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12話 盗賊

 


「うわぁっ!」


 走り出したリファネル姉さんの背中で、僕はそのあまりのスピードに驚愕してしまった。

 一瞬で景色が置き去りにされていく。

 馬車よりも速いと自負するだけはある。

 レイフェルト姉さんは、隣を涼しい顔で並走してるし。

 これだけの速さを維持したまま、走り続けることが可能なのだろうか。




 出発してから一刻ほど立った。

 二人の様子を見るに僕の心配は杞憂に終わりそうだ。

 こんだけ走って息切れひとつしてないって……この人達は本当に僕と同じ人間なのだろうか……


「ん? なんだろあれ?」


 まだかなりの距離があったが、遠くの方で人が集まってるようにみえる。


「どうやら盗賊のようですね。馬車が一台囲まれてます」


 剣聖は目もいいらしい。

 僕がぼんやりとしか見えない状況を正確に捉えていた。


「面倒だから放っておきましょ」


「それもそうですね」


 馬車は放っておく事にしたようだ。

 しかし僕としては出来ることなら助けてあげたい。

 盗賊に捕まった人達の末路を知ってるからだ。

 女性は男達の慰みものにされ、男は奴隷として売られてしまうかだ。

 奴隷としての価値がない場合はその場で殺されてしまうことも多いと聞く。


「もし姉さん達が嫌じゃなかったらなんだけど、できれば助けてあげたいな。駄目かな?」


 姉さん達が嫌がったら諦めるつもりだ。

 実際戦うのは姉さん達だろうから、役に立てない僕が強制はできない。

 それにこの世界じゃ、盗賊に襲われて命を落とすなんて珍しい事じゃない。


 それでも助けられるのなら助けてあげたかった。

 この二人にはそれを片手間で片づけるだけの力があるんだから。


「んー、そうですね。後でラゼル成分を補充させてくれるのでしたら助けるのも吝かではありません」


「ズルいわ! なら私もやるわ」


 僕成分を補充とはなんだろうか?

 よくわからないけどそれで助けられるのなら。


「いくらでも補充していいからお願い」


 二人は更にスピードを上げて盗賊達の方へと向かう。





「グヘヘ、こいつはかなりの上玉じゃねーか。流石は貴族の娘だぜ」


「駄目だぜ貴族様がこんな弱っちい護衛しか連れてないなんて」


「親分さっさとやっちまいましょうよ」


「待て待て慌てるな。まずは俺が味見をだな」




「はぁ~……盗賊というのは相変わらず下品で、品性の欠片もないわね」


 レイフェルト姉がやれやれといった感じで盗賊の会話に割り込む。

 僕達がついた時には馬車を数十人の男達が囲っており、護衛で雇ったであろう冒険者達が血を流して倒れていた。

 恐らく死んでいる。

 その馬車の中では高そうなドレスに身を包んだ、僕と同じ歳くらいの女の子が震えていて、執事っぽい初老の男が女の子を守ろうと盗賊の前に立ち塞がっていた。


「あん? なんだお前ら……」


「あんた達に教える必要はないわ、どうせすぐに死ぬんだもの」


「生意気だな、だが……よくみたら二人とも相当の美人じゃねーか。こりゃ楽しめそうだな! おいお前達、馬車の方は後回しにして先にこいつらだ! 男の方は殺して構わねーぞ!」


 親分と呼ばれた男は、標的を僕達へと変えたようだ。

 ぞろぞろと盗賊が僕達を取り囲む。


「あなた今……ラゼルを殺すっていいましたか?」


 リファネル姉さんがゆっくりと腰の剣を抜いた。そしてほんの僅かに剣が揺れたようにみえた。

 その直後だった。


「ぎゃぁっっ!!」「がっ、な、なんだこりゃっ!」「うわぁぁぁっ!!」「俺の腕がぁっ!!」


 ボトボトっと鈍い音が聞こえたので視線を向けると、全ての盗賊が両腕を斬り落とされた状態で膝をつき、苦痛に悲鳴をあげていた。


「ラゼルに殺意を向けるとは……万死に値します」


 斬った動作が全く見えなかった。

 レイフェルト姉と違って剣は抜いたままなので見えるけど。


「大丈夫ですか? これよかったら使って下さい」


 その隙に僕は馬車の方へと駆け寄り、少し怪我をしていた女の子に持っていたポーションを渡す。

 どうやら生き残っているのはこの子と執事っぽい男の人だけだった。


「あ、ありがとうございます。本当に助かりました。もう駄目かと思いました……うっ、」


 助かった安堵からか女の子は泣き出してしまった。どうしたもんか……


「ラゼル、長居は無用よ。早く行きましょ」


 カチャンという音のあとにレイフェルト姉の声が聞こえた。

 止めはレイフェルト姉が刺したようだ。

 全ての盗賊の首が地面に転がっていた。

 可哀想だとか、そういうことは一切思わない。

 こいつらは盗賊だ。

 今までに同じような事を何回もしてるだろうし、生きたまま国に突き出しても死刑は免れないだろう。


「見た所馬車は無事のようです。その執事がいればシルベスト王国までは大丈夫でしょう」


「ありがとうございます。このご恩は必ずやお返しします。ですが、あなた達は何者なのですか? 護衛に雇っていた冒険者は全員Bランクだったんですが、盗賊になすすべもなくやられてしまいました。その盗賊をいとも簡単に斬り伏せるとは」


 執事がお礼と共に何者かと尋ねてくる。


「ただの冒険者よ。あなた達もシルベスト王国にいるならまた会うかもしれないわね。さ、早く乗ってラゼル」


 こちらに背中を向けて乗れと合図してくるレイフェルト姉。

 次はこっちなのか。


「待ちなさい。なに当たり前のように乗せようとしてるのですか? それは私の役目です」


「ここまではあなたに乗ってたんだから次は私の番よ!」



 結局今度はレイフェルト姉の背中に乗る事になった。

 別れ際、執事の人も流石に苦笑いしてたよ。




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