23話 乾杯
「すいません皆さん、お姉様がご迷惑をおかけして」
「僕の方こそ、関係ないのにでしゃばってすいませんでした」
ついカッとなってハナさんに失礼な事を言ってしまった。
二人の関係を知りもしない、この前会ったばかりの冒険者が余計な口を出す場面じゃなかったと思う。
「いいえ、そんな事ありませんわ」
ラナ王女が、僕の右手を両手で大事そうに優しく握りしめ、ジッと此方を見つめてくる。
本当に綺麗な瞳をしている。
ずっとみてると、吸い込まれそうだ。
「ラゼル様が私を庇ってくれた時、私は本当に嬉しかったんです。気丈に振る舞っていたつもりでも、手の震えが止まりませんでした。お姉様に言い返す言葉もなく、あの場から逃げ出してしまいたかった。そんな時、ラゼル様が私の前に出てくれたんです。そして自分の事のように怒ってくれました。あの時、私がどれ程救われたか。だからラゼル様が謝ったりしないでください」
握ってる手はまだ少し震えているけど、声や表情は元に戻っている。
よかった、それだけでもでしゃばった甲斐があった。
「そう思っていただけたならよかったです」
そこで一旦会話が途切れたが、手はまだ握られたままだ。
なんだろう、急に緊張してきた。
いつも姉さん達にベタベタと引っ付かれて、慣れてるつもりだったけど、よく考えたら家族以外の異性にこんな風に手を握られるなんて初めてかもしれない。
いつまで握ってるんだろうか……
「そろそろ行った方がいいんじゃない、ラナ? 貴族達がこっちみてるわよ」
手を離すタイミングを失って、どうしたもんかと悩んでいたらレイフェルト姉が助け船を出してくれた。
「あ、そうですね。では私はこれで失礼します。後でまた話し掛けてもいいですか?」
「僕達なんかで良ければ、いつでも気軽に話し掛けてください。この会場にはラナ王女様以外知り合いもいませんし」
忘れてたかのようにパッと手を離すと、顔を赤くして貴族達の方へと歩いていった。
「ラゼル、浮気は駄目よ」「ええ、駄目です」
ラナ王女の歩く背中を見送っていると、二人が変なことを言ってきた。
浮気も何も、僕達は家族だからね……
それから少しして、シルベスト王国の国王が皆の前に姿を現した。
横にはラナ王女が立っている。
会場にいる人達に向けて、挨拶の言葉を述べる。
勇者パーティが魔族の幹部を討伐したことを主に、僕達がドラゴンを討伐したこともちょろっと言っていた。
この国の国王を見るのは初めてだけど、随分と優しそうな人だった。
普通の格好をして国を歩いていたら、誰も国王だとは思わないんじゃないか、それくらい、いい意味で普通の人だった。
王様や貴族特有の、威圧感がない。
ラルク王国の国王とは大違いだ。
「では、堅苦しい挨拶はこれにて終わりにして、今日は思う存分楽しんでいってくれ。勇者パーティの今後の更なる活躍を願って、乾杯!!」
王様の挨拶が終わると同時に、ほとんどの人達が勇者パーティの方へと行ってしまった。
どうにかして勇者と繋がりを持ちたいのか、自分の娘を必死にアピールしてる親までいる。
僕も勇者の所へ行きたいんだけど、ハナさんとあんな事になってしまった手前、行きづらい……
人だかりがもう少し引いたら行ってみようかな。
それまでは、この豪華な食事を楽しむ事にしよう。
「はいラゼル! あ~ん」
「やめてよこんな所で、恥ずかしいってば」
「もう照れちゃって、美味しいから食べてみなさい」
そう言って、半ば強引に口のなかに食べ物を入れてくる。
「うわ、何これ。凄い美味しいんだけど、こんなの食べた事ないよ」
「でしょ? はい、次はお返しに私に食べさせてちょうだい」
お返しって……強引に口に突っ込んだだけじゃないか……
「もぅ、焦らさないで、早く~」
妙に色っぽい声を出して、口を少し開けたまま、僕の前で待機してる。
さっき何か食べたのだろう、唇が油でテカっててやけにヤらしく見える。
このまま放って置くのも可哀想か……
僕は仕方なく食べ物をレイフェルト姉の口元へと運ぶ。
パクンッ!
あ……
「フフ、ラゼルにあ~んしてもらっちゃいました」
僕がレイフェルト姉に差し出した食べ物は、横からきたリファネル姉さんがパクンと食べてしまった。
「ちょっと、今のはラゼルが私の為に用意してくれたのに! なにしてくれてんのよ」
「貴女こそ、私がいない隙にラゼルとイチャイチャしないでください」
「ちょっといいかな? 君達だよね、ドラゴンを討伐したパーティっていうのは?」
姉二人がガミガミいい合ってると、貴族達の熱烈なアプローチから脱け出してきた、勇者ヘリオスさんが話し掛けてきた。
まさか向こうから話し掛けてくれるとは……なんてラッキーなんだ。




