時間を燃やす1
水を削って造られた鳥の彫刻。
私の知っている物理法則ではありえないそれを見つめ、ふと物思いにふける。
もしも、時間を止められるのなら何をしてみたい?
普段は入れない場所に行ってみたい。
バイキングでお腹が裂けるくらい食べてみたい。
世界中の本を全部読んでみたい。
24時間寝て過ごしたい。
会えなくなる人の近くにずっといたい。
考えれば考えるほどやりたい事が浮かんでくる。
そんな妄想、叶うはずないって思ってた。
そう。……彼に出会うあの日までは。
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――――。
さっきまで何も起きていなかった。普通に歩いていたはずだった。
いや、もしかしたら今の方が『何も起こっていない』のかもしれない。
目の前に展開される異様な光景に息を呑む。
木々のざわめきは止み、鳥のさえずりは消え失せ。
そして木の葉は空中で静止していた。
手を伸ばし宙に置かれた木の葉を掴もうとする。
木の葉まであと20センチ。
もう少しで届きそうになった時、木の葉は思い出したかのように風に吹かれ、指の隙間を抜けゆらゆらと地面に吸い込まれていった。
ふと我に返る。
気がつけば、木々は風にザワザワと音をなびかせ、忙しなく鳴き声をあげた鳥たちは、既に大空へ飛び立っていた。
たった今、私の目の前で起こった現象。
自分以外全ての動きが止まり、世界が時間を消失したような感覚。
なんの前触れもなく訪れ、白昼夢のような不安感に襲われる。だが私には、何故かこの現象が夢や幻には思えなかった。
そのまま急ぎ足で学校に着くと、真っ先にとある部室へと向かっていく。
堂々と掲げられた『 オカルト研究部』の看板。
ドアには新入部員募集中のポスターが貼られていた。
昨日からこの部の部員たちが、せかせかと体験入部の準備をしているのを、私は知っていた。
そんな中、入り口へ不気味に光るUFOの模型を運んでいる同じクラスの遠山 須々美さんを見つけ、声をかける。
「おはよう須々美さん」
須々美さんは、私に気づいて明るく微笑む。
「あ、おはよう六花ちゃん」
彼女はすぐに、私の雰囲気がいつもと違うことに気づいて首を傾げた。
「そんな顔してどうしたの?」
さっきの異様な出来事を、あまり表情に出したくなかったので小さく俯く。
「ちょっと相談したいことがあって……」
急いで体験入部の準備をしていたらしい須々美さん。それにほかの部員が目に入り、私のために時間使わせるのがなんだか申し訳なく感じた。
「……あ。もぉ、六花ちゃんうちの部のことは気にしなくていいよ、話したいことがあるんでしょ。部室では話せないようなことかな?」
長い付き合いの彼女は、私のちょっとした仕草から全てを察してくれていたようで、いつものように優しく微笑みかけてくれた。
「ありがとう須々美さん。大丈夫、出来れば多くの部員の人に聞いてもらいたいから中で話したいな」
須々美さんに案内されて部室の中に入る。
部室の中には、体験入部のために用意されたピンぼけした宇宙人の写真や、子供が作ったような何かの土偶。さらには、豆粒みたいな隕石や奇妙な色の液体などが展示されていた。
しかし、手間がかかってそうな装飾とは裏腹に、見学者は数える程しかいない。
「あんまり人いないんだね」
思わずでた言葉が須々美の心臓に刺さる。
「そ、そうなのよぉ。頑張っていろいろ試してるのに全然集まらないの部員!」
この部活動で過去に勧誘目的で行われてたイベントは、『 火星人との交流訓練 タコの吸盤に絡まれよう』『 未知の生命体 学校の肥溜めで発見されたUMA』『 幻の大地 地図にない死体だらけの孤島』などだ。
資料を見たが人を集めるのは無理だと思う。
私も何度か誘われたがさすがに断ったし。
須々美さんはどこからかハンカチを取り出して「キーッ」と噛み付いていた。
苦笑いを浮かべて、話しを本筋に戻すために歩きながら話す。
「ははは……、実は今日話したかったのは時間を止めることについてなの」
話を聞く彼女の動きがぴたっと止まる。
「時間を止める?」
少し考え込んだ後、須々美さんは記憶を辿るように額に手を当て、「うーん」と硬い表情になった。
考え込むと彼女がこうなるのをよく見る。
そうなってしまうと、時間がかかることが多いので私は一息ついていた。
するとなぜか、背後から声をかけられた。
「ほんとうに時間を止められるのか?もしできるのなら、俺からコレを奪ってみろよ」
声の方を見ると、展示されていたフラスコを勢いよくかき回し、中の泡を溢れさせている男子生徒の姿があった。
顔に覚えがないので、彼は部活の見学者なんだろう。
「き、君何やってるのよ!」
展示品を振り回されたので、須々美さんが慌てて止めようとする。しかし、それを無視して異様な雰囲気を漂わせ、依然としてフラスコをぶん回している男子生徒。
自信に満ちている彼の顔を見ていると、不思議と時間が止められる気がして、手を伸ばしフラスコに念を送る。
「はぁぁああ!!」
腹の奥から叫んだ。
――――。
刹那。騒がしかった部室の音が静まり、今朝のような音の無い光景が周囲を包む。
やった、時間を止められた!
時間を止められた達成感と、感動で思わず拳を胸に押さえ込んだ。
まさか本当に私が時間を止められ……
「び、びっくりしたいきなりどうしたの?」
あれ?
時間が止まったはずなのに、どうして須々美さんの声が聞こえるんだろう。
冷静になった私の耳に、続々と他の部員の囁き声が届いてくる。
「……おい、なんなんだよあの子」
「いきなり叫び出したぞ。しかもなぜか手を伸ばしてるし」
「下手な都市伝説やホラーより、ああいう女の子の方がよっぽど怖いですよねぇ」
ざわつき、不信感に寄った視線が向けられる。
わ、私はあの部員の言う通りにしただけで……。
視線を動かしさっきの生徒を探す。だが、どれだけ見渡しても部室に彼の姿はなかった。
そして、理解する。時間を止めていたんじゃなく、いきなり私が叫んだからみんなが驚いて動きを止めていただけだったことを。
全員の視線を浴び、顔が火照り冷や汗が頬をつたる。
この場の空気を凍りつかせてしまいどうしようかと思案していると、入口のドアが音を立てて開き、みんなの視線がそっちに移ったのでホッと肩をおろした。
部室に入ってきたのはオカルト研究部の部長 松田浩二。
彼は、須々美さんが私の入部を推薦した時、何故か断っていたので嫌いだったが、今回だけはその顔を見て嬉しくさえ思えた。
部長が顔を見せてからの第一声。
「おいおまえら今日の体験入部は中止になった」
部長の言葉に不満の声を漏らす部員達。須々美さんも不満げな表情を浮かべている。
それを見て部長は面倒くさそうにも話を続ける。
「はぁ。さっき学校の物置小屋で火事があったそうなんだよ。周りに火の手は無くて周囲は学校の敷地に囲まれてる。先生や消防は不良がタバコ吸ってて不始末が原因じゃないかって言ってる。だが一応不審者には気をつけろよ!……とのことだ」
そして部長は、
「んじゃ、俺は三度寝してくるんで後よろしく」
と言い捨ててそそくさと部室を出ていった。
またざわめく部室。部長の話した内容と、せっかく準備したものを片付けることに対しての不満が飛び交っていた。
しかし何人かの生徒は、彼の言葉に納得した表情を見せていた。
私もそんな部員と同じく納得していた。
なぜなら最近この近辺では不審火が多発していたからだ。何度か学校でも注意喚起を受けていてる。しかし、誰も出火の瞬間や犯人を目撃していなかった。
こんなタイミングで体験入部を強行して、もしトラブルでも起きれば、部活動を出来なくなるかもしれない。
重苦しい空気の中、不安そうに須々美さんは呟いた。
「不審な人……。さっきの六花ちゃんの友達は確かに不審だったけど、まさかね」
「私の友達?」
誰のことを言ってるのか分からずきょとんとする。
「あのフラスコ振ってた変な人よ。六花ちゃんの友達なんでしょ」
「え、あの人ここに体験入部しにきた人じゃないの?私は知らないよ」
須々美さんは、入口で記入する体験入部者の名簿を見ていたが、どうやら彼らしき人物の名前は無いらしい。
突然現れ、私に時間を止められるのかと聞いてきた少年。気づいた時には煙のように姿を消していた。
よくよく考えると、確かに彼はかなり怪しい。
「そうなの?うーん、あの人なんか変な感じがしたのよ。お願い六花ちゃん、彼を探すの手伝ってくれない?」
もともと時間停止については、私が須々美さんを巻き込んだことだ。今更断る理由もない。
それに私も時間停止について、彼が何か知ってるのなら聞きたいことが山ほどある。
「うん、まかせて!」
唐突に現れ、そして消えた少年。私と須々美さんは彼の手がかりを探すために、火事が起こった物置小屋へ向かった。
火事現場の周辺では、烏合の衆のような野次馬が集まり、消防車や放水対象にスマホのカメラを向けていた。
人をかき分けて進んでいると、しだいにある臭いが鼻に突き刺さる。
それはガソリンの臭いだった。臭いは進めば進むほど強くなっていき、野次馬の中にも鼻を塞いでいる人が何人もいた。
その野次馬が見つめている先の建物は、真っ黒に焼け焦げ、灰を含んだ白い煙を巻き散らかせている。
実際に建物を見て、私は違和感を覚えていた。
これまで物置小屋には何度か入ったことがあるけど、この物置小屋にガソリンを使うような物は置かれていないはずだった。なのに、周囲に充満するガソリンの臭いはとても強い。
人間の仕業だとしても、誰にも見られずにどこかからガソリンを運んできて、ここに放火することなんて出来るのだろうか?
未だ奥の方で燃え盛る炎。それは、この物置小屋が何かの拍子で偶然炎上したのではなく、誰かの明確な意志によって放火されたことを物語っていた。
想像よりもはるかに凄惨な光景に、須々美さんは言葉をなくし両手で口を塞いでいた。
大量の放水を受けているのに、いまだ完全には消えていない炎が、バチバチと木製の柱を侵食していた。
建物が崩れ野次馬の波が大きく揺らいだ時、人の群れの中に部室で出会った少年を偶然見つけた。
「須々美さんアレ!」
少年に向けて指を指す。が、いつの間にか須々美さんとは距離が離れていて、私の声は彼女に届いていないようだった。
人の波がさらに激しく蠢き、彼の姿は段々と隠れるように奥へと飲み込まれていく。
彼を見失いそうになり私は、
「須々美さん、私さきにいってるね!」
と、言い残して人の群れの中へ飛び込んだ。
少年を見かけてからしばらく走り続け、
「確かにこの方向に行ったはずなのに」
中庭まで来たが少年を途中で見失っていた。
――――。
俯いた直後に音が消える。
今朝の現象を思い出し、咄嗟に顔を上げ周囲を見回した。
中庭の中央に植えられた大木。それを写生している女子生徒。廊下をふざけながら話して歩く男子生徒達。
その動きが全て止まり、私だけがこの時間が止まった世界に取り残されていた。
間違いない。こんどは確実に時間が止まっている。
この状況、何が起こるのか分からないので慎重に足を進める。
数歩歩いた時、突然の悲鳴と共に『 ボボボッ!!』と、何かが爆発したような轟音が鳴り響いた。
そして背後から熱い風が吹き込み、私は目の前の芝生に倒れ込んだ。
何が起こったのか理解出来ずに振り向くと、中央の大木が真っ赤に燃え上がり、一瞬にして枝葉全体が炎に包まれていた。
激しい閃光に目を奪われる。
すぐ近くにいた先生が中庭に飛び込み、悲鳴をあげていた生徒に駆け寄って校内に連れていく。
立ち上がれずにそれを見ていると、私のもとにも誰かが走って来ていた。
「おい、大丈夫か?いったい何があったんだ!」
よく見知った顔。彼はオカルト研究部の部長だった。
必死の形相で何かを探しているように当たりを見回し、息を荒らげている。
今の彼に『 時間が止まりいきなり木が炎上した』と、言っても信じてもらえるだろうか。さらに混乱させるだけなんじゃないか?
今はまだ、信じてもらえる範囲のことを話そう。
「部室にいた怪しい生徒を須々美さんと追いかけてたらこの辺りで見失って。そしたら急に木が燃えてて……」
「須々美と一緒だったのか。あいつは今どこに――――」
部長の言葉の途中、その言葉をかき消すくらい大きな声が遠くから近づいてくる。
「おおぉぉぉぉぉぉおい!!」
噂をすれば影がさすと言わんばかり。声の主は須々美さんだった。
こっちに手を振りながら走って来る。
「もぉ、酷いよ六花ちゃん。私を置いてくなんて」
はぁはぁと若干バテてる様子の須々美さん。
「ご、ごめん。部室のあの人を見つけて、私焦っちゃってたみたい」
普段見慣れない、大声をあげて走り出す須々美さんというインパクト大の存在を目撃して、私と部長は面食らってしまう。
部長はコホンと咳をすると、いつにないほどに部のリーダーらしく真剣な眼差しを浮かべ、
「事態が事態だ、俺は先生ともう少しここを調べる。今日は休校になるだろうから、お前らは人探しなんてやらずにさっさと家に帰れ!」
「はーい、わかりましたー」
二つ返事で部長の意見を受け入れる須々美さん。
こんな意味不明な非常事態の中、聞き分けが良すぎて違和感を感じるほどだが、部長はその様子に気づいていないのだろうか?
もしかしたら須々美さんは、私の知らない何か見つけたのかもしれない。後で聞いてみよう。
くるりと方向転換した須々美さんを追いかけようとすると、部長の声に引き留められる。
「……おい、藤本 六花。世の中には知らない方が幸せだったと思えることが腐るほど転がってる。あまり深い詮索はするもんじゃない」
いつも見せていた気怠そうな態度はそこに無く、どこか達観した様子だった。
どうやって反応していいのか困り、コクリと首を立てに降って逃げるように須々美さんの方へ走り出す。
そのまま校舎の中へ二人で入って行く。
「ふ、フフ、フフフン!」
さっきから何か様子が少しおかしい須々美さん。
こころなしかワクワクしているようにも見えた。
階段を急いで登り、上へ上へと向かって行く。
「どこに向かってるの?」
「屋上よ。……えっと、さっき見たのよ。彼がこの先へ向かっているのを」
「彼って、もしかしてあの時部室にいた人? 」
私の問いかけに頷くと、須々美さんはいっそう嬉しそうに微笑んだ。
屋上へ向かう階段の最後。
その先には両開きの大きな扉があり、普段の人気のなさから照明は着いておらず、不気味な雰囲気を醸し出していた。
二人で左右の取っ手に力を入れて押し込む。その扉はいつもより重く感じた。
扉は重量の割に音もなく開き、太陽の光が差し込んで視界が少し霞む。
屋上には花壇があり、色とりどりの花や野菜が植えられていた。
周囲を見回すが、屋上には私達以外の人影はなく、隠れるような遮蔽物も見当たらない。
下を除くとプールがあり、その先では、休校になり家へ帰宅する生徒達が見えていた。
でも、やっぱりどこにも少年らしき姿は無い。
そういえば須々美さんは、少年がここに向かって行くのをどうやって見たんだろう?
ふと疑問に思い須々美さんに目を向けると、彼女からさきに口を開いた。
「さっきの火事でね、六花ちゃんが居なくなった後に生徒が一人焼死体で見つかったの。みんな誰も巻き込まれていないって思ってたから、遺体が見つかった時はすごい騒ぎになってね」
話し出した彼女から何故か感じる、言い様のない不快感。
彼女の言葉が直接脳裏に響いたような、不思議で不気味な感覚に囚われる。
須々美さんの瞳に視線を合わせる。
口は笑っているのに目は笑っていない。
彼女の瞳はまるで私の心の中を深く覗き込んでいるようで、とても冷たく闇を孕んでいるようにも見えた。
彼女は平然とした口調で、まるで楽しかった思い出でも語るかのように話を続ける。
「人を殺したのはアレが初めてだったの。今まで巻き込んだことはあったけど、怪我だけはさせないようにしてたのよ」
須々美さんは何を言ってるんだろう?
まるで自分があの火事を起こしたような……。
「でもね、初めて焼死体を見て知っちゃったの。さっきまで普通に暮らしていた人間が灰まみれの骨と皮になり、それを見つけた他の生徒が悲鳴をあげて泣き叫ぶ。そこにあるのは、ただの好奇心から一瞬にして非日常に叩き込まれる理不尽さ!あぁ、思い出しただけで涎がでちゃう」
須々美さんは身体を震わせ、自分自身を抱きしめるように悶えていた。
「もちろん六花ちゃんは分かってくれるよね」
私に向けて伸ばされた彼女の手。飼い猫の喉を鳴らすように、私の喉を丁寧に撫でている。
咄嗟に振りほどこうと力を入れた。
――――。
しかし。
か、身体が動かない。
全身に力を入れているはずなのに、私の身体は何かに埋め込まれたように1ミリも動かすことができなかった。
その場に座ることも出来ず、彼女から目を背けることさえ出来ない。
喋ろうと口に力を入れるが、口は普段とは比べものにならないほど遅く開いていき、言葉を発することは出来そうになかった。
「うーん、興奮しすぎて強く止め過ぎちゃったみたい。ならこれで喋れるわね」
須々美さんの手が私の額をポンと叩く。
「あ、あがぁ……はぁはぁ」
入れていた力が一気に解放され、開かれた口から声が盛れる。
それを見ていた須々美さんは、嬉しそうに私の頭を撫でて不敵に微笑んだ。
「さぁ、これで六花ちゃんも話せるよね。改めて聞きたいんだけど、六花ちゃんはもちろん、私の放火を理解して手伝ってくれるよね?」
また彼女の手が私の喉に向けられる。
この状況から考えられるのは、須々美さんは何か得体の知れない力で今までの火事を起こしていた。
そして、たとえ人を巻き込んだとしても、また繰り返していく。
心臓が爆発しそうになりながら、必死に彼女に向けて声をあげる。
「……須々美さん。……もう、やめて」
私の言葉を聞いた須々美さんは、いつものように額をに手を当てると「うーん」と首を傾げ、
「その返事はNOってことよね」
悪意を剥き出しにした瞳で、私の顔に手のひらをかざした。
「実は私、初めてあった時からずっと六花ちゃんのこと、燃やしてみたいって思ってたんだぁ。今まで我慢してたけどこれでようやく叶えられるね」
須々美さんの手のひらをよく見ると、淡い赤に染まった結晶があった。
結晶は光を反射してゆらゆらと模様を描き、パチパチと音を立ててグラデーションを混じらせている。すると彼女の手のひらに赤い閃光が宿り、その中心から小さな火の粉が形成された。
次第に火の粉は大きくなり、彼女の手のひらから溢れるほどに成長していた。
「綺麗でしょコレ。ちゃんと調節すれば、ほんの小さな炎片が大きくなって、やがて街さえ飲み込む炎だって作れるのよ」
顔に近づけられた炎。熱気から逃げるどころか目をそらすことすら出来ず、あまりにもの恐怖で悲鳴さえ上がらない。
ジリジリと寄せられた炎が前髪に当たり、散った火花が目に飛び込んで――――。