3話 シルベスト王国到着
「お客様、もうすぐ着きますよ」
ガタゴトと馬車に揺られて3日が過ぎて、やっとシルベスト王国が見えてきた。
馬車で3日……僕はこんな距離を歩いて行こうとしてたのか。
レイフェルト姉が馬車をとってくれてなかったら、僕の冒険者としての旅は、始まる前に終わりを迎えていたことだろう。
馬車の中では、今後の事を話したりした。
とりあえずは冒険者になって、お金を何とかしようと思ってる事とかね。
ただこの3日間は、レイフェルト姉がずっと僕にくっついて離れてくれなかったせいで、若干寝不足気味だ……もとからスキンシップは多かったけど、こんなにベタベタしてきたっけな?
まぁいいか。とりあえずは、
「レイフェルト姉起きて、もう着くみたいだよ」
僕の腕に自分の腕を絡み付けたまま眠っているレイフェルト姉を、揺すって起こす。
「ん~むにゃむにゃ、後1日……むにゃむにゃ」
長いよっ! そこはせめて、後少しとかにしときなよ。
これはあれだな……
こちょこちょ
「……ふふふ、あはっ、ふ、あははははははははははっ、ちょ、ラゼルやめて、もう起きた、起きたからぁ」
やっぱりか、もうレイフェルト姉の寝たフリは何回もみてきてるからね。
てか「むにゃむにゃ」って、わざとらしいにも程があるよ。
「レイフェルト姉の寝たフリは僕には通じないよ、何回騙されたと思ってるのさ。ほらもう着くから一旦離れてよ。歩きづらいし」
「ふふ、残念。もう少しラゼルの温もりを感じてたかったのに」
馬車の人にお金を支払ってから、僕達はシルベスト王国の門をくぐった。
「うわぁ……す、凄い!」
僕はシルベスト王国に入った瞬間、あまりの人の多さと活気に驚いた。
見渡す限りに人が溢れていて、屋台の出店などがずらーっと遠くの見えないとこまで並んでいる。
それに頭に猫の耳や、犬の耳がついている、いわゆる獣人族といわれる人も沢山歩いている。
本で見て、そういう種族がいることは知っていたんだけど、本物は初めてみた。
ラルク王国には普通の人間しかいなかったもんなぁ。
ほとんどが戦い大好きな戦闘狂って考えると、普通じゃないか……
「ラゼルはラルク王国から出たことなかったものね。私も初めて来たときは驚いたものよ。あの国は基本的に強さ以外の事に関しては全然だからね。逆にこれが普通で、今までいた所がおかしかったって思ったほうがいいわよ」
「ホントに凄い。レイフェルト姉……そういう風に見えないかもしれないけど、僕は今、すっっごい感動してるよ!」
「何言ってるのよ、そんなに目キラキラさせて。顔も緩みっぱなしで、そういう風にしかみえないわよ」
あの国に居たら僕はこんな場所があることも気付かないまま、一生を終えていたかもしれない。
ああ、追放されてよかった。
……いやそれは流石にポジティブ過ぎだな。
「今日はラゼルの初めて記念日って事で、冒険者ギルドの登録とかは明日にして、色々みてまわりましょう」
なんか引っかかる名前の記念日だけど、まあいっか。
今日は思いっきり楽しむぞ。
「申し訳ありません、この時間ですと一部屋しか空いてません」
猫耳がペタんと垂れて可愛い、宿屋の子が申し訳なさそうに僕達に頭を下げる。
辺りはすっかり暗くなっていて、外を歩く人も昼間に比べるとだいぶ少ない。
そう、僕達は時間も忘れて遊び過ぎたのだ。
正確には僕がだ。
レイフェルト姉は何度も、宿がとれなくなるからそろそろ行こうといっていたのだが……テンションが上がりすぎた僕の耳には届かなかった。
僕のテンションをここまで上げるとは、シルベスト王国……恐ろしい所だ。
「じゃあその部屋でお願いするわ」
「はい、畏まりました。こちらが鍵になります」
「ちょっと待ったぁ! 流石に一緒の部屋は駄目だよ」
いくら昔からの付き合いとはいえ、同じ部屋に泊まるのはマズイ。
きっと同じ部屋になったら、またベタベタしてくるに違いない。
多少慣れてるとはいえ、レイフェルト姉は控え目にいってもかなりの美人だ。
そんなのと同じ部屋になってベタベタされたら、たまったもんじゃない。
レイフェルト姉は僕の事を弟のように思ってるからいいかもしれないけど、僕だって一応男なんだ、変に意識しても仕方ないじゃないか。
「え~~、昼間にラゼルに付き合って、もうクタクタで動けないわよ。それに他の所は一部屋も空いてなかったじゃない。昼間にラゼルに付き合ってクタクタよ」
く、それを言われると何も言えない、それに大事な事だからって二回も言わないでもいいよ。
そもそも、剣聖と3日も闘い続けた怪物みたいな人がこれくらいで疲れる訳がないでしょ……
なんて言える訳ないよね。
今回は僕の責任でもあるし諦めるか……
「わかったよ。でもあんまりベタベタしないでね」
「ふふ、それはどうかしらね」
明日は冒険者ギルドに行く予定だし、ここ最近はずっと馬車で寝てたから疲れた。
ベタベタされる前に寝てしまおう。うん、そうしよう。