表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/89

35話 妹が降ってきた

 


「僕にも何か手伝える事ありますか?」


 リバーズルと名乗った魔族が高笑いをしてる隙に、僕はヒリエルさんの元へとたどり着いた。

 パーティーの時もこの人とだけは喋ってないから、今が初めての会話だ。

 勇者みたく、嫌な感じの人じゃないといいけど……


「まぁ、貴方はパーティーの時にいた、え~っと……確か……ラッセルさん!」

 惜しいような、惜しくないような……けど今はそれどころじゃない。


「ラゼルです。何か手伝える事あります?」


「あ、そうでした、ラゼルさんでした。名前を間違えるなんてお恥ずかしい。ではお言葉に甘えて、ここの二人を運ぶのを手伝って貰えませんか?」


 ヒリエルさんは、先程まで回復魔術を施していた、ハナさんとヘリオスさんを指差す。


「もう傷は回復したんですが、意識が戻らないんです。せめて戦闘に巻き込まれない所まで、一緒に運んでいただけませんか?」


「任せてください」


 二人を建物の陰まで運ぶ。

 ここが安全かはわからないが、さっきまでの場所よりはましだろう。


 そして再び、戦闘中の姉さん達へと目を向けた。







「ちょっと、いくらなんでも首を斬り離しても再生するってズルくないかしら? 何か弱点とかないの?」


「すまぬが、詳しくは妾もわからんのだ。妾も初めてみるタイプの魔族だ」


「よくわかりませんが、斬ってればそのうち再生できなくなるのでは?」


「そうかも知れないが、永遠に再生する可能性もある。とにかく情報が少なすぎるのだ」


 あんなのが永遠に再生するとか、なんて悪夢だ。

 国が本当に滅んでしまう。


「次は私が試してみるわ!」


 今度はレイフェルト姉が、地面を思いっきり蹴り、ひとっ飛びでリバーズルへと間合いを詰める。


「なんだぁ? 次はてめぇが楽しませてくれんのかぁ?」


 己の間合いに入られたというのに、焦った様子は一切ない。


「はぁ~気持ち悪いわね…………死になさい」


 ――――カチャン


 鞘に刀を納めた音が聞こえた。

 リバーズルの体は、細切れになって地面へと落ちた。

 首を斬っても死なないので、細切れにしたのだろう。

 これじゃ、いくらなんでも再生出来ない筈だ。


「こんだけ細かく斬られたら、再生のしようがないでしょ?」


 もう再生できないと思ってはいても、決して油断せず、転がった肉片から目を離さない。


 ――その時、肉片の一つがボッと燃えだした。

 それが合図だったかのように次々と肉片が燃えだし、最後には全部が炎に包まれてしまった。


 嫌な予感がする……


「ヒーヒッヒッヒ、細切れにすりゃあ再生できないと思ったかぁ? てめぇ等人間が、俺を殺しきる事なんざできねぇんだよぉっ!」


 その炎の中から、無傷の状態でリバーズルが現れた。

 全身はメラメラと燃えている。


 嘘でしょ? あれで復活するとか……いよいよ手段がないんじゃないか?


「本当、気持ち悪いわね、どうなってんのよ! 夢に出てきそうだわ! 夢に出てきたら斬り殺すわよ貴方!」


 魔族も余裕の態度を崩さないが、レイフェルト姉も大概だ。

 緊張感というものを感じない。

 それに、斬り殺せないから困ってるんでしょ……


「だから、殺せねぇって言ってんだろぉが!!」


 リバーズルを覆う炎が、意思を持ってるかのように動き、レイフェルト姉を襲う。


「ん~、どうしたもんかしらね」


 軽やかなバックステップで交わしながら、首を傾げている。


「レイフェルト、いい案があります!」


「あら? なにかしら?」


「再生するのも嫌になるくらい、ひたすら斬り続けてみるのはどうですか?」


「あはっ、それ面白いわね。他にアテもないし、とりあえずそれでいきましょうか!」


「作戦名は、『魔族の微塵切り』です」


 その名前、態々いらなくない?


「――――放てー!!!」


 姉さん達が、ダサい名前の作戦を実行しようとした時だった。

 野太い男の声が響き、その直後、次々と魔族に向かって矢が放たれた。


「これ以上この国で勝手は許さんぞ!」


 なんと、王国の騎士団だった。

 数も100人以上はいる。

 これは心強い。


「んぁ? てめぇ等は相変わらず、数だけは居やがるなぁっ。うじゃうじゃと鬱陶しい……雑魚は引っ込んでろっ!!!」


 瞬間、リバーズルの体を覆っていた炎が勢いよく膨れ上がった。

 その勢いのまま、炎は騎士団へとぶつかった。

 100人以上いた騎士団のほとんどが、リバーズルの体から放たれた炎によって吹き飛んでいた。

 せっかくこっちが有利になったと思ったのも束の間で、すぐに元の状況に戻ってしまった。


 く、これが魔族の幹部……なんて規格外の化物なんだ。





「ラゼル様、大丈夫ですか?」


「ラナ、なんでこんな所に!?」


 僕は驚きを隠せなかった。

 ここは戦場だ、一国のお姫様が居ていい場所じゃない。

 城で避難してるべきだ。

 なのに何故、ラナがこんな所にいるのだろうか?


「勇者パーティと魔族が交戦中と聞いて、居てもたってもいられなくなってしまい、騎士団についてきたのです。それに、勇者パーティが倒されてしまえば、何処に避難しても同じです」


 確かにそうだけども……


「ここは危険だから、とにかくこっちに」


 ヘリオスさん達がいる場所へと避難させようと、ラナの手を掴んだ。

 一緒に来たという騎士団は、魔族の攻撃でほとんどがふっ飛んでしまった。

 今更一人で城へ戻れとは言えない。

 それに、自分に力がなくても、ジッとしてられないという気持ちはわかる。


「ヒヒッ、まだうろちょろしてんのがいるなぁ!!」





「「ラゼル!!」」


 姉二人の聞いた事のないような叫び声が聞こえて、振り返る。


 だが、振り返った時にはもう遅かった。

 既に僕とラナの近くまで、リバーズルの炎が迫ってきていた。


 これは駄目だ。

 この距離は絶対に避けられない。

 姉さん達も恐らく、間に合わないだろう。

 く、今回ばかりは本当に駄目だ。


 二人とも死ぬくらいならと、僕はラナを思いきり突き飛ばした。


「キャッ、ラゼル様?」


 後は姉さん達が、何とかしてくれるだろう。

 こんな時だっていうのに、僕はやけに冷静だった。

 僕は、自分めがけて飛んでくる炎をみていた。


 ああ、もうすぐあの炎が僕を焼き尽くすのか。

 やだなぁ、燃えて死ぬのは辛いっていうし……


 だが、炎が僕に当たる寸前、目の前に土の壁のようなものがいきなり現れた。


 何だこれ?


「……助かったのかな?」


 どうやら炎は、土の壁に遮られたようだ。

 壁に手を触れながら左右をみる。

 その壁は、どこまでも続いていた。

 どこまでもは言い過ぎかもしれないけど、少なくとも僕の目に見える範囲までは続いていた。


 こんな風に、急に壁が現れたりする現象は、魔術以外では説明がつかない。

 問題は、誰がこの魔術を発動したかだ。

 これだけの規模の魔術だ。

 並大抵の魔術師ではない筈だけど……


「――――様ぁっ」


 空から微かに声が聞こえた気がした。

 気のせいかとは思うが、一応上を向き確認する。

 何かが凄い勢いで空から落ちてくる。

 僕に向かって。


「お兄様ぁ!!」


 え? ルシアナ!?


 そのままの勢いで僕へと降ってきた。


 僕は何とか支えようとしたんだけど、かなりの勢いだったので、二人とも地面へと倒れる形になってしまった。


「あぁお兄様、お兄様お兄様お兄様ぁ!! 会いたかったですわお兄様ぁ!! はぁぁ、懐かしいお兄様の匂いです!! クンクン!! もう絶対、絶対に離れませんからねお兄様!!」


 僕の首に手を回し、胸元に顔をグリングリンと擦り付けてくる。



 理由はわからないが、賢者と呼ばれる僕の妹、ルシアナが空から降ってきた。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ