40話 お風呂
「ふひぃ~、気持ちいいぃ」
今日一日の汚れを、疲れとともにお湯で洗い流す。
片付けを手伝っただけだが、いろんな人にお礼を言われた。
こういうのも悪くないね。
もう少し早くルシアナが魔術を使ってくれてたら、ここまで汚れなかったんだけどなぁ……
僕は、中々落ちない頑固な汚れをゴシゴシと擦る。
「お兄様ぁ、湯加減はいかがですか?」
ガラガラとドアが開き、ごく自然に、さも当然のようにルシアナが風呂場へと入ってきた。
場所が場所なので、もちろん裸だ。
いや、ルシアナは風呂場じゃなくても裸の時があるけれど……
「……これから湯船に入るところだよ。ところでルシアナ? なんで裸なんだい?」
「フフフ、何を仰いますか。お風呂とは裸で入るものですわ。お兄様も冗談を言ったりするんですね」
僕が聞きたいのはそういう事じゃないんだけど……
「ただでさえこの宿のお風呂は狭いんだ、二人でなんて入れないよ」
この宿のお風呂は一人用なので、二人で入るには、本当にピッタリとくっつかなければならない。
「そんなこと言わずに、さぁ背中を流しますわ」
狭いのなんて関係ないといわんばかりに、グイグイと近付いてくる。
ちょ、あたってる、あたっちゃいけないものが当たってるって……
おかしい、昔は確かに、風呂場へとよく侵入してきたが、最近は落ち着いていた筈なんだけどな。
というより、いくら兄妹でもせめてタオルくらい巻いたらどうなんだ。
「近い近い近い、近いって、裸の状態でそんなグイグイきちゃ駄目だってば。ルシアナも女の子なんだから、慎みというものをもう少し持ってよ」
「あぁ、お兄様の体……ハァハァ、私の、私だけのお兄様。あぁぁ、もうたまりませんわ!」
駄目だ、聞いちゃいない……
どんどんと、湯船の方へと追いやられてく。
仕方ない……こうなったら奥の手を使うしかない。
スゥー。
思い切り息を吸って叫ぶ
「姉さ~ん、助けてぇ!!」
叫んでから、リファネル姉さんが来るまでは早かった。
本当に一瞬で来てくれた。
ストンッ
姉さんのチョップが、ルシアナのうなじへと振り落とされた。
「ではラゼル、ごゆっくり」
そういって、気を失ったルシアナを抱えて、風呂場をあとにしたリファネル姉さん。
去り際に、僕の事を舐め回すようにジロジロと見てたような気がするけど、気のせいだろう。
多分……
まったく、ルシアナの暴走も困ったもんだ。
まぁ、そこが可愛くもあるんだけどね。
けど、できればもう少し自重してもらいたい。
「風が気持ちいいなぁ」
湯船に長い間浸かり過ぎてしまったので、熱を冷ますため、一人外に出た。
火照った体に、夜のヒンヤリとした風が心地いい。
少し散歩してみようかな。
火照った体が冷めるまで、少しぶらぶらする事にした。
「……うわぁ、綺麗だな」
橋の上から、シルベスト王国に流れる川を見下ろす。
昼間に見てもなんとも思わなかったけど、夜に見るとまた違って見えた。
川に月の光が反射して、その回りをキラキラと光る蛍が飛んでいる。
すごく幻想的で綺麗だ。
なんか得した気分になる。
そのまま川沿いを、進んでいく。
進めば進むほど、蛍の数も増えていってる気がする。
「あれ……? ラナ?」
「え……ラゼル様!?」
蛍の後を追うようにして、川沿いを進んで行くと、ラナが川を眺めていた。
まるで、ラナと戯れるかのように、グルグルと沢山の蛍が飛んでいる。
それにしても、何でこんな時間に、こんな所に?
王城からはそこそこ距離があるはずだけど。