20話 パレード
次の日の朝、僕達三人はシルベスト王国の出入口にいた。
初めてこの国にきたときは人の多さに驚いたものだけど、今日の人の多さに比べると初日が可愛く感じる。
みんなそわそわして、今か今かと勇者パーティがくるのを待っている。
「勇者様を乗せた馬車が来たぞ!!」
一人の男の声が聞こえて、それを皮切りに国全体が大歓声に包まれる。
「やっぱり凄い人気だね」
「あん、そんな耳元で囁かれるとくすぐったいわ」
普通に喋っても周囲の歓声にかき消されてしまうため、レイフェルト姉の耳元に話し掛けたのだが。
「ごめん、でもこうしないと声が聞こえないと思って」
「ふふふ、冗談よ。それよりも此方のほうにくるわよ」
こっちに馬車が進んできてるのはわかるんだけど、人が多過ぎてまったく見えない……
「仕方ありませんね。さぁラゼル、お姉ちゃんの背中に乗っていいですよ」
背伸びしたり、ピョンピョンと跳ねてる僕をみかねたのか、リファネル姉さんが背中をこちらに向けてくる。
「いいの? ありがとう」
いつもなら恥ずかしいからと断るのだが、今日は勇者パーティを見るためだ、そんなプライドは速攻で捨て去った。
リファネル姉さんの背中に乗ると、何とか勇者パーティの姿がみえた。
まずは当然、勇者に目がいった。
年の頃は20代後半くらいだろうか、全身に高くて重そうな鎧を装備して、背中には自分の背と同じくらいの大きさの大剣を背負っている。
あれが初代勇者も使っていたという伝説の聖剣か。
普通の人があんな重装備をしていたら重くて動けないだろう。
けど勇者はそんな気配を一切見せずに、馬車の後ろで立ち上がり国民に笑顔で手を振っていた。
この人が現代の勇者『ヘリオス』だ。
顔はよく見えないけど一目で勇者とわかったのは、あのデカい聖剣のおかげもあるが、それ以外のパーティメンバーが全員女性というのも大きかった。
様々な魔術を操り、初代勇者パーティでも活躍したといわれてるエルフの女王『ファルメイア』
いくら長寿のエルフといっても、また魔王討伐の旅に出るなんて本人も予想してなかっただろうね。
勇者パーティに選ばれるのはとても栄誉ある事だけど、流石に少し可哀想に思う。
それにしてもエルフって凄いな、何百年も生きてる筈なのに見た目は、十代の女の子にしかみえない。
幼ささえ感じるくらいだ。
その横では、あらゆる傷や病を一瞬にして治すという、レイモンド王国の聖女様『ヒリエル』がニコニコと手を振っている。
若干動きがぎこちなくみえるのは気のせいだろう。
そしてこのシルベスト王国出身で、剣と魔術の才能を認められて勇者パーティにスカウトされたという天才魔剣士『ハナ』だ。
この四人が、魔王を討伐するために動いている勇者パーティ一行だ。
何でここまで詳しいかというと、国中に勇者パーティメンバーの情報が書かれたビラが配られていたからだ。
全員が全員、只者じゃないオーラを出してるのを感じる。
明日のパーティーでは、思いきって声をかけてみようかな。
握手くらいしてもらえるかもしれない。
どうしよう、明日が楽しみ過ぎる。
今日寝れるかな。
「あ~あ、行っちゃったわね。じゃ私達も戻りましょうか」
馬車の移動速度は意外と速く、すぐに見えなくなってしまった。
「そうだね、その前に屋台でなにか食べてく?」
「賛成です。さぁ行きましょうか」
「その前に僕を背中から下ろしてよ……」
「駄目です! 勇者パーティばかりみて、お姉ちゃんを悲しませた罰です。今日は下りられないと思ってください」
姉さんの嫉妬が変な方向に向かってる気がする……
「それにしても、意外と大したこと無さそうね。勇者パーティっていうのも」
「え? どういう事?」
屋台で買った食べ物を併設されてるテーブルで食べながら、レイフェルト姉が思い出したかのように言った。
大したことないとはどういう意味だろうか?
「そうですね。もう少しできる者の集まりかと思ってたのですが。あの感じだと、期待外れもいいとこですね」
この二人は何を言ってるんだろうか?
「それって姉さん達のほうが強いってこと?」
「当たり前です。纏めてかかってきても問題ないです」
「でも初代勇者パーティから居たっていう、あのエルフだけは別格だったわね。あれがいたら全員相手にするのは流石に厳しいんじゃないかしら?」
「フン、あんな年増エルフが居たところで結果は変わりません。確かにあの中では飛び抜けてましたがね」
どうやら僕の姉さん達は、一対一の勝負ならば勇者にも負けないようだ……




