プロローグ
……別に、何かした訳じゃなかった。
「被告人に対し、無期懲役を言い渡す!」
その後も続く言葉は、自分の耳から横へ流れ出ていく。言わせてもらうと、俺は“無実”だ。裁判官に対して聞く耳なんてない。長くて腹が立つ。
弁護士に嵌められて、俺が殺人犯に仕立て上げられた。簡単にあった事を今纏めた。
周りもガヤガヤしだし、益々苛立ちが燃え上がる。
「これにて裁判を終了する!」
一々煩い。殺してやろうか。そんな思いを胸に秘めながら、俺は連れて行かれる。どこにかって? そう、刑務所だ。
――――
ここは、ずっと昔……戦前くらいからずっとある由緒正しきクソッタレ刑務所、通称は<穴蔵>。
どうしようもない衛生環境、クズ看守、所長に対する賄賂、刑務所の中のギャンググループ、人の道から外れたありとあらゆる“無期懲役者”達と“クソ共”が集まる地獄だ。
そうして……青色の囚人服に金髪のツーブロックヘアに顔に傷がある男、“神岡誠也”こと俺はムショ内の洗濯場で現在働き中だ。
「……ファーァ」
デカイ欠伸をカマしながらデカイ洗濯機の中に洗剤をやたらめったらと詰め込む。ボタンを押して、洗濯し始めたと同時に俺はトイレに向かう。
「おい! またトイレかよ!?」
一人の囚人が、俺に対して叫ぶ。
「……看守さんもいねえし、サボらせてもらうよ」
俺はそう言うとヨロヨロと真っ直ぐ歩きだす。
実質ここの看守どもはほぼ機能なんてしていない。まあ、キレさせたらアホみたいに警棒で殴りかかってくるが。
「……おっと」
あまり見たくない奴らがいた。そう、ギャンググループの奴らだ……廊下の所で八人くらいか屯していて、俺のことを見ている。
「よーう! 神岡くーん!」
俺の名を叫んだオールバック頭が特徴の男……“田中修司”。こいつがこの刑務所内のギャンググループのリーダーであり、最低最悪のサディストだ。
元々は、それなりの組の幹部で、厳格な性格だったらしいが……今では“アレ”をしてしまい、こんな恐ろしそうな奴になってしまった。一応、俺の知り合いでもある。
――――side change
「……お前は」
恐る恐る、神岡は声を掛ける。
「おいおいツレねえなぁ!? もっと元気に声掛けりゃあいいのによ〜? 友達だろお? 俺らはァさぁ」
「……それは高校時代の話だろうが。テメエがヤクでラリてっからの話じゃねえ」
辛辣な言葉を返した。神岡は腹を立てていた。
「クカカ! 言うねえ!」
一々煩かった。神岡の中では、殺してやりたい。と言う感情が渦巻いていた。
我慢する。という手も彼にはあったのだろう。だが、それは出来ない。腹が立つ、それだけでもう許せなかったからだ。
だから、静かに、そう告げたのだ。
「お前……また、殺されかけたいか?」
――……瞬間、空気は一瞬で凍りついた。
それと同時に、坊主とモヒカンの二人の取り巻きが俺に近寄る。
「テメエ……何様だコラァ?」
「田中さんに向かってェ……そんな口はねぇわなぁ?」
二人共余程腹を立てているのか、その表情は憤怒の形相そのものであった。
ジリジリと睨み合い、先に言葉を掛けたのは坊主頭だった。
「田中さん、コイツ、殺してもいいすか?」
「ククク……殺せたらな……」
対する田中は、笑みを見したたまま、腕を組んだ。
「つぅー訳だ。恨むんだったら田中さんにじゃなくて自分を恨むんだな……」
坊主頭とモヒカンは、拳を握りしめ……
「「ウラァ!!」」
真っ直ぐなストレートを神岡の顔面に目掛けて打ち込んだ。だが、
「「……!?」」
片方の拳は掴まれ、片方の拳は確かに顔面にヒットしている。なのに、――その顔は、確かに二人を睨みつけていた
「「……!!??」」
二人は、思わず恐怖し、手を離した。そうすると……
「今度はこっちの番だな」
冷淡に、恐ろしげに、神岡は口を開いた。
「……フンッ!」
それは一瞬の事だった。 ――神岡の拳は、いつの間にか、坊主頭の目の前に来ていたのだ。
「へ?」
――ドギャッ!!
鼻のへし折れた嫌な音と、拳が直撃した事による音が混じり合い、歪な音が響いた。
「ぎぃやぁぁァァァ!!?」
血が吹き出る鼻を抑えながら、坊主頭は崩れ落ちた。
「ヒッ……!」
モヒカンが冷や汗を出し、恐怖したその直後に、既に神岡は目の前に迫っていた。
「フッ!」
神岡は、足を前に突出す。グキャリ、とモヒカンの腹の骨が割れた音が、その場に木霊す。
「ガッ! ……アァ……」
モヒカンは、腹を押さえながら蹲り、やがては痛みで気を失い、そのままばたりと倒れた。
「……」
――血に濡れた手。そして、冷酷な目付きは、田中とその取り巻きを見据えていた。
「ハハッ! 相変わらずハンパねえなぁおい……?」
称賛とも、畏怖ともとれない言葉を神岡に向ける。
「二度と、俺の視界に入るんじゃねえ……」
神岡は拳の血を払いながら、田中を睨み続けた。
そうして、後ろを振り向いて、また神岡は歩き出した。サボる気は失せたのか、洗濯場の方へ歩いていたのだった。
田中は、歩いてゆく神岡を見ていた。どこか遠い物を見るような目で。
「……まだ、“あの事”を引きずってんのか」
そう田中は、誰にも聞こえないような声で、呟いた。
――――
「……」
神岡は、手にポケットを突っ込みながら、不機嫌な顔で歩いていた。
「おーい! 神岡ー!」
「?」
急に呼ばれた事に驚いたのか、声が聞こえた方向にすぐ顔を傾けた。
「今日は新入りどもが来るぜ……! 見に行こうや!」
「あぁ……そうだったな」
――……そう、全ては、ここから始まる。神岡と、“彼”が出会うことで、物語は、始まる。
皆が夢見るチートな力、ハーレム、異世界、それらは、本当の幸せでしょうか? それらを問う作品でございます。また、次回もよろしくオナシャス!