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時間を燃やす2

 ジリジリと寄せられた炎が前髪に当たり、散った火花が目に飛び込んで。


 ――――。


 瞳に熱を感じた刹那、けたたましい轟音と息さえ出来ないほどの風圧を浴び、目の前の炎がかき消された。


 一瞬にしてその突風が須々美さんだけを襲い、彼女の身体が目にも留まらぬ速さで視界から消えていく。


 何が起こったのか分からず、私は風上に視線を向けた。

 その先にいたのは、見覚えのある男だった。


「だから深追いはするなと言っただろう、藤宮 六花」


 オカルト研究部の部長松田 浩二。

 彼は、この場の状況を見ても戸惑うことなく、まるで慣れたような様子で私に駆け寄ると、そのまま私の手を引いて屋上の入口へと連れて行った。


「な、何がどうなってるんですか?須々美さんは……」


「説明は後だ!まずは逃げるぞ」


 須々美さんに何かをされてから今まで、どれだけ力を入れても私の身体は動かなかった。

 しかし彼に触れられてからは、普段通りとはいかないまでも、なんとか歩くことが出来た。


 部長が入口の扉を手で押した時、突如として扉が炎に包まれる。

 咄嗟の出来事に私達はたじろぎ、炎から逃げるように扉から離れた。


「設置型か。どうやら簡単には逃がしてくれなさそうだな」


 険しい表情で振り向く部長の視線の先には、額から血を流しフラフラと立ち上がる須々美さんの姿があった。


「痛いじゃぁないですかぁ部長。あなたは私に協力してくれるんじゃぁなかったんですかぁ?」


 おぼつかない足取りで、部長へ殺意のこもった視線を向ける。


「普通の人間ならアレをくらって立ってられないんだがな。やっぱりお前は化け物だよ」


 須々美さんから視線を逸らさずに、私に離れろと合図を送ると、部長は彼女の行く手を遮るように立ちふさがった。


 彼に交戦の意思があると判断した須々美さんは、不敵に笑い、制服の中から赤い結晶を取り出すと、さっきと同じように手のひらに炎を形成させた。

 その様子はまるで、氷を溶かして水を作るようにも見えた。


 お互いが睨み合い、しばらくの均衡状態が続く。

 先に痺れを切らした須々美さんが腕を振り上げた瞬間に、待っていたと言わんばかりに部長が尋常ではない速度で間合いを詰める。

 そして彼女の腕を掴み、大きく振りかぶると彼女の身体ごと宙へ投げ飛ばした。


 しかし、須々美さんを掴んでいた手から炎が燃え広がり、部長の身体を火花がじわじわと蝕んでいく。

 部長は次第に増える炎に悶えながらも、壁や床に擦り付けてなんとか火を消そうとしていた。

 

 一方、須々美さんは優雅に着地すると不気味に嘲笑い、苦しそうに這いずる部長の首に手を伸ばした。


「あっ、はぁっ、はぁあ。部長なんかが私に勝とうなんて100年早いんですよぉ」


 そしてもう片方の手で赤い結晶を取り出す。


「カッコつけて出てきたワリに呆気なかったですね。さぁてどうやって燃やしてあげましょうか。うーん、じっくりと燻製なんてどうですか?」


 赤い結晶がポロポロと部長の服の上にばらまかれ、次第にそれは小さな炎に変わりはじめた。


 このままじゃ部長は須々美さんに焼き殺される。


 私は近くにあったほうきを握りしめ、須々美さんに向かって飛びかかった。


 ――――しかし、私の身体は空中で静止する。


「六花ちゃん、好奇心旺盛なのは大好きだけど、私とあなたじゃ格が違いすぎるのよ。後で綺麗にしてあげるから少しじっとしててねっ!」


 左手で振り払われて、勢いよく壁に叩きつけられる。かろうじて骨折はしていないだろうが、全身に痛みが走り、身体が鉛のように重く感じる。


 再び部長の首に手を伸ばすと、須々美さんは見たことも無いくらい嬉しそうに微笑んだ。


「さぁ部長、最後に言い遺す言葉は何ですか?」


 須々美さんの言葉を聞き、部長は少し黙った後、不敵に笑う彼女に対抗するようにニヤリと口角を上げた。


「『 時間稼ぎはもう十分だろ!』」


 部長の視線が自身ではなく、その背後に向けられたものだと気づいた須々美さんは、余裕の表情を捨ててハッと振り返る。


 その背後には、誰にも気づかれずいつの間にかそこに居た少年の姿があった。

 顔を見てすぐに、彼が部室で話しかけてきた少年だと気づく。

 少年の手にはナイフのようなものが握られており、それは太陽の光を反射し、宝石のように透き通って見えていた。


「やっぱり。……もう1人能力者がいたのねっ!」


 目の前の少年に敵意を感じ、須々美さんの右腕から投げられた赤い結晶が、空中で炎に変化し少年に襲いかかる。


 しかし、少年はそれをナイフで軽々と叩き落とすと、地面に落ちた炎から残った赤い結晶を取り出してみせた。


「ガソリンを染み込ませた布に炎を纏わせ、時間停止を施して結晶状に固めている。これを使えばいつでもどこでも大規模な火事を起こせるってわけか。確かにとんでもない力だな」


 少年は結晶を握りしめると指先で粉々にすり潰した。すると結晶の欠片は黒く濁り、パラパラと床にこぼれ落ちる。


 それを見て愕然とする須々美さん。

 さっきまで見せていた遊び心を無くし、少年に向けて真剣な表情になる。


「あなた部室で六花ちゃんに話しかけてた生徒よね。いったい何が目的かしら?」


 睨みつける須々美さんに少年は怯む様子はなく、対等の立場のように返す。


「俺は奥原 和人。松田からの依頼で組織からきた者だ。調査の結果、組織は遠山 須々美を第三世代の魔女と判断した。よっておまえを拘束させてもらう」


 奥原 和人と名乗った彼が話終えると、須々美さんは悔しそうに舌打ちをする。そして部長を踏みつけ彼に纏われていた結晶を潰した。


「部長、初めから私を裏切ってたんですねぇ。これはちょっとやそっとじゃあ殺せませんよぉ」


 彼女はまるで悪魔のような顔で、一切抵抗できずに苦しむ部長をいっそう痛めつけた。


 その僅かな隙を逃さず、少年がナイフで切りかる。 須々美さんは部長から離れ、切り裂かれた袖の隙間から炎を発し、自分の身体までもを炎で包んでいく。


「ちっ、いったいなぁ!……、見たところあなたは部長よりは強いようね。少し火傷するけど、これは本気にならないといけないわねぇ」


 全身に炎をまとい、地面まで巻き込んで炎上している彼女の熱気が、私のいる場所までコンクリートの床を伝って届いてくる。


 須々美さんの雰囲気が変わり、少年はナイフを構える。だが、須々美さんの出した炎がそのナイフに触れ、瞬く間に引火してナイフを侵食する。


「この炎は金属だろうと簡単には消えないわよ。どこまでも広がってあなたを焼き尽くすまでね」


「あぁ、そうみたいだな」


 大して驚く様子を見せず、いくら振っても炎が消えないことを確認すると、少年は火のついたナイフを宙に放り投げた。

 すると、ナイフは空中で溶けるよに液状に変化し、ただの水になって周辺の炎をかき消しながら、音をたてて床に水たまりを作った。


 ナイフがあっという間に形を無くす様を見て、須々美さんも私と同じく唖然としていた。


「アハハ!何考えてるのか知らないけど自分から武器を捨てるなんてバカじゃないの!?」


 炎を身に纏い、間合いを詰め一気に勝負をかけようとする須々美さん。対して、少年は近くにあった水入りのバケツに手を突っ込んだ。


「今さら水じゃあ私の炎は消しきれないわよ!」


 飛びかかり、炎炎と燃え盛る右腕が少年の身体を掴んだ。


 ザッ――――。


 宙に舞い、燃えたままゆっくりと浮かぶ右腕。


 出血することさえ忘れ、身体から切り離されたそれは天高く回転する。そして空へと上がる勢いを無くすと、周囲に歪な血の雨を降らせた。


 自分の右腕が無くなったことに遅れて気づいた須々美さんは、悲鳴を上げながらも出血を抑えるため、残った左手で患部を押さえ込んでいた。


 対する少年は、バケツから汲み上げた水をさっきのナイフ以上に鋭く長い刃の形にし、座り込む彼女の首元に突き上げる。


「遠山 須々美。大人しく投降すれば、今ここで命を奪いはしない」


 少年の淡々とした言葉に、須々美さんは口を塞ぎ、傷口を握りしめたまま応えようとしていない。


 俯いた前髪に隠れ、少年から見えなくなっている須々美さんの瞳。

 私の位置から辛うじて見えたそれは、部長を燃やそうとした時や焼死体の話をした時と同じく、とても恐ろしく、理性では抑え込めないほど悪意に満ちた眼をしていた。


 直感で理解する。


 須々美さんはまだ諦めてはいない。それどころかもっと酷い何かを考えている。


 重い体を無理やり立ち上がらせ、少年に向けて精一杯叫んだ。


「まだ何かある!気をつけて!!」


 私の言葉を聞いて少年は身構える。が、それより早く須々美さんは左腕を服の中に入れると、手に収まらないほど大きな、濁ったどどめ色の結晶を取り出し少年にかざした。


「これが私の奥の手よ!!」


 2人の姿が光に飲み込まれ、激しい爆発音と共に熱風が、屋上の炎や設備までもを吹き飛ばす。


 吹き飛んでくる物を避けるために、私は咄嗟に姿勢を低くし、倒れるように身体を伏せた。


 そのさなか、私の背後で『 ぐしゃり』と鈍い音がして振り返る。

 私の背後、血に濡れた壁に少年の身体が叩きつけられていた。


 少年の意識はないようで、壁一面に滴る無残な血飛沫が、彼が生存している可能性の薄さを証明していた。


 砂煙が次第に晴れていく。


 その中心で呆然と立ち尽くす少女。

 全身に灰を纏い、黒く焦げた服の隙間から無くした腕を探すように、赤い結晶の残りカスを取り出しては無造作にばら撒いている。

 彼女の表情は、影炎に囲まれ歪んで見えていた。

 どこかを見つめ、錯乱した様子の彼女はまだ私に気づいていない。


 ゴクリと、息を呑む。すると、隣から小さな声が聞こえてくる。


「ぉ、おい……、藤宮 六花。動ける……のか?」


 全身に火傷を負い、這いずりながら私の元へ現れ座り込む部長。喉を負傷したのか、彼の声はとても掠れていた。


「私は大丈夫です。それよりあの人が……」


 少年がいる壁に目をやり、部長も私と同じことを感じたのか首を横に振る。


「もう俺たちだけで須々美を止めるしかない。協力してくれるか?」


 枯れた声で悔しそうに歯を噛み締める。


 暴走する須々美さんを止めたい気持ちは、私も一緒だった。


「……わかりました。私は何をすればいいんですか?」


「すまんな、お前を巻き込む形になってしまって」


 部長は深々と頭下げる。だが今回の件は、私自身が自ら進んで飛び込んだことだ。助けられて感謝する道理はあっても、謝られる道理なんて微塵もなかった。


 すぐに頭を上げさせて、部長の考えを尋ねる。


「お前は須々美をある位置まで誘導してくれればいい。あとは俺がさっきのように止めていた風を放って、須々美を下のプールへ吹き飛ばし戦意を完全に削ぐ」


 『 止めていた風』も気になるが、それ以上に引っかかっる部長の言葉。


「プールに吹き飛ばす!?ここからプールまでの高さは20メートルはありますよ。いくらなんでもやりすぎじゃないですか?」


 部長の言葉に唖然とし、反論する。


 しかし部長は頭を抱えて、


「これでも甘いくらいなんだよ。須々美は今日、焼死体を目撃した時からお前とここへ来るまでに、目に付いた人間全てにさっきの赤い結晶を仕込んでいたんだ」


 彼は嘆くようにぐっと力を入れた。


 彼の言葉が意味する事象を想像する。


 100人単位の人間が発火装置となり、それを媒介に無数の炎が突然現れ、鉄さえ焼き尽くす勢いで炎上する。

 もし実際に放たれたのなら、被害は学校どころかこの街全てを灰の海に変えるだろう。

 

 青ざめる私の顔を見て、部長は言葉を付け足す。


「だが、それに関しては心配するな。俺と和人とで時間はかかったが全ての結晶をあいつに気づかれず、事前に処理することができた」


 ……そうか。だからあの時部長は『 時間稼ぎはもう十分だろ!』と言ったのか。


 しかしまだ私は納得出来ずにいた。今まで普通に暮らしてきた中で、須々美さんとは楽しく過ごした思い出がある。


「俺は須々美の命を奪うつもりは無い。それにお前も今まで見てきただろう?あいつのタフさを。簡単には殺せない。しかし、もしここであいつを止められなければ、俺達は殺されて被害はさらに拡大する」


 深く考え実感する。


 たしかに部長の言う通りだった。


 須々美さんは、自分の身体がいくら引火しようが屈することなく、投げ飛ばさても立ち上がり、腕を切られても反撃のチャンスさえうかがう。

 さらには、爆発を中心で受けたのに、未だ倒れることなく周囲を燃やし続けていた。


 こんなのを目撃して今さらただのか弱い女の子だ、なんて方が無理がある。


 部長と会話している間も、炎の勢いは収まることなく周囲を飲み込み、このまま燃え広がれば校舎が崩れ、私達はおろか須々美さんも無事では済まないだろう。


 私が止めるしかないんだ。それが須々美さんのためにもなると信じて。


 他のことを考えている時間はあまりない。意を決し、私は部長の合図で須々美さんの前に飛び出した。


 焦点のおぼつかない瞳で私を見つけると、彼女は嬉しそうに、しかし不気味にニヤリと口角を上げながら口を大きく開いた。


「よかったぁ、六花ちゃんまだ死んでなかったぁ。あなたは約束通り綺麗に燃やしてあげるね」


 彼女が纏っていた炎が私に襲いかかる。


 間近で散々見てきた炎を寸前で躱し、火がつかない距離を維持する。

 どうやら彼女は、今までの戦いで相当疲弊しているらしく、動きが鈍り、早めに決着をつけようと息を荒らげて私に近づいていた。


 逃げながら、あと少しで須々美さんが部長の指定した位置にたどり着く。


 ――――しかし、


 足が動かない。


 考えていた中で最悪ともいえる事態。今まで何度も起こったように、私の身体は埋め込まれたように静止する。


 須々美さんが冷静さを失っていると思い油断していた。


 このままじゃ、私や部長だけじゃなくもっとたくさんの人が犠牲になるかもしれない。


 動け私の身体、部長やあの少年は止められていなかったんだ!私だって動けるはずなんだ!


 足以外の全ての筋肉に力を込め、後遺症が残るぐらいに身体を引っ張る。


 関節が軋む音が脳裏に響く。だが、それに比例して身体は次第に動き出す。


 私が動けることに気づいた須々美さんは、一気に近づいて行く手を阻むように左手を挙げる。


 その瞬間、須々美さんは部長の指定した位置にたどり着き、背後から吹き付ける暴風を浴びた。


 それでもまだ、屋上を満たす熱気が暴風の威力を落としたのか、はたまた彼女の尋常ではない執念の力なのか、須々美さんはフェンスを背にし暴風に吹かれながらも体制を崩さない。


 あと少しなのに。どうにかして須々美さんの注意を反らせれば、部長の手助けになるんじゃないか。


 周囲を見回し私に何が出来るのか考える。


 炎の海の向こうに、花壇に水をやるホースがあり目が止まる。


 あれを使えば、もしかしたら須々美さんの注意を反らせるかもしれない。


 しかし、行く手を阻むのは燃え盛る業火。

 飲み込んだ灰を吹き上げてはまた、新しい燃焼対象を探している。


 その中で僅かに炎の勢い弱い空間を見つける。それは少年がナイフを水に変えた場所だった。


「ここを抜けるしかない!」


 意を決して炎の中に飛び込んだ。


 身体中を炎が包むが走れなくはない。


 そのまま全力疾走で切り抜けて火の海を抜けると、ホースを掴み、限界まで蛇口を回して須々美さんの顔に目掛けて水を放った。


 身体に放水や暴風を受け、彼女は体制を崩しながらも、今度は私に向けて赤い結晶を飛ばしてきた。


 まだ身体は思うように動かせない。


 だめだ、避けられないっ。


 逃げられない恐怖から思わず目を塞ぐ。


 ――――。





 いつの間にか音が消えていた。

 今朝と同じように。


 ゆっくりと目を開くと、赤い結晶は発火することなく目の前の空中で静止していた。


 そして気を失っていたはずの奥原 和人が立ち上がり、私の前を歩いている。


「これだけ水があったら十分だ。良くやったよ、藤宮 六花。お前達の根性見たら、うちの連中なら泣いて欲しがるだろうよ」


 そう言うと、ホースから出ている水に手を入れる。すると、みるみるうちに水のコーティングを腕に纏わせていき、彼は私の目を見て、


「お前とは、いつかまた会うかもな」


 笑みを浮かべると、部長の風を利用して須々美さんの方へ走っていく。


 そして、須々美さんの炎をものともせず駆け抜け、そのまま彼女の首を掴み屋上から飛び出した。


 2人の影が下へ消えていく。


 目の前で起こった咄嗟の出来事。私はただ見ているしかできなかった。


 彼が通った足元は炎が消えていて、身体が動くようになるとその道をたどり、追いかけるようにフェンスの下を覗き込む。


 しかし、須々美さんや少年の姿はそこになく、代わりに巨大な水の柱がプールに出来ているだけだった。


 柱は『 ザバン』と大きな音を立てて崩壊すると、小さな雨を降らせ、その中には小さいけど綺麗な虹が出来ていた。


 下からそれを見て、楽しそうに騒ぐ生徒達の声がここまで届いてくる。 


 さっきまでの張り詰めていた空気消えていて、ようやく頭が理解する。


「……終わったんだ」


 肩の力がドっと抜け、忘れていた痛みが身体襲う。

 痛みを堪え、私は部長の元へゆっくりと歩いていった。


 老いたように疲れ果てていた部長。肺の中に溜まっていた緊張した空気をすべて吐き出し、周囲を見回した。


「はぁ、……。屋上の風も俺が止めている。須々美の力が無くなった今、これ以上炎が燃え広がることはないだろう」


 彼の言う通り、周囲の火は徐々に弱まり、屋上には設備の残骸や灰だけが残されていく。


 負傷した部長に応急処置を施し、命に別状は無いこと確認していると、爆発音を聞いた先生達が屋上に駆けつけていた。




 あの事件から数日後。


 私たちの周辺で発生していた放火事件は完全に終息していた。

 世間では犯人不明のまま未解決事件として扱われ、このまま話題は薄れ、いつかは忘れられるのだろう。


 部長の話では、奥原和人は時間停止能力者を保護観察する組織の人間であり、部長とは過去に組織の末端として働いていた時に知り合ったらしい。


 その後の彼や須々美さんの動向については、組織関係者にしか知る術はないという。


 時間停止に深く関わっているであろう謎の組織。


 私はオカルト研究部に入部し、今後はこの組織について調べることにした。


 いつの日かまた、彼のような時間停止能力者に会えると信じて。

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