14話 帰還
僕達はシルベスト王国へ戻るべく、うっすらと暗くなり始めた道を走っていた。
走るといったが当然僕は背中に乗せてもらっていた。
申し訳ない気持ちはあるんだけど、僕が自分の足で走ったら遅すぎて、いつまで経ってもシルベスト王国へは辿り着かないだろう。
だから仕方なく背中に乗せてもらう事にしたのだ。
ドラゴンを討伐した後、僕達には二つ選択肢があった。
すぐにシルベスト王国へ戻るか、この洞窟で一夜を過ごし、明るくなってから戻るか。
僕としては今日はここで一旦休んでから、明日の朝に出発したかった。
一日中走りっぱなしで、洞窟についてすぐにドラゴンとの戦いだ。
流石に二人も疲れてると思ったから、少しでも休んで欲しかった。
あれを戦いといっていいかはわからないが。
その事を伝えると
「嫌よ、こんな蜥蜴のいた洞窟で一晩過ごすだなんて!」
「私はラゼルが一緒ならどこでも構いませんが……そうですね、どうせなら暖かいベッドで休みたいですね。私達の事を気遣ってくれるのは有り難いですが、心配無用です。あんなのは戦闘のうちに入りません」
との事で、結局僕達はすぐに出発することにした。
このままいくと、完全に暗くなる前にはギリギリ着きそうだ。
まさかドラゴン討伐に行って、その日のうちに戻れるとは思わなかった。
リファネル姉さんの背中に揺られながら、ふと考える。
この二人の強さについてだ。
まさかドラゴンを一太刀で倒してしまうとは……初代勇者パーティの物語を見た所によると、ドラゴンのブレスは防御不可能の最強の一撃で、飛んできたら避ける事に専念するしかないと書いてあった。
初代勇者パーティで、かつて賢者と呼ばれていた伝説の魔術師『ルフル』の絶対防御魔術ですら軽々と砕かれた。
それなのに……ドラゴンをブレスごとぶった斬るなんて、もはや言葉がでない。
けどもしかしたら、ドラゴンの強さも色々とあるのかもしれない。
強い個体もいれば弱い個体だっているはずだ。
初代勇者パーティの対峙したドラゴンは、もっと強かった可能性だってある。
でも今日みたドラゴンが弱いとはとても思えなかった。
それにこの二人の余裕。
僕なんてこの2日間で死の恐怖を二度も感じたというのに、この人達ときたら全然いつも通りなんだもんなぁ。
ドラゴンと戦うのは初めてって言ってたし、少しくらい焦ってもいいだろうに。
まぁ、結論からいうとこの二人の実力は底知れないということだ。
ドラゴンを単独で倒せるんだ、もはやSランク並みの強さは疑いようがない。
そしてそれを相手にしてもなお、まだ本気を出してないんじゃないかと思えるくらいの余裕。
うん、控え目に評価しても規格外だ。
「あん、ラゼルくすぐったいです」
考え事に集中してたせいか、僕は無意識にリファネル姉さんの首もとに顔を近付け過ぎていた。
「ご、ごめんリファネル姉さん。ちょっと考え事しててボーッとしてたよ」
「もう、無意識のうちにこんなことするなんて、お姉ちゃんの事がよっぽど好きなんですね。ふふふ」
こんなことって……首に息が当たっただけじゃないか。
自分でいうのも少し恥ずかしいけど、本当リファネル姉さんってブラコンだよなぁ。
こんなんじゃいつまで経っても結婚とかできないんじゃないかな。
こんなに美人なのに勿体無いと思うんだ。
その気になれば貴族の人の目にとまっても、おかしくないくらいキレイなのに。
「はいはい、大好きだよお姉ちゃん」
「むむっ、少し言い方が投げやりですね。もう少し真剣に、お姉ちゃん愛を込めて言ってください。さぁ、もう一度お願いします!」
少しからかおうと思っただけなのに、逆にこっちが追い詰められてしまった。
姉さん恐るべし。
そんな感じでちょくちょく姉さんと話しながら走ってたら、だんだんとシルベスト王国が見えてきた。
「リファネル姉さん、ストップ、ストップ、ちょっと止まって!」
「どうしたんですか?」
僕の声を聞いて止まる姉さん。
レイフェルト姉もこっちが止まったのをみて止まってくれた。
「いや、そろそろシルベスト王国に着くから、背中から下ろしてもらおうかなと思ってね。流石にこの歳にもなって、女の人におんぶしてもらってるってのも格好つかないなって」
「少々名残惜しいですが、仕方ありませんね」
「あんたはラゼルとくっつき過ぎよ。次の依頼の時は私の番よ?」
もしかしてこれから依頼のたびに、おんぶしてもらって移動するのかな……
辺りは随分と暗くなって、すっかり夜になっていた。
今日はもう遅いからギルドには明日向かう事にして、僕達はいつもの宿に向かうことにした。
「三人なんだけど三部屋空いてるかな?」
ここ数日ですっかり顔馴染みになった、猫耳が可愛い宿屋の女の子、シルビーに尋ねる。
「あ、ラゼルさん。いらっしゃいませ。今日は大丈夫です。ちょうど三へゃ――」
瞬間、レイフェルト姉が目にも止まらぬ速さでシルビーに近付き、手で口を塞いだ。
と思ったら耳元でコショコショと何かを話している。
そっとシルビーの口から手を離すレイフェルト姉。
どうやらコショコショ話は終わったようだ。
「すいません、ラゼルさん。今日も一部屋しか空いてないんですよ」
満面の笑みで答えるシルビー。
あれ?でもさっき大丈夫って……
「あら~、一部屋しか空いてないなら仕方ないわね。今日は疲れたし、もう三人一緒の部屋でいいじゃない」
「ええそうですね、他の宿屋を探して空いてる保証もないですし」
「えっ、でも……」
「空いてないのですから仕方ないですよ。さ、行きましょうラゼル」
リファネル姉さんに手を引かれ、部屋へと進んでく。
その後ろでシルビーに何かを手渡すレイフェルト姉を、僕は見逃さなかった。
く、買収されたなシルビー……