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26話 回復魔術

 


「うわ、なんだなんだ?」

「何かが凄い勢いで飛んでったわよ?」

「まさかハナ様の魔術か?」




「「「え? な、なんで……勇者様が!?」」」


 貴族達が勇者のめり込んだ壁を見て驚愕している。

 それはそうだろう、勇者とは魔王を倒す為に選ばれた、人類の希望である。

 それが壁にめり込んで気絶しているのだ、驚きもするだろう。


「いったい何が……」


 会場の人々に動揺が広がってく。

 もしかして僕達、捕まるんじゃないかな……?

 先に手を出してきたのは向こうだけど、やり過ぎな気がしなくもない。


 けど勇者が、蹴り一発で気を失うとは思わなかった。

 レイフェルト姉が強すぎるのか、勇者が大したことなかったのか、どっちだろうか。


「静まれ! 皆の者!!」


 ファルメイアさんの甲高い、けれども何処か芯のある声が、会場に響いた。

 さっきまでのざわざわが、嘘のようにピタリと止んだ。


「ファルメイア様だ!」

「静かにしろ、ファルメイア様が喋るぞ!」

「ああ、なんとも美しい」

「ぼ、僕のお嫁さんになってほしいんだな、……フ、フゴッ」


 初代勇者パーティの名は伊達じゃない。

 皆が尊敬だったり、憧れの視線を向けていた。

 最後の方に太った貴族のオジサンが変なことを言ってた気がするが……この二人が一緒に歩いてたら、犯罪臭しかしない。

 すぐ騎士団に通報されそうだ……


「勇者ヘリオスは今、魔王討伐に向けて修行をしている。魔力を常に体に留めておく修行だ。だが今回、その大きすぎる魔力が災いして暴発してしまったというわけだ。せっかくのパーティーなのにすまなかった。妾が、勇者パーティを代表して謝ろう」


 シーンと、無言に包まれる会場。

 ファルメイアさんはどうやら僕達を庇ってくれたようだ。


「こんな時にまで修行なんて……」

「なんと素晴らしいことだ! 勇者の鏡だ!」

「勇者様が居てくれれば、この世界も安泰だ!」

「フ、フゴー!」


 結構無理がある言い訳かと思ったが、貴族の人達は信じてくれたようだ。

 感動して、涙ぐむ者までいる。

 勇者の評価もうなぎ登りだ。


「フフフ、あんな様子では魔王を討伐する前に、その辺の魔物にやられるんじゃないですかね」


 クスクスと笑いながら、周囲に聞こえないように小声で話しかけてくるリファネル姉さん。


「せっかくファルメイアさんが庇ってくれたんだから、ちょっと静かにしててよ姉さん」


 これがハナさんに聞こえてたら、また面倒臭い事になる。


「でも、あんなんで気絶するなんて、本当に勇者なのかしらね? かなり手加減したんだけど」


 今度はレイフェルト姉が話しかけてきた。

 …………態々ハナさんに聞こえるくらいの声でね……


「……覚えてなさいよ、貴女達! ヒリエル! すぐヘリオスの回復を!」


 此方を怒気の籠った目で睨み付けるハナさん


「はいはい! ちょっと通りますね!」


 貴族達の間を通り抜けて、勇者の元に聖女ヒリエルさんが近づいてく。

 両手を勇者の体にかざすと、手がやんわりと光始め、あっという間に勇者を光が包み込んで行く。


「ふぅ。これで直に目を覚ますでしょう」


 ほんの一瞬の出来事だったが、明らかに勇者の顔色が良くなっている。

 これが聖女の回復魔術。

 初代勇者パーティの聖女は、千切れた腕すら再生させたって書いてあったけど、ヒリエルさんはどうなんだろうか?


「妾は少し国王と話してくる、お前達もくるがいい」


「え? 僕達もですか?」


「そうだ。色々と聞きたいこともある。ここに居ては、あいつらを刺激するだけだ」


 そういえば、この騒ぎのなか国王はどうしたんだろうか?

 周りを見渡して、姿を探す。

 あ、居た。

 けどなんだか様子がおかしい、隣でラナ王女があたふたしている。


「お父様、お気を確かに。お父様!」


「あわわ、勇者に何かあったら私がレイモンド王国に……ああ……」


「あ、ファルメイア様! お父様が、勇者様がふっ飛んだのを見ておかしくなってしまいました……」


「はぁー、コイツは本当に、昔から気が弱いのが直らんな……ほれ正気に戻らんか国王」


 ペチペチと国王の頬を叩くファルメイアさん。

 端から見たら、可愛い女の子がおっさんをひっぱたいてるようにしか見えなかった。

 すごい絵面だ……


「はっ、ここは? 勇者は?」


「やっと正気に戻ったか、久しいなシルベストの国王よ。勇者の事なら気にするな。妾が上手く言っておこう」


「ファルメイア様、助かります! ありがとうございます!もし勇者に怪我なんかさせたら、レイモンド王国に何を言われるか……考えただけでも恐ろしい……」


 レイモンド王国はこの周辺では一番の大国だ。

 そして勇者と聖女の出身国でもある。

 国王の様子を見る限り、立場的にもレイモンド王国の方が上なのかもしれない。


「それよりもこの冒険者達と少し話がしたい。奥の部屋を借りるぞ?」


「どうぞどうぞ、いくらでも使って下さい」


 まるで自分の家のように、堂々と廊下を進んでくファルメイアさん。

 僕達三人はそのあとをついていく。


 国王様まであんなペコペコしてたし、本当に凄い人なんだと改めて思いしった。

 他の勇者パーティもこの人には頭が上がらなそうだったし。



 姉さん達、失礼な事言わないといいけど……




 





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