27話 ナタ茶
廊下を進んで行くと、いくつものドアが左右にあって、ファルメイアさんはその左から二番目を迷わず開けた。
中へ入ると、豪華な細長いテーブルが真ん中に置いてあり、その周りを囲むように椅子が並べてある。
「ちょっと、茶を用意してくるから、適当に座って待っておれ」
入って早々にファルメイアさんは、部屋の奥へと行ってしまった。
言われた通り、適当に腰掛ける事にする。
「ファルメイアさん、お茶を用意してくるって言ってたけど、手伝った方がいいかな?」
「何を言いますか、私達は客人ですよ? そんな事気にせず待ってればいいのです」
リファネル姉さんはそう言うけど、エルフの女王にお茶を淹れてもらうなんて、何か申し訳ない気がする……やっぱり手伝いに行こう。
「待たせたな、ほれ。エルフの国、『イヤーグナ王国』特製のナタ茶だ! 結構レアな物だから、味わって飲んでくれ」
早っ!
手伝いに行こうと立ち上がると同時に、ファルメイアさんが戻ってきた。
僕達三人の前に、お茶の入った湯飲みが置かれる。
てかお茶淹れて戻ってくるまでが早すぎるよ、ほとんど一瞬だったよ。
「いただきます」
せっかく出してくれたので、さっそく一口頂く。
「……美味しい」
ナタ茶は想像していたよりも遥かに美味く、思わず声に出てしまっていた。
リファネル姉さんとレイフェルト姉も、黙って湯飲みを啜っている。
「そうだろう、やっぱりナタ茶は世界一だな! それなのにこの国の国王ときたら、妾が出したナタ茶を飲んで、吐き出しおったのだ。失礼極まりないだろう?」
「国王様とは知り合いなんですか?」
「まぁ知り合いと言えば知り合いだな。彼奴が若僧の時に助けてやった事があっての、彼奴が王になれたのは妾のお陰と言ってもいいくらいだぞ」
だからあんなにペコペコしてたのか。
「それよりも話って何かしら? 早く帰りたいんだけど」
ナタ茶を飲み終わったのか、湯飲みをテーブルに置き、足を組みながらレイフェルト姉が喋る。
この人は、なんていうか、誰が相手でも本当にブレないな。
ここまでくると純粋に凄いと思う……きっと何が起ころうとも、全て自分で何とか出来るという自信の現れなんだろうなぁ……
「そうだったな、まずは改めて詫びよう。ヘリオスとハナが迷惑かけたな、すまなかった」
先程はみんなに謝っていたけれど、今度は僕達に個人的に頭を下げる。
律儀な人だ。
「話というよりは、愚痴のようなものなのだが、少し聞いてくれ。
レイフェルトといったか? 勇者を見てどう思った?」
「ん~、そうね。色々と言いたいことはあるけれど、あんな弱いのが勇者なんてやってて、今までよく魔族に殺されず生きてたわね? あんなんじゃ、魔王の幹部を倒したってのも疑わしいわ」
中々に酷い評価だけど、これが本心なのだろう。
レイフェルト姉はこういう時、嘘をついたりしない。
「うむ、成る程…… では、お前はどう思う? 剣聖リファネル」
どういうことだ? 今確かにファルメイアさんは、リファネル姉さんの事を剣聖と呼んだ。
何で知ってるんだ?
「……何故、私が剣聖だと?」
「そう警戒しないでくれ。妾の国、イヤーグナ王国にも剣聖の名は轟いておる。ラルク王国に化物染みた強さの剣士が居るとな。それでどうしても気になってな、使い魔を使役して、一度お前が戦ってる所をみた事があるだけだ」
「それでどうでしたか? 私の強さは貴女の目にどう映ったのですか?」
「ふっ、正直震えたぞ! あの軽やかな身のこなしに洗練された剣技、尋常ならざる剣速。まさに剣の化身、剣聖と呼ばれるのも素直に頷けた。
純粋な強さだけならば勇者にも匹敵するかもしれん。もちろん初代だぞ?」
「当たり前です! あんな雑魚虫勇者と一緒にされたら溜まりません!」
ハハハ、雑魚虫って……まだ怒ってるよ。
リファネル姉さんが未だに怒ってるのは、きっと僕に手を出そうとしたからだ。
姉さんは過保護だから。
僕もいつまでも、姉さん達に守って貰ってばかりじゃ駄目だな。
せめて自分の尻拭いくらい、自分でしないと。
「勇者を雑魚扱いか……そうだな、妾が言いたいのはお前達も言ってた通り、今の勇者パーティが弱過ぎることだ。余りにも弱いのだ。幹部を倒したとは言うが、あれは殆ど妾が一人で倒したようなものだ」
一人で幹部を討伐とは……この愛らしい姿を見てると、魔族を倒せそうにはとても見えないけど、そこは流石初代勇者パーティといったところだろう。
「ま、そんな事だろうと思ったわ。で? 結局貴女は、何が言いたいのかしら?」
「妾の力も歳を経る毎に弱くなっている。今では全盛期の半分程度しかないだろう。現魔王がどれ程の強さかはわからんが、このままでは返り討ちに合う可能性が高い。
今日初めて会って、こんなことを言うのは申し訳ないのだが、勇者パーティに入って力を貸してはくれんか?」
なんと、本日三度目の勇者パーティへの勧誘だった。
ヘリオスさんに勧誘された時は、二回とも無視してたけど、今回はどうだろうか。
僕的には姉さん達が、勇者パーティに入ること自体は反対ではない。
昔憧れた、勇者の物語。
その旅に姉さん達が誘われている。
これは本当に凄い事だ。
けど、実際に二人が僕の前からいなくなったら、僕はどう思うんだろうか?
寂しく感じるのは間違いないんだろうけど、何だかんだ一人でもこの国で生きてくのか?
う~ん、駄目だ、今考えてもわからない。