16話 王女 ラナ・シルベスト
「それよりもお前ら、冒険者カードをこっちに寄越せ」
言われた通りにギルドマスターにカードを渡す。
目の前の机にカードが三枚並べられた。
するとセゴルさんはカードの真上に手をかざした。
Dランクと書かれたカードが光に包まれていく。
光が収まった後でカードをみると、文字がDからAへと変わっていた。
この冒険者カードというのは特殊な素材で出来ているらしく、各国にいるギルドマスターの魔力にしか反応しないようにできている。
なので偽造は不可能なのだ。
「ありがとうございます、でも……本当によかったんですか? 僕までランクを上げて貰って」
新しくなった冒険者カードを受け取りながら確認をする。
この前はAランクの実力がないとキッパリ言われてしまった。
本当にいいのだろうか?
「約束は約束だからな。ワシは約束は守る男だ! それに、どうせこれからも三人でパーティとして動くんだろ?その二人がいれば、お前をAランクにしたとしてもお釣りがくるだろう」
「そういうことなら遠慮なく受け取っておきます。じゃあ僕達はこれで失礼しますね」
「国王の元に呼ばれる日が決まったら、使いの者をだそう。お前らどこに泊まってるんだ?」
「今は『ネコネコ亭』という宿にお世話になってます」
「おお、あそこか! 了解した。ではまた後程な」
僕達はお金の沢山入った袋をそれぞれ持ち、宿に戻る事にする。
ギルドにいた他の冒険者が、大量のお金をみて何事かと驚いてた。
「さてと、これで目的は達成できたわね。私はこれからいい物件がないかチェックしてくるわ。二人はどうする?」
「私は少し日用品を買いに行きます。ほとんど何も持たずにでてきてしまったので」
「僕はまだ少し眠いから、宿で待ってるよ」
どっちかについていってもよかったのだが、ここの所毎日一緒だったからたまには一人になりたかった。
眠いのも本当だしね。
「まぁ眠いだなんて、昨日は眠れなかったのですか? なにか悩みがあるのならお姉ちゃんにいつでも言ってくださいね?」
二人に挟まれて中々寝れなかっただけなんだよね……
あえて悩みを挙げるなら、二人がスキンシップ過剰な事だよ。
「僕は大丈夫だから、気にしないで行ってきてよ」
二人が出掛けた後、僕は一人でベッドに横になっていた。
ああ、いつ以来だろうか一人で寝るのなんて。
僕はゆっくりと意識を手離していった。
「すいません、ラゼルさん!!いませんか? ラゼルさん!!」
激しいノックの音で目が覚める。
この声はシルビーか、なんか急いでるみたいだけどなんだろう?
「やぁ、どうしたのシルビー」
僕は寝起きで半開きの目を擦りながらドアを開けた。
「お休み中の所すいません、けどラゼルさんにお客さんが来てまして。とにかくカウンターまで来てください」
まだボーッとして考えが纏まらないままシルビーに手を引かれ、そのお客さんの元へ向かう。
何でお客が来たくらいでこんなに焦ってるんだろ?
カウンターの方に着くと、見覚えのある顔があった。
「ラゼル様、昨日は危ないところを助けて頂いて有り難う御座いました。今日はラゼル様のパーティに言伝てを頼もうと、ギルドに出向いたのですが、もうこの国に帰ってきてるとのことだったので、もう一度ちゃんとお礼が言いたくて来てしまいました」
歳は僕と同じくらいだろうか、背中まで伸びた銀色の髪を後ろで一つに束ね、吸い込まれそうなほど綺麗な澄んだ瞳で、僕にお礼を言う女の子が立っていた。
凄い豪華なドレスに、高そうな装身具で全身を着飾ってる。
昨日盗賊に襲われていた所を助けた、少女と執事だった。
そういえばこの国で冒険者やってるってレイフェルト姉が言っちゃってたもんな。
「どういたしまして。でもそんなに気にしないでください、お礼なら昨日も聞きましたし。困った時はお互い様です」
「それでは私の気が済まなかったのです。本当に助かりました。私はこの国の第二王女、ラナ・シルベストと申します。これから何か困った事があったのなら、何でも仰ってください」
盗賊達が貴族とは言ってたけど、まさか王女様だったとは……それでシルビーもあんなに焦ってたのか。
何でも仰ってくださいって、逆に言いづらいよ。
「まさか王女様だとは思いませんでした。それに貴方を助けたのは僕じゃなくて他の二人です。僕は何もしてません」
「そんな事ありませんわ。傷付いた私にポーションをくれたではありませんか。お陰で傷も残りませんでした。今日は他のお二人はいらっしゃらないのですか?」
「はい、二人は今出掛けてまして、僕から伝えておきますよ」
「そうですか、残念です。でも近いうちにまた会うことになるでしょうし、お礼はまたその時にでも。ではそろそろ失礼しますね、ラゼル様」
最後によくわからない事を言い残して帰っていく王女様。
また会う事になるとはどういうことだろうか?
「あと、私の事は気軽に『ラナ』と呼んでください。ではごきげんよう」
僕は軽く頭を下げて王女様を見送った。
王女様を気軽に名前呼びとか、普通に牢屋に入れられそうで恐いんだけど。