10話 勇者パーティ
シルベスト王国に家を買うという目標が決まった所で、僕達はリファネル姉さんの冒険者登録をするべく、再びギルドに戻ることになった。
「じゃリファネル姉さん、そこの受付カウンターで登録できるから。僕達は何かいい依頼がないか見てるから、終わったらきてよ」
「わかりました。レイフェルト、ちゃんとラゼルを守るんですよ?」
「ギルド内で危険何てないわよ。過保護ねぇ」
僕から言わせてもらうと、どっちの過保護具合も変わらないと思う。
二人とも僕が追放されたからって国を出てまで、僕についてきてるんだから。
「おい聞いたか? もうすぐこの国に勇者パーティが来るらしいぜ?」
「マジかよ。噂では聞いた事あるけど、本物見るなんて初めてだぜ。しかしなんでまたシルベスト王国何かにくるんだ?」
「なんでも勇者パーティの一人がこの国の出身なんだとさ」
依頼が貼ってある掲示板に向かう途中、飲食スペースの方から冒険者達の声が聞こえてきた。
勇者パーティとは、魔王を倒す為に世界中を旅してる、世界に認められた強者の集まりだ。
初代勇者パーティの話はとても有名で本にもなっている。
僕も小さい頃はその本を見てた。
物語の中の勇者はとてもカッコ良く、次々と魔族の幹部を倒していって、最後には苦戦しながらも魔王を討伐して、世界に平和をもたらしたとされてる。
僕も憧れに胸を焦がしたもんだ。
本気で勇者パーティに入りたいと思っていた時もあった。戦闘の才能がなくて諦めたけど。
さて魔王を討伐したのになんでまだ勇者パーティがあるのかというと、理由は簡単で、また新たに魔王を名乗る魔族が現れたらしい。
それが10年程前の話だ。それからすぐに新しく勇者が選ばれたが、未だに討伐には至っていない。
「すいません、勇者パーティがこの国にくるって本当ですか?」
僕は勇者と聞いてワクワクする気持ちを押さえられなくなって、気付いたらその冒険者達に声をかけていた。
仕方ないじゃないか。
昔憧れた、物語の中の存在に会えるかもしれないのだから。
「おう、誰かと思ったら白ゴブリンを倒した兄ちゃんじゃねーか。噂になってるぜ」
「いやあれは僕が倒した訳じゃなくて、あっちの女の人が倒したんですよ」
掲示板にいるレイフェルト姉を指差す。
「マジかよ、あんな綺麗なのに腕も立つってか? 羨ましいぜ。勇者パーティが来るってのは本当だぜ。確かな筋から聞いた情報だから間違いないぜ。いつ来るか正確な日はわからねえがな」
どうやら勇者パーティがくるのは間違いないらしい。
でも依頼の途中で来てタイミング悪く会えないなんて事になったら嫌だな。
いっそのこと勇者パーティが来るまで依頼を休むってのもありかもしれない。
Sランクの依頼なんて受けたら、いくらあの二人が強いとはいってもすぐには終わらないだろうし、このチャンスを逃したらもう二度と会えないかもしれない。
「ふふふ、ラゼルは昔から勇者のお話が大好きだったものね」
その後、冒険者達と少し話して、軽くお礼を言ってレイフェルト姉の所に戻ってきた。
「まあね。でも凄くない? 勇者パーティだよ? 楽しみだなぁ」
「そんな事よりもラゼル、これをみてちょうだい」
そんな事って……レイフェルト姉が渡してきた依頼書に目を通す。
「……レイフェルト姉? これドラゴン討伐って書いてあるんだけど、見間違いじゃないよね?」
「見間違いじゃないわよ? 掲示板を見てたらそれが一番報酬がよかったのよ。それだけで家を買えるだけの額が手に入るわ。決定ね」
ドラゴンなんて物語の中の勇者パーティでも手こずる相手だよ? それをそんな軽いノリで決めないで欲しい。
それに、勇者パーティに会えなくなるかもしれないから、それまで依頼を休もうと思ってたのに。
「ドラゴン討伐ですか? ふむ、手頃ですね」
冒険者登録を終えたリファネル姉さんが戻ってきたようだ。
ドラゴンが手頃って……
「ちなみに姉さん達はドラゴンと戦ったことあるの?」
「私はないわよ。リファネルもないでしょ?」
「そうですね、私もないです。けれど見たことはありますよ? 安心してくださいラゼル。あんなのは蜥蜴に翼がついただけです。お姉ちゃんの敵ではありません」
戦った事もないのに、この人達のこの自信は何なんだろうか? どんな相手でも自分が負けるなんて微塵も思っちゃいない。
いや僕も姉さん達が負けた話なんて聞いた事ないし、想像もできないけど。
それでもドラゴンが相手となると少し心配だ。
「もうすぐこの国に勇者パーティがくるらしいんだけどさ、僕どうしてもこの目で見たいんだ。だからそれまで依頼は休みにしない?」
「それなら早く討伐して早く帰ってくればいいだけです。いつくるかも定かではない者達を待ってる時間が勿体ないです」
リファネル姉さんは基本的には僕の事を第一に考えてくれる優しい姉だけど、勇者が絡むと話は別である。
昔から僕が勇者パーティの凄さを語ると姉さんは決まってヘソを曲げて「お姉ちゃんのほうが凄いです」って張り合ってたっけ……
「そうね。その間に他のパーティにこの依頼をとられたら嫌だわ。ちゃちゃっと行って帰ってきましょうか」
ドラゴン討伐の依頼を受ける人なんて滅多にいないよ……
二人は足早に受付の方に行ってしまった。




