19話 ドレス
「見てラゼル! 似合ってる?」
カーテンがシャっと開いて、試着室からドレス姿で現れたレイフェルト姉。
招待状を開けてみたところ、パーティーが開かれるのは明後日との事だったので、急いで僕達三人はパーティーに着ていく服を買いにきたのだった。
いくら何でも、いつもの冒険者の格好で出席する訳にはいかないからね。
「ちょっと、聞いてるの?」
「聞いてるってば、凄い似合ってるよ! 何処かの国のお姫様みたいだよ!」
お世辞とかではなく、本当に似合ってる。
ドレス自体にはあまり豪華な装飾は施されていないが、逆にそれがレイフェルト姉の抜群のスタイルを強調している。
シンプルで目立たない黒のドレスだけど、着てるレイフェルト姉が目立つくらいの美女だからか、いい感じでバランスがとれてる。
「まぁ、お姫様だなんて。ラゼルも口が上手くなったわね! ふふふ」
いつも通りに見えるけど、顔が少し赤い。
柄にもなく照れてるんだろうか。
「レイフェルトだけではなく私も見てください。さぁ!」
反対側のカーテンが開き、次はリファネル姉さんが出てきた。
リファネル姉さんのドレスは赤色で、レイフェルト姉のと比べると少しだけ派手だが、貴族や王族のパーティーだしこれくらいじゃ目立つこともないだろう。
それにしても……
「姉さん、ちょっと胸を強調しすぎじゃない?」
「お姉ちゃん少し冒険してみました。ラゼルはこういうの嫌いですか?」
少しシュンとしながら、こちらの顔色を窺うように聞いてくる。
「いや、凄い綺麗で似合ってるんだけどさ……」
「ならいいではありませんか! これで決まりです!」
僕的にはあまり露出の多い格好をすると、周囲の男達からヤらしい目で見られるんじゃないかと心配なんだけど。
只でさえ綺麗な二人がドレスなんかで着飾ったら、そこら辺の貴族の女性なんかじゃ霞んでしまう。
それくらいは美人だと思う。
弟の僕から見てこれなんだから、他人が見たらもっと凄いんじゃないかな? いや、逆に僕が身内贔屓で見てしまってるのかもしれないけど。
でも出席者のほとんどが、貴族や王族って言ってたし大丈夫か。
冒険者と違って絡んできたりは、流石にないと思いたい。
パーティー用の服を手に入れた僕達は少しシルベスト王国を観光する事にした。
ちなみに僕は、姉さん達の着せ替え人形になることが容易に想像できたので、二人が着替えてる隙に無難なのを選んで買っておいた。
二人はブーブーと文句を言っていたが、聞こえないフリをしてなんとか切り抜けた。
「ところで勇者パーティは明日この国に着くらしいけどさ、何でそんな事がわかるの?」
ずっと疑問だった。
何か連絡手段でもあるのだろうか?
「使い魔でも飛んできたんじゃないかしら? 勇者パーティには魔術師もいるでしょうし」
「成る程ね、その手があったか。僕も使い魔欲しいなぁ!」
使い魔とは、魔術師が己の魔力を捧げることによって召喚することができる。
連絡手段に使う者もいれば、一緒に魔物と戦う者もいる。
魔力量によって召喚できる使い魔の種類は変わってくるが、概ね犬や狼、鳥類といった、獣の姿をしてることが多い。
「ラゼルにはお姉ちゃんがいるではありませんか! 望むなら私を使い魔みたいに使ってくれても構いませんよ!」
姉を使い魔扱いする弟……駄目だ、頭が痛くなってきた。
「……気持ちだけ受け取っておくよ。姉さん達は明日のパレードはどうするの?」
パーティーが開かれるのは明後日だが、それだけだと一般の人が勇者達に会うことができない。
だから明日は少しの間だが、勇者パーティが王国の入り口から国王の城へと辿り着くまでの間、一般市民はそれを見るために集まるのだ。
人が凄い集まることが予想されてる。
だからか、今から屋台を準備したりしてる店が多く見受けられる。
国全体が、今日から盛り上がってる感じだ。
「フン、あんなのを見て何が楽しいんですか」
「私はラゼルについてくわよ! じゃあリファネル、貴女は宿でお留守番してなさい」
「誰も行かないとは言ってないじゃないですか! ラゼルが行くのならもちろん私も行きますよ!」
「ふふふ、勇者パーティに嫉妬しちゃって。貴女も可愛い所あるのね」
「ほう、どうやら斬られたいようですね……」
二人が腰の剣に手をかける。
「ちょ、こんな所でやめてってば」
まったく……この二人は仲がいいんだか悪いんだか……