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1話 追放

 

「失礼します、父さんお呼びでしょうか?」


 ここはラルク王国の訓練場で、僕はその訓練場にこの国の王でもある父に呼び出されていた。


「うむ、よくきた。今日はお前に大事な話があって呼んだのだ」


 父は訓練場の外を窓から眺めていたが、僕がくるとこちらに振り返り話し始める。


 僕に大事な話とはなんだろうか、正直心当たりはないが。

 けれど普段僕になんの関心もない父が呼び出すくらいだ、何かあることは容易に想像できる。


「ラゼルよ、お前は今いくつになった?」


「今日で丁度16になります」


 自分の子供の歳くらい覚えておけと、言いたくなる気持ちを押さえて答える。

 成る程、この質問だけで父が何を言いたいのかわかってきたぞ。


「そうかもう16歳か、お前の歳には姉のリファネルは剣の才能を発揮していて、いくつもの大会で優勝して、周りに敵はいないとさえいわれていた。そして今では剣聖とまで呼ばれている」


 確かにリファネル姉さんはすごい人だった。昔から何をしても人よりできて、剣に至っては10歳を越える頃には、大人でも勝てる者は少なくなっていて、今じゃ最強の剣聖として周りからは若干恐れられている。


 そんなリファネル姉さんも、僕にはいつも優しくしてくれた。

 僕には周りの人に恐がられているなんて想像できなかった。

 多少スキンシップが多い気もするけど……そう、多少ね。


 父が言葉を続ける。


「そして妹のルシアナだ。ルシアナはまだ13歳だが、その魔力量はもう魔力水晶では測れない程あり、新しい魔術を次々と開発していて、すでに賢者とまで呼ばれている」


 昔は何をするにもルシアナは僕の背中にくっついてきて可愛かったなぁ。

 それが今じゃ賢者ね、何が起こるかわからないもんだ。


「だがお前ときたらどうだ? その歳になっても剣の大会じゃ毎回初戦負け。魔術に関しては初級魔術すら使えない。そして特に頭の回転が速い訳でもない」


 まぁ姉と妹がこれだけすごいと、僕はさぞ才能がなく映るだろう。

 いや、実際にないのだが。


 昔から僕は何をしても普通だった。

 そして姉と妹が非凡だったために、いつしか父は僕に、興味をなくしたかのような目を向けてきていた。




「確かにリファネル姉さんやルシアナと比べると僕は全然駄目ですが、僕は僕なりに努力しているつもりです」


 少しばかりイラっとして反論する。

 確かに大会では初戦負けで、魔術の才能もないかもしれない。

 けど僕も才能がないなりに頑張っているつもりだ。


「そうだな、確かにお前は頑張ってるのかもしれない。毎日遅くまで残って修行してるのも聞いてはいる」


「なら――」


「だが逆にいえば、それだけ頑張っても結果が変わらないということは、才能がないということだ。ラゼルよ、お前はもう限界だ」


 才能がないのなんてわかってるよ。

 だから頑張ってたんじゃないか。


「ならどうしろというのですか?」


「お前もわかってると思うがこのラルク王国という場所は他の国とは違う。この国は基本的に実力主義の国だ。馬鹿でもなんでも実力さえ示せば上にいける。力が全てを決めるといっても言い過ぎではないだろう。そんな国で、国王の息子がお前のように弱いと民に示しがつかんのだ」


『超実力主義国家ラルク』周辺の国ではそう呼ばれて恐れられている。

 その理由は簡単で、この国は武に長けた者が多く、今まで戦争で負けた事がないという国だからだ。


「よってラゼル、お前をこの国から追放とする。明日までに出て行け」


 どこまでも冷たい声で告げる父の顔を見上げると、そこには相変わらず興味なさそうな目をした国王が、僕を見下ろしていた。











 夜になり皆が寝静まった頃、僕は国を出ることにした。

 追放と父にいわれた時は、頭が真っ白になり飛び出してきてしまったが、冷静になって考えてみるといい機会かもしれない。


 剣の腕も魔術の才能も普通の僕は、この国にいても生きづらいだけだし、違う国にも興味はあった。


 とりあえずは寝床と食事の確保をしなければならない事を考えると、なんにしてもお金がないと話にならない。

 冒険者になってお金を稼いで、自由に暮らすってのもありかもね。

 そのうち仲間ができてパーティとかを組んだりしちゃって……彼女なんかもそのうち……


 あれ? なんかワクワクしてきたぞ。


 そうだよ別にこの国に残ってやりたい事があった訳でもないし、出てけといわれたのなら自由に楽しく生きてやろうじゃないか。


 才能はないかもしれないけど、僕はポジティブさには自信がある。

 そこだけは誰にも負けないと思う。


 僕は僅かばかりのお金と、自分の剣を腰に差して、暗い夜の道を出口に向かって進んだ。






「あれ?」


 出口近くに着くと、門の所に人影が見える。


 おかしーな、この時間帯は誰も居ないはずなんだけど。


 近付くにつれて、その人影の正体が誰かわかった。


「……何してるの? レイフェルト姉……」


 金色の髪を腰まで伸ばし、腰に剣を携えた美女がそこにいた。


 月明かりに金色の髪がうっすらと反射していて、とても綺麗だ。


「国を追放されたって聞いたけど、意外と元気みたいねラゼル」


「まあね、一瞬だけ落ち込んだけどもう大丈夫。なんならこれからの事にワクワクしてるくらいさ」


 レイフェルト姉はリファネル姉さんの親友で、昔から何をするのも一緒だった。

 本当の姉ではないけれど、昔からの癖で今でもレイフェルト姉と呼んでしまう。


「ふ、相変わらずポジティブね。ちょっとこっちおいで」


 ちょいちょいと、手招きされて近づく


「えいっ!」


 ボフッ


「…………なにしてんのさレイフェルト姉……」


 今の状況を説明すると、僕の顔はレイフェルト姉の豊満な胸に埋もれていた。


 柔らかい、いい匂いがして落ち着く。


「いや~実の父に国を追放とかいわれて、内心落ち込んでるだろうなと思ってね。昔からラゼルはこれしてあげると喜んだからね。ふふふ。いい子いい子」


 そりゃ小さい頃の話で、この歳でこれは恥ずかしいというかなんというか……


 でも頭撫でられるの気持ちいい……


 ハッ、危ない危ない。

 気をしっかり持たないと、いつまでも抱きついてちゃいそうだ。


「もう子供じゃないんだから、離してよレイフェルト姉」


 何とかして、レイフェルト姉の胸から脱出する。


「あん、残念。もう少しギュってしたかったのに」


「でもありがとう。最後にレイフェルト姉の温もりを感じられてよかったよ」


 この国に未練はないのは確かだけど、レイフェルト姉やリファネル姉さん、ルシアナともう会えないのは少し悲しいな……


「あら? これからはいつでもギュってしてあげるわよ」


「え?」


「ん?」


 どういう意味だろうか? 別れ際の冗談かな?


「えーと、僕はこの国を追放されちゃったから、もうこの国に戻る事はできないんだ。だからレイフェルト姉とは今後、会うことはないと思うんだけど……」


「それなら大丈夫よ、私もラゼルについていくもの」


「え?」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ラゼルは第何王子ですか?
[気になる点] 16歳で国王と王子であれば「父さんお呼びでしょうか?」は流石に幼すぎるので「父上、お呼びでしょうか?」がいいのではないでしょうか あとまあ16にしては能天気というか楽観的すぎるという…
[一言] いやむしろ超実力主義なのだから、王子たる主人公さんは父王を弑する義務があるのでは。継承には父王は生きていてはならない。だって超実力主義だから(๑╹ω╹๑) やだハードボイルド
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