15話 ラゼル成分
「さてと、そろそろ寝ましょうか。さあラゼルこっちにくるのです」
「僕はこっちで寝るから、二人は一つのベッドで一緒に寝てよ」
家族とはいえ、年頃の女と男だ。
一緒のベッドは不味いだろう。
「あら~それじゃ、約束が違うじゃないラゼル」
「……約束?」
何の事だろうか、一緒に寝る約束なんてした覚えはないけど。
「盗賊に襲われてる馬車を助ける時に言ったじゃない。ラゼル成分を補充させてくれるって」
「はい。確かに聞きました。いくらでもいいからとも言ってましたね」
リファネル姉さんがこくこくと頷く。
あの時はなんとか馬車を助けたくて必死だったからうろ覚えだけど、確かにそんなようなことを言ってた気がする。
「いや、あの時は必死だったからさ、記憶が曖昧なんだ。それに僕成分って何さ? 僕食べられちゃうの?」
「ふふふ、そんな言い訳は通用しないわよ。観念して今日は昔みたいにみんなで寝ましょ」
レイフェルト姉に背中を押され、ボフっとベッドに寝転ぶ。
そしてすぐに二人の姉が左右にきた。
「こうしてると昔を思い出しますね。懐かしいです」
「昔はこれにルシアナもいたっけ、あの子は今頃どうしてるのかしらね?」
姉さん達、ラルク王国にいるであろう妹の事を懐かしむのはいいんだけどさ。
ちょっと顔が近すぎだよ。
二人共、僕の腕をそれぞれガッチリとホールドして、自分の胸に抱え込んでしまっている。
リファネル姉さんに至っては、僕の顔に自分の頬をスリスリと擦り付けてくるし……
端からみたら二人の美女に挟まれて幸せ者だと思われるのかもしれないが、僕にとって二人は家族だからなぁ。
これが違う女の子だったら幸せなんだろうか。
「ふぁ~~おはようラゼル。いい朝ね」
軽い欠伸をしながら起き上がるレイフェルト姉。
妙にスッキリとした顔をしている。
僕はお陰様で全然眠ることができなかった。
間に挟まれて身動きできず、サンドイッチの具の気持ちがわかったよ。
「おはよう。昨日はよく眠れたみたいでよかったね」
少しの皮肉を込めて、軽い隈ができた目でレイフェルト姉をみる。
「ええ、だいぶラゼル成分を補充できたわ」
だからなんなのさ、その謎の成分。
「ところでお願いなんだけどさ……これ、外してほしいんだけど」
僕の腕を抱え込んだまま、気持ち良さそうに眠るリファネル姉さんに視線を向ける。
自分で抜け出そうと何回も試してみたんだけど、ピクリとも動かなかった。
どんな力してるんだろ、僕の姉は。
「この子は一度眠ると、中々起きないから。もう少し付き合ってあげなさい」
そういって、一人で顔を洗いに行ってしまった。
結局リファネル姉さんが起きたのは昼頃だった。
それから宿屋で食事をしてからギルドへと向かう。
ドラゴンの魔石を鑑定してもらうのだ。
「ラゼルさん、おはようございます。これから出発ですか? くれぐれも気をつけてくださいね。駄目だと思ったらすぐに逃げてください。死ななければ何度だってやり直せるんですから」
ギルドに入るといつもの受付のお姉さんが出迎えてくれた。
「いや、もう依頼から帰ってきたから、魔石を鑑定して貰おうと思ってきたんです」
「またまた、ご冗談を。私をからかおうとしたって駄目ですよ。いくらラゼルさん達が強いからって、流石に昨日の今日で帰ってこれる訳ないじゃないですか」
うん、普通はそうなるよね。
僕だって未だに信じられない。
魔石を見せたほうが早いと思い、コトッと受付カウンターに魔石を置く。
「…………少々お待ち下さい」
受付のお姉さんは魔石を見て、一瞬固まったあとで、ひきつった顔をしながら魔石を奥に持っていった。
昨日の時点でこの国に着いていた事はいわないでおこう。
飲食スペースで飲み物を飲みながら待っていると、すぐに受付のお姉さんが此方に来て、奥の部屋に案内された。
「別にお前らを疑ってた訳ではないんだがな……まさか本当にドラゴンを討伐しちまうとは」
奥ではギルドマスターのセゴルさんが椅子に腰かけていて、机に置かれた魔石を眺めていた。
「私達があんな蜥蜴に負ける訳ないじゃない。さぁ、私よりも蜥蜴のほうが強いと言ったことを謝罪しなさい」
レイフェルト姉がここぞとばかりに畳み掛ける。
余程ドラゴンより弱く見られたことが許せなかったのだろう。
「ああ、どうやら今回はワシの目が曇ってたようだ、悪かった」
素直に謝るセゴルさん。
倒したのはリファネル姉さんなんだけどね。
「分かればいいのよ。それと早く魔石を買い取ってちょうだい」
「ほれ、これが今回の魔石の代金だ」
机の上に白いゴブリンの時の数倍はあるだろう、お金の入った袋が並べられた。
「それにプラスして今回は、ドラゴン討伐に関しても国から賞金が出る事になっておる。近々、国王に呼ばれる事は間違いないから、呉々も失礼のないようにな」
王国の騎士団もドラゴンにやられたって言ってたもんな。
「ドラゴン討伐の事が周りに知れたら、お前等のパーティに入れてくれって連中もかなり出てくるだろうな。これから忙しくなるぞ」
「もうだいぶお金は手に入ったから暫く依頼なんてやらないわよ。これからはこのお金で家を買って、ラゼルとイチャイチャ暮らすのよ」
「私はラゼルと一緒の部屋でお願いします」
「残念、ラゼルは私と同じ部屋よ」
「僕は一人部屋がいいんだけど……」
きっと僕の意見が通る事はないんだろうなぁ。
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