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29話 修行

 


「フッ……フッ……フン」


 夜、姉さん達が寝静まった頃を見計らって、僕は外で剣を振っていた。


 結局、ドラゴン討伐のお金に関しては後日、ラナ王女を訪ねる方向で話が決まった。

 夕御飯はリファネル姉さんが作ると言ってきかなかったが、僕とレイフェルト姉が全力で止めて事なきを得た。

 昔、姉さんの作った料理を食べて、数日寝込んだのは今でもトラウマだ。

 一番質が悪いのは、本人が無自覚という所だ。

 最後まで僕が寝込んでるのを、原因不明の風邪だと思って騒いでたっけ……


 今日は本当に色々あった。

 勇者パーティの人達とも、間近で会うことができた。

 僕の想像してた、物語の中の勇者とは全くの別物だったけどね。

 けど、ファルメイアさんはいい人だった、少しだけど話すこともできたし、話を聞くとも言ってくれた。

 聖女のヒリエルさんだけは、一度も話す事なく終わってしまったが、雰囲気的にはいい人そうだった。

 なんていうか、フワフワとした感じの人だ。


 ファルメイアさんが言っていたが、魔族の動きが活発になっているらしい。

 もしかしたら、遭遇する機会があるかもしれない。

 そうなった時に、姉さん達の足を引っ張るのも嫌だから、こうして剣を振っている訳なのだが。


「駄目だ、全然強くなれてる気がしない……」


 そりゃ、久しぶりにちょっと修行したところで強くなる実感なんて沸く訳がないけど、思い出してしまったのだ。




 僕はラルク王国を追放されるまでは、毎日毎日、遅くまで修行していた。

 それこそ、物心ついた時から一日だってかかした事はなかった。

 姉さんの料理を食べて寝込んだ時も、熱を出して辛い時も、剣を振っていたと思う。

 リファネル姉さんやレイフェルト姉、それにルシアナ、僕は少しでもみんなに追い付きたくて必死だった。

 けれど、修行をすればするほど、自分の才能のなさがわかってしまって嫌になった。

 それでも僕が、追放されるその日まで剣を振っていたのはきっと、周りの目があったからだ。


 『剣聖』の弟で、『賢者』の兄で、国王の息子でもある僕。

 天才的な才能を持った身内に囲まれていたが故に、周囲に期待されていた。

 姉と妹がこれ程の才能を持っているのだ、血の繋がった僕もいつかは才能を開花させる時がくるんじゃないかと。


 それも最初の内だけだったけどね。

 いつまでも弱いままの僕に対して、周囲の人達はだんだんと冷たくなっていった。

 強さが何よりも重要視される国だ、王の息子だろうと関係ない。


 そんな僕に対しても、リファネル姉さんとルシアナ、レイフェルト姉だけは優しかった。

 僕がこれまで折れずに、前向きにやってこれたのは皆がいたからだと思う。

 三人は国の仕事で、ラルク王国にいない時が多かったけど。


 だからこそ、追放された僕に、国を捨ててまでついてきてくれた二人の重荷にはなりたくない。

 せめて、いざという時に少しでも動けるようにはしておきたい。

 いつまでも、姉に守って貰ってばかりなのも恥ずかしいからね。
















 ん~、何だか背中に暖かい温もりを感じる。

 それに柔らかい。

 ん? 柔らかい?


「……何してるのさ、リファネル姉さん」


「まぁ、起きたのですねラゼル! 朝起きたら、部屋にいないから探しにきたのです。そしたらこんな所で倒れてるではありませんか。これは大変だと思って、こうして体を暖めてるのです」


 どうやら昨日は疲れて、そのまま外で眠ってしまったようだ。

 僕は姉さんを背もたれにして、寄りかかる様に寝ていた。

 姉さんはそんな僕を、背後から抱き締める様にしている。


「そんな事しないでも、起こしてくれればよかったのに」


 体が密着してるから、姉さんが喋ると吐息が首に当たってくすぐったい。


「……修行してたのですか?」


 僕の隣に転がっている剣をみて、少しだけ暗い声で聞いてくる。


「うん、久しぶりに体を動かしたくてね」


「そうですか、余り無茶をしてはいけませんよ? それに修行なんてしなくても、お姉ちゃんがいます。ラゼルに危害を及ぼす輩がいるのなら、勇者だろうと、魔王だろうと斬り捨ててみせます」


 ハハハ……魔王ってそんな簡単に倒せるのかな?


「ありがとね。でも、いつ何が起こるかわからないからさ。最低限、自分の身は自分で守れるようにってね」


「お姉ちゃんがいる限り何も起こりませんよ。それに、一応レイフェルトもいます」


 僕を抱き締める手に力がこもる。

 更に体が密着する。

 てか、背中の感触が……強く押し付けられすぎて、おかしな事になってるって。


「ちょっと~、引っ付きすぎよ。離れなさいってば」


 遠くからレイフェルト姉が走ってきた。


「今はラゼルを暖めてるのです。邪魔しないで下さい」


「私が暖めるからどきなさい!」


「フフ、絶対にどきません。何者にも、私とラゼルを引き裂くことなどできないのです」


 ……大袈裟だってば


「言葉で言ってわからないなら、斬るわよ?」


「ほほう、私に勝てると思ってるのですか?」


 はぁ~まったく……この二人は……


「こんな朝から騒いだら近所に迷惑だからっ!!!」


 何とか二人を宥めて、宿に戻る事に成功した。


 もう一眠りしよう。




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