あなたへ、ピアノより
あなたの細い指先が、滑るように私を撫でる。
私から漏れる音は、あなたの指の動きに合わせて速く激しいものに変わっていく。
ずっとこうしてあなたと向き合っていたい。
それなのにどうして、あなたは私から離れてしまったの?
私に触れることがなくなったあの日、あなたは初めて私を力強く叩いた。
私は悲鳴をあげた。
私はまたあなたと奏でたかったのに、どうして私を捨てるの?
あぁ、せめて最後に一度だけ、あなたと音を奏でたかった。
私の生み出す最後の音は、炎に焼かれ苦しむ悲鳴でしょう。
もっと、あなたと綺麗な音を…。
あなたの机にはもう楽譜も置いていないのね。
まだ私は音が出せるのに、まだ私はあなたに弾かれたいのに、まだ私は…。
あぁ愛しき奏者、私はさよならの音を出すことさえもあなたがいなくてはできないわ。
最後に弾いて、私を弾いて。
ねぇ、どうしてあなたはピアノをやめてしまったの?
おんなじね。
私も音を奏でない。