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13話 VSドラゴン

 


「おかしいわね、中から生き物の気配がしないわ」


「確かにしませんね。ですが念のため中を確認してみましょう」


 盗賊を瞬殺した僕らのパーティは、ギルドから教えてもらったドラゴンの棲むという洞窟に辿り着いた。

 しかし中から生き物の気配はしないらしい。

 僕も二人の真似をして洞窟に意識を集中してみるが…………駄目だ、さっぱりわからない。


「そんなに軽いノリで入って大丈夫かな?」


「お姉ちゃんが一緒なんですよ? 逆に大丈夫じゃない状況なんてありえません」


「ほら、とにかく進んでみましょ」


 自信満々の姉の後ろを渋々ついていき、洞窟に入る。

 洞窟内は外からではわからなかったけど、想像以上に浅く奥行きがなかった。

 すぐに行き止まりの壁にぶつかってしまった。


「何もないね、もうドラゴンも引っ越したんじゃないかな? 今回は諦めて帰ろうよ」


「待ってください。先程までここには何かがいたようです。とても大きな何かが」


 元々ドラゴン討伐なんて反対だった僕は、早々に撤退を提案したのだが、地面に手をつけて何かを感じ取ったリファネル姉さんに止められる。

 大きな何かね、まぁドラゴンの棲みかにきてるんだからドラゴンなんだろうけど、やっぱりいたのか。

 今は狩りにでも出てるのだろうか?


「じゃあ早くここから出たほうがいいんじゃない? こんな行き止まりの所にドラゴンが戻ってきたらヤバイと思うんだけど」


「そうね、ここじゃちょっと戦うには面倒かもね。外で待ち伏せしてましょう」


「いえ、どうやら間に合わなかったようです」


 外に出ようと意見が纏まった時だった。

 只でさえ薄暗かった洞窟内が更に暗くなった。

 何かと思って出口の方を見ると、そこには巨大なドラゴンが鋭い眼光をこちらに向けて立っていた。




 初代勇者パーティの物語にも登場するドラゴン。

 その光沢のある鱗はあらゆる魔術や剣戟を弾き、人の身の長はあろう鋭く伸びた爪はあらゆるものを切り裂く。

 そしてその口からは、全てを燃やし尽くすという灼熱の業火を噴き出す。

 そのあまりの強さと獰猛さに、初代勇者達も一度敗れている。


 昨日、白いゴブリンに感じた死の恐怖。

 生まれて初めて死ぬかと思う程の圧力を感じた。

 しかし今目の前にいるソレは、昨日の恐怖が軽く吹き飛ぶ程のヤバさだった。

 全身から冷や汗が止まらない。

 その鋭い眼光に睨まれただけで僕は、その場に立っている事ができなくて膝をついてしまった。


 冷静に考えて、初代勇者パーティですら一度敗れているドラゴンにどうやって勝つつもりだったのだろうか?

 姉が剣聖と呼ばれる最強の剣士なのは知っているし、その姉と互角の強さを誇るレイフェルト姉もいる。


 僕もこの二人がいるなら安心だと思い込んで、少し油断していたんだ。

 けど、目の前にはその安心を軽々と砕く程の絶望が、怒りの形相で此方を睨んでいる。



「ギゥオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」



 洞窟内に鼓膜が破れそうな程の咆哮が響く。

 余りの音に空気までも揺れてるかのようだ。

 駄目だ完璧に怒ってるよ。

 これは流石に死んだかも……


 怒りの咆哮が収まると同時にドラゴンはその大きな口を思い切り開いた。

 これは不味すぎる。

 十中八九、いやほぼ確実にアレがくる。

 ドラゴンを最強の魔物と言わしめてる、全てを灰儘に帰す灼熱のブレスが。

 しかも、こんな行き止まりの洞窟で。


 終わった。

 これは間違いなく、疑いようもなく死ぬ。

 僕は諦めてソッと目を瞑った。


「あらら? どうしたのラゼル、目なんか瞑っちゃって。さては私にキスして欲しいのね? そうなんでしょ?」


 レイフェルト姉の場違いなテンションの声が聞こえてくる。

 この人は何でこんな時ですらいつも通りなんだろうか? もうすぐ死ぬんだよ?


「キスって……そんなわけないでしょ、死ぬ前にせめて祈ってたんだよ」


「そろそろきます! レイフェルト!! ラゼルを頼みますよ!」


 リファネル姉さんが僕達とドラゴンの間に入る。


 何をするつもりなんだろうか、このままじゃブレスを正面から受ける事になってしまう。


「リファネル姉さっっ――――」


「グオオオオオオオオオオオオオオオォッッッッッッ!!」



 僕が姉さんの名前を叫ぶのと同時に、ドラゴンのブレスが此方に向けて放たれた。

 リファネル姉さんは流れる様な動作で腰の剣を抜き、両手で持ち頭上高く構える。


「ラゼルを……恐がらせるんじゃ、ありません!!!!!!!」


 そしてブレスに向けて剣を振り下ろした。

 瞬殺、凄まじい爆発音が聞こえ、当たり一面土煙に包まれて何も見えなくなった。








「……あれ、僕生きてる?」


「当たり前でしょ? 私達がいるのに死ぬ訳ないじゃない」


 土煙が収まり目を開けると、僕はレイフェルト姉の腕の中にいた。

 ちょうどドラゴンに背を向けて僕を守るようにして抱き締めてくれていた。

 奇跡だ、あのブレスを受けて生きてるなんて!


「ありがとうレイフェルト姉、守ってくれて。でもまだドラゴンが……」


 そうだブレスをなんとか凌いだとはいっても、まだドラゴンがいる。

 またブレスを吐かれたら……


「ちょっと! いつまでくっついてるんですか? もう危険はないんですから離れなさい!」


 リファネル姉さんがこっちに向かって歩いてくる。

 あれ、ドラゴンは?


「あん、もうちょっとだけ~」「いいから離れなさい!」


「ねぇ、ドラゴンはどうなったの?」


「あ、そうでした。これがドラゴンの魔石です。デカイ図体の割には魔石は小さいのですね」


 リファネル姉さんが魔石を此方に手渡してくる。


「……僕目を瞑っててみてなかったんだけど、どうやって倒したの……?」


「それがですね、ラゼルを恐がらせた罪を償わせようと、ジワジワと追い詰めてから止めを刺そうと思ってたのですが、お姉ちゃんうっかり力加減を間違えてブレスごと斬っちゃったみたいです」


「そ、そうなんだ……ははは……えーと、お疲れ様?」


 多分疲れちゃいないだろうけど、僕は姉二人に労いの言葉をかけるのだった。

 ブレスって斬れるものなんだろうか?






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