第二話 ラノべ?
――――
「……」
「……」
目と目が合ってから、またも沈黙してしまう。が、神岡は勇気を振り絞り、
「そ、その〜……自己紹介でもしようぜ? 互いに素性が分かんねぇのはなんか嫌だろ?」
「……は、はぁ〜」
当の桜井は困惑していた。と、言うよりも恐怖していたに近いだろう。突然声を掛けられたどころか、自己紹介しようなんて言い出す始末だ。それも、ヤクザ顔負けの男がそんな事を言い出すのだから。
「俺は神岡誠也ってんだ。あんたは確か……」
「桜井」
「桜井、司です」
突然、名前をキッパリと名乗りだした。神岡は少し驚いたのか、一度ハッとした表情をしてから、
「司、ってのか。いい名前だな」
神岡は少し笑みを浮かべた。
「そうですか……」
桜井も安心したのか、少し息を吐いて、下を向いた。
「……そういや、その手に持ってるヤツ、何なんだ?」
「え?」
桜井がずっと手に持っていた物、それは本であるのは間違いは無い。表紙には男のキャラの両脇に女性キャラがいる。所謂、ハーレムの様な表紙であった。
「……ずっとどっかに隠してたのか?」
「ええ……まぁ」
少し見られたのが恥ずかしかったのか、またも下を向いていた。
「何つうか、変わった本だな」
「まぁ、そうですね……」
「読ませてくんね?」
「……え?」
神岡の突然の言葉に、桜井は思わず声を漏らした。
「……構いませんけど」
「ありがとよ」
そう言うと、桜井はどこかぎこちない様子で神岡に本を手渡した。
「……“現実で何もかも駄目だった俺が異世界でチートだった件”……? チートってなんだ?」
(えっ……そっから?)
桜井は内心、少し小馬鹿にするかの様な感情が湧いた。しかしそれを表情には出していなかった。むしろどこか微笑ましかった。
「よし、読むぞー」
――――
「ど、どうでしたか……?」
「……」
神岡はどこか、気難しそうな表情でラノベを見ていた。
「……まだよく分かんねえや」
「そ、そうですか」
神岡からすれば、それは未知の世界だった。それもそうだ、彼は生まれてこの方、ラノベなんて読んだことも無いのだ。
「……図書館」
「へっ?」
「図書館に、この本の続き……ある気がすんだ」
「ホントですか!?」
「ウオッ!?」
桜井が突然、顔を前に出してきたので、神岡は、後ろのめりになった。
「あ、ああ」
「い、行きましょうよ! あ、明日行きませんかぁ!!?」
(な、なんだよ!? 急に元気になりやがった!?)
(でも、なんだか……いいやつそうだ)
神岡にはどこか、微笑ましくなるような感情が湧いていたのだった。