表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/89

30話 賢者ルシアナ

 

 日が沈み、辺りがだんだんと暗くなり始めた頃。


 ラルク王国からシルベスト王国へと続く道を、凄まじい速さで進む人影があった。

 何か急いでいるのか、その人影のスピードはぐんぐんと勢いを増していく。

 だが、そんな人影の前に一人の男が現れた。


「よぉ、何処に行こうってんだぁ? ルシアナぁー?」


 急に止まったせいで、被っていたフードが脱げ、人影の顔が顕になった。


 まだ幼さの抜けきらない顔立ちの少女だった。

 色素が抜けてしまったかの様な、真っ白い髪の毛、ブルーサファイアのように何処までも蒼い、何もかもを見通すような瞳、身長はこの歳くらいの少女ならば平均的だろうか。

 13歳にして、並ぶ物はいないといわれる、膨大な魔力量と天才的な魔術のセンスを持つ少女。

 賢者ルシアナ、その人だった。


「……貴方には関係ない事ですわ。早くそこを退きなさいな」


「クククッ、そういう訳にもいかないんだなぁコレが! オッサンに頼まれてんだよ、お前をこの国から出すなって!」


 ルシアナは男を睨み付ける。

 オッサンとはラルクの国王の事だろう。

 そして王に対して、そのような軽口を叩ける者は限られている。

 即ち、強者だ。


「何故でしょうか?」


「は、お前の姉が弟を追っ掛けて国を出ちまったんだよ。ゾルバルを斬りつけ、王直属の護衛軍をものともせずによぉ!

 それにレイフェルトの奴も姿をみせねぇ。それで、次はテメェがいなくなるんじゃねぇかって、見張りを頼まれてたんだよ!」



「フフ、フフフフ、アハハハハハッ」


「あ"? 何がおかしいんだテメェ? 舐めてんのか?」


 冷たい夜空に、ルシアナの笑い声が響いた。


 男は苛立ちを隠しもせず、不機嫌そうに返す。


「あ~~おかしい、笑わせてくれますわ。私が聞いたのは、何故私を止めるのに、貴方一人なのかって事ですわ。舐めてんのかですって? それは此方のセリフですわ、ファントム!」


「はんっ、それはテメェが俺よりも弱いからだろうが! 選ばせてやるよ! 黙って戻るか、俺に半殺しにされて強制的に戻るか!」


 ファントムと呼ばれた男がルシアナへと二択を迫る。


「はぁー、笑わせてもらいましたわ。そうですね、こういうのはどうですか? 貴方が私にボロボロに負けて、泣きながら国へと戻る」


「……半殺し決定だな」


 腰から剣を抜き、構える。

 ファントムは相手が賢者だろうと負ける気はなかった。

 確かに、賢者と呼ばれるだけあってルシアナの魔術は強力なものだが、もう幾度となく見てきた。

 魔術が放たれるまでに、斬り伏せる自信があった。


「剣聖? 賢者? だからどうした!! 俺は誰にも負ける気はねぇ!!テメェを半殺しにした後は、レイフェルトとリファネルもラルク王国に引きずってきてやるよ! そうだなぁ、ついでにラゼルの奴も虐めといてやる!!」


「………………はぁ? 貴方、今なんて言いました? お兄様を虐める? はぁ?」


 ファントムが兄に危害を加えると言った瞬間、ルシアナの目の色が変わった。

 先程まで大笑いしていた少女と同一人物とは、到底思えなかった。


「ったくよぉ、いくら兄妹だからって、何であんな雑魚の所に行こうとすんだか。ほっとけばいいんだよ、才能のない奴は」


「……な……い」


「あ"? 何だって?」


「潰れなさい!!」


「は、なにいって――――」


 ズンッッ!


 突如頭上に現れた、馬鹿デカイ土で出来た拳に、ファントムは押し潰されていた。

 余りの速度に、避けることすらままならなかったようだ。

 サラサラと、土の拳が宙に消えていく。

 そこに残ったのは、拳に押し潰された、息も絶え絶えな瀕死の男だけだった。


 ゆっくりと男に近づき、告げる。


「命までは取りません、その内誰かが助けに来てくれるでしょう」


「……なん……でだ、まったく見えなかった……今までは……手を抜いて……やがったのか……?」


 今まで見てきたルシアナの、魔術発動速度ならば対応できる筈だった。

 それが、発動した動作すら見えなかったのだ、ファントムは訳がわからなかった。


「手を抜くですか、それは違いますわ。私はもちろん、きっとお姉様達も、本気で戦った事などほとんどないでしょう。貴方が勘違いするのも仕方ないですわ」


「……は、……何だ、そりゃ…………」


 ファントムは意識を失った。


 ルシアナは再び歩み始めた。


「あぁ、国を追放だなんて、可哀想なお兄様!でも大丈夫、今私が行きますわ! そうです、お兄様には私がいる。たとえ国が、世界が、お兄様を蔑ろにしても、私がいれば何の問題もありませんわ。お兄様が望むのならば、その全てを壊して差し上げますわ、この絶対的な魔力の元に」


 兄を想う妹の瞳は、酷く濁っていた。






皆様がブックマークや評価をしてくれたお陰で、少しの間ですが日間一位を取る事ができました。


ありがとうございます!


最近、感想の返信が出来ていません。

時間のある時に、ちょっとずつでも返していきます。


これからも宜しくお願いします( ・ω・)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ