24話 勧誘
どうしよう、こんな間近で勇者を見れる日がくるなんて、嬉しすぎてヤバい。
ヘリオスさんを見ると、かなり整った綺麗な顔をしていて、魔王を倒す険しい旅をしてる風にはとても見えなかった。
俗に言うイケメンというやつだ。
これで強さも兼ね備えてるんだから、神様は不公平だなと思う。
僕が返事をしていいものかとレイフェルト姉達のほうを見ると、ニコッと笑い返してくれた。
僕が勇者パーティが好きってわかってるからか、喋る機会を譲ってくれた。
リファネル姉さんは横で、少しムスッとした表現をしてるけど……
「ひゃっ、はい! 僕達のパーティが討伐しました」
緊張して、少し噛んでしまった。
恥ずかしい……
「ああ、君じゃないよ。僕が話しかけたのは、そちらの美しい女性二人にだよ」
一瞬、何を言ってるかわからなかったが、どうやら勇者が話したいのは僕ではなく、姉さん達のようだった。
「勘違いさせて悪かったね。さっきのハナとのいざこざを見ていてね。そちらのツリ目の女性の、君を助ける時の動きは尋常じゃなく速かった、この僕が見失いそうになるほどにね。そして隣の金髪の女性だけど、立ち居振舞いが強者のそれだ。実力がある者が見れば一目でわかる程の強さを感じる。
けれど、君には何も感じない、僕が求めてるのは強き者なんだ。君はこのパーティで荷物持ちでもやっていたんだろう?」
ヘリオスさんの目を見て、嫌な事を思いだしてしまった。
僕を見るその目が、ラルク王国の国王にそっくりだったから。
僕には何の興味もない目。
いや、きっとその目には僕なんて映ってすらいないんだろう。
荷物持ちどころか、逆に背負ってもらってたなんて言ったら、どんな顔をするだろうか。
「君達、よかったら僕のパーティに入らないか?」
続けて話し続けるヘリオスさん。
今度は僕が勘違いしないように、明確に姉二人の方を向いて話す。
勇者パーティに勧誘されるなんて流石だ。
これで魔王討伐を果たしたなら、歴史にもその名が残るだろう。
それぐらい栄誉なことだ。
「ラゼル、今日の夕飯はどうしましょうか? そろそろお姉ちゃんの手料理が恋しいのではないですか?」
「あんたの手料理なんて食べたら、ラゼルが寝込んでしまうわ。やめてちょうだい」
勇者パーティに誘われて、何て返事をするんだろうと思ってたら、何の関係もない夕飯の話をいきなり始めた。
まるで勇者なんて、この場にいないかのように。
確かにリファネル姉さんの手料理はヤバいけど……勇者を無視したままでいいのだろうか。
「ちょっと、貴女達! ヘリオスが話しかけてるのに、何シカト決め込んでるのよ!」
いつの間にかヘリオスさんの横には、ハナさんが立っていて、凄い剣幕で此方を睨み付けている。
貴族達の方をみると、まだ人だかりは解消されてない。
きっと残りの二人に押し付けて、抜けてきたんだろう。
「人の手料理を何だと思ってるんですか。もう決めました。今の一言で決めました。今日の夕飯は絶対に私の手料理です」
「なら私は、ラゼルの為に意地でもそれを阻止するわ」
頑張れ! レイフェルト姉!
じゃなくて、ハナさんまで無視しちゃってるけど大丈夫かな。
顔を真っ赤にして、かなり怒ってるのが伝わってくる。
ヘリオスさんに至っては、さっきから固まったままだ。
まさか無視されるとは思わなかったんだろうね……
「そうと決まれば買い出しに行かなければいけませんね。こんな下らないパーティーなんて終わりにして、帰りましょう」
「あっ、ちょっと……」
僕の手を掴み、勇者達に背を向けて出口へと向かうリファネル姉さん。
後ろからレイフェルト姉も、仕方ないわね、と言いながらついてくる。
「……舐めてんじゃないわよ!!!!」
遂に怒りを抑えきれなくなったのか、ハナさんが右手を宙にかざし、こちらに向けて振る。
その瞬間、宙に氷の塊が出現したかと思うと、それがすごい速さでこちらに飛んできた。
不味い、今二人は剣を持っていない。
避けるしかないが、まだ二人は前を向いたままだ。
「やはり、少し痛い目に合わせないとわからないようですね……」
リファネル姉さんが僕の手を掴んだまま振り返り、反対の手で手刀を作った。
その手刀を氷に向けて、ゆっくりと振った。
なぜだろう? ゆっくりの筈なのに、酷くブレて見えるのは。
気づくと、人間くらいの大きさはあった氷の塊が粉々になって、グラスに入る大きさに変わっていた。
落ちた氷を一欠片拾い上げると、まるで剣で斬ったかのように綺麗な断面をしていた。
斬ったのか?
でもリファネル姉さんは剣を持ってないのに、どうやって?
「なっ、私の氷が……貴女、今何したのよ?」
「あらら? 勇者パーティーの天才魔剣士さんともあろうお方が、わからなかったんですか? わかりやすいようにゆっくりと斬ったつもりだったんですが……困りましたね、あれ以上ゆっくりだと逆に難しいんですよ」
お返しとばかりにハナさんを煽り倒す。
「く、馬鹿にしてっ!! これならどうかしらっ!?」
今度は両手を宙に上げると、先程と同じ氷の塊が無数に出現する。
パッと見ただけで数十個はあるだろう。
あれが一度に飛んできたら、いくらリファネル姉さんでも不味い気がする。
せめて、剣があれば……
「やめんか小娘!! 会場を壊す気かっ!!」
怒声が会場に響く。
声の主は、エルフの国の女王、ファルメイアさんだった。
この前ポイントの事をちょろっと後書きで書いたら、三人も評価点をつけてくれました。
有難う御座います。