主人を待つ犬の如く、お姉様の帰りを心待ちにしていたから」


 成る程ね、それであの時、冒険者を護衛に雇ってたのか。


「ラゼル様達が居なかったらと思うと、今でもゾッとします」


 そう言って、ラナは自分の身体を抱くようにして、ブルッと震える。


「ですが、昨夜の魔族の襲撃で、倒れてるお姉様を見た時に、思ったのです。上には上がいて、下には下がいる。当たり前の事ですが、そんなことにすら気づけないくらい、私の視野は狭まってたのです。そして、昔の優しかったお姉様を思い出してしまいました。お姉様は私に歩み寄ろうとしてくれていたのに、醜い嫉妬心で嫌な態度をとって、私は……私はどうしようもないくらい駄目な女です……」


 涙を堪えながら、鼻声になって話すラナ。


 ようするに、ハナさんと仲直りしたいのかな?




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