32話 家
三人の視線に晒されながらも何とか着替えを終え、僕達はラナ王女が紹介してくれるという家へと向かっていた。
今日はこの前いた執事の人はいなかった。
「はぁ~、これでやっと家が決まるかもしれないわね。宿暮らしともおさらばよ」
レイフェルト姉が一番家を欲しがってたからね。
僕は別に宿でもいいって言ってるのに……
「私は大きいお風呂を所望します。宿のは窮屈です」
僕は宿のでも充分なんだけど、リファネル姉さんは昔からお風呂大好きだからなぁ、一度入ると半刻は出てこない。
「僕は自分の部屋があれば何でもいいよ」
やっぱり、四六時中ベタベタされるのは色々良くないからね。
「だから~、ラゼルは私と同じ部屋だって言ってるでしょ?」
「いいえ、ラゼルは私と同室です。レイフェルト、貴女には一人部屋を与えましょう」
いや、僕にその一人部屋を与えてよ……
僕を挟んで、左右で言い合いを始める二人。
どうでもいいけど、距離が近いって。
「フフフ、皆さんとても仲がいいんですね。羨ましいです」
ラナ王女は、そんな僕達を微笑まし気に見ている。
そうか、ラナ王女はハナさんと仲が悪そうだったもんな……何か理由でもあるんだろうか?
「姉弟なんだもの、これくらい普通よ。ね? ラゼル」
そう言いながら、腕を絡めてくるレイフェルト姉。
こんなベタベタする姉弟が普通でたまるかと言いたい。
間違いなく普通じゃないと思うんだ……
僕を大事に思ってくれてるのはわかるんだけどさ、もうちょっとボディタッチは控えて欲しいものだ。
「さぁ、着きましたよ! ここが最初に紹介する家です」
どうやら目的地へと着いたようだ。
「へぇ~、外観は悪くなさそうじゃない」
「大事なのは中です」
レイフェルト姉は偉そうに腕を組みながら、フムフムとかいいながら外観を見て回っている。
リファネル姉さんは家の中へと入っていった。
「すいません王女様、姉さん達が勝手に……」
「お気になさらないで下さい。紹介するといったのは私なのですから。それとラゼル様、いつまでそんな畏まった話し方をするんですか? リファネルさん達みたいに気軽に話して欲しいです」
ん~、でも王女様だしなぁ……でも姉さん達は普通に話してるし、僕が考え過ぎなだけなのか?
「……本当にいいんですか?」
念の為、最後に確認をとる。
「ええ、構いません。ラナと呼んで下さい」
本人がいいと言ってるので、僕も深く考えるのをやめた。
「えーと、じゃあ宜しく、ラナ」
「はい、宜しくです」
ニコニコと笑顔をみせるラナ。
「ちょっと、いつまでそこにいるのよ。早く入ってきなさいよ」
レイフェルト姉に呼ばれて、家の方へと向かう。
外観は煉瓦造りで、中々オシャレな感じだと思う。
それよりもこの家、庭があるのだ。
夜とかに体を動かしたくなったら庭で剣を振れる。
これは嬉しい。
続いて中へ入る。
「へぇ~中も綺麗だね」
きっとこまめに手入れしているのだろう、中は埃一つないんじゃないかってくらい綺麗だった。
「ラナ! 私はここが気に入ったわ! ここに決定よ」
自分だけで家を決めてしまったレイフェルト姉。
僕はいいけど、せめてリファネル姉さんには聞いた方がいいんじゃないかな?
「お風呂もかなり広かったです。私も賛成です」
リファネル姉さんがお風呂場から戻ってきた。
姉さんはお風呂以外はどうでも良さそうだ。
「ラゼルもここでいいわよね?」
一応僕にも確認をとってくるけど、きっと僕が何を言っても変わらないんだろうな。
まぁ、僕もこの家はいいと思う。
庭もあるし、部屋の数もそこそこある。
これなら一人一部屋でも全然余るくらいだ。
「うん、いいと思うよ! けど、お金は足りるの?」
「それならご心配なく。私がお父様に掛け合ってみます。なので決まるまでは申し訳ないですが、あの宿にいて貰えますか?」
「わかったわ、じゃあ詳しくわかったら教えてちょうだい」
他にも色々と紹介する家はあったようだけど、最初の家で決定してしまった。
今日はラナと別れて、これで宿に戻る事になった。
――――ドォーーン!!
「……え、何? この音……?」
宿に戻り、夕食を済ませ、今日は寝ようと布団に入って目を瞑った時だった。
地響きと共に、大きな爆発音が聞こえてきて目を開けた。
「……何だ……これ?」
窓を開けて音の方を見ると、そこら中の家が燃えていた。
何だ? 何が起こったんだ?
「どうやら、中々厄介そうなのが来たようですね」
「はぁ~、せっかくラゼルを抱き締めて寝ようと思ってたのに」
二人も起きてるようだ。
腰には剣を携え、戦闘態勢に入っている。
……本当に何が起こったっていうんだ……?