28話 帰ろう
「絶対お断りよ」「お断りします」
やっぱり断るんだ……何となくわかってたけどね。
でも何故か、それを少し嬉しく思う自分もいる。
ファルメイアさんはできた人だと思うけど、勇者ヘリオスさんとハナさんは、会って早々にあんなことになっちゃったし。
まぁ、ハナさんの事に関しては僕のせいだけど。
いや、勇者もなんだかんだで僕のせいかもしれない……
「一応聞いてはみたが、やはり断られたか……」
駄目元で聞いてみたのだろう。
落ち込んでる様子はない。
「それに私達はラルク王国の出身よ? 勝手に勧誘なんてしたら面倒臭くなるわよ?」
「こんな国で冒険者なんてやってるんだ、お前達も事情があるのだろう?」
レイフェルト姉はカマをかけたつもりだろうけど、逆に見抜かれてしまった。
ファルメイアさんだったら、僕達がラルク王国を出たのを知ってても不思議じゃない。
何百年も生きてるエルフだ、そういった情報を知る術を持ってるかもしれない。
と言っても、ラルク王国から追放されたのは僕だけで、二人は勝手に国を抜けてついてきてくれただけなんだけどね……
「そうね、色々とあるのよ。私達も」
「どんな事情があるかは知らんが、ラルク王国ならば、剣聖が抜けても大丈夫だろう。彼処はお前達の様な、化物染みたのが何人もいるからな。それでも国の戦力はだいぶ落ちるだろうが」
この言い方だと、ラルク王国の事も多少は知ってるみたいだ。
知り合いでも居るのかな?
「確かに、一筋縄じゃいかないのが結構いるわね~」
「ふふ、所詮私の敵にはなりえませんがね」
ラルク王国は、実力主義国家と言われてるだけあって、姉さん達の他にも猛者はいる。
けど僕は、この二人が戦って負けてる所を見た事がない。
「剣聖に会えたのは光栄だが、どうせなら同じ魔術師としては、賢者ルシアナにも会ってみたいものだな」
やはりルシアナの事も知ってるようだ。
姉さんの事を知ってたんだから、妹を知っててもおかしくはないが。
ルシアナの魔術は派手なのが多いからね、認知度的には姉さんよりも知れ渡ってるかもしれない。
「妹を知ってるんですか?」
「なんと、お前の妹であったか。これは驚いたな。それと先程からこの二人を姉と呼んでいるが」
「はい、ルシアナは妹でリファネル姉さんは姉です。レイフェルト姉も血は繋がってないですけど、似たようなものです」
「……お前もとんでもない姉妹に囲まれて大変だな、何かあったら妾に言うがいい。ナタ茶を出して、話を聞くくらいはできるぞ」
僕の肩をポンポンと叩き、慈愛に満ちた目で見てくる。
「ありがとうございます」
「何を言ってるんですか、ラゼルはお姉ちゃんが好きで一緒にいるんです。大変な事なんてありません」
「そうよ。ラゼルは私が好きでしょうがないのよ。ね?」
「ハハハ……」
なんて答えようか、とりあえず笑って誤魔化そう。
いや、嫌いじゃないけどさ。
素直に好きっていうのも気恥ずかしいものだ。
「それじゃ、そろそろ私達はいくわよ。勇者達に何か言われたら、次は加減できないかもしれないし」
「ああ、手間を取らせたな。先程の話だが、気が変わったら教えてくれ。長居はしないが、あと二,三日はこの国にいる予定だ」
「気が変わる事なんてありませんよ。私が剣を振るのはラゼルの為だけです。魔族がラゼルに危害を加えようとするのなら、斬り捨てますが、そうでないのなら知った事ではありません」
「わかった。最近じゃ魔族も動きが活発になってるから、気をつけるんだぞ」
僕達は歩いてきた廊下を、そのままは戻らず、更に進んで裏口から外へと出た。
ラナ王女に挨拶くらいしときたかったけど、この国にいればまた会うこともあるだろう。
とりあえず宿へと戻る事にする。
でも何か忘れてるような気が…………
「あーーっ!」
「どうしましたラゼル? 何処か痛いのですか?」
「何処が痛いの? お姉さんが撫でてあげるわよ?」
近い近い、ベタベタくっつきすぎだってば……
今はそんな事よりも
「ドラゴン討伐のお金、まだ貰ってないのに出て来ちゃったねって思ったんだけど……」




