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8 交流

あれから、月が満ち欠けを繰り返して庭の梅は満開となり春も近い。

本当なら宝珠と会って遊びたいというのに、今日の菖蒲は大納言家(だいなごんけ)の三の姫にお呼ばれしている。

年頃の近い貴族の姫とはお友達となることを母に定められ、毎週のようにどこぞのお屋敷で開かれる女の子だけのお遊び会に参加させられるようになった。

今日もこの場には歳の近い姫たちが幾人(いくにん)招待(しょうたい)されて来ているのだ。

いつも遊びと言えば決まっていて、はしゃぐ事もできない双六(すごろく)、本気を出せない貝合わせ、大の苦手な人形遊びに、袿の色の組み合わせの好みの話、そして年長の姫達による恋のお相手の夢想で終わるのだ。

庭に降りることも許されず、ひたすらにお部屋の中だけでの上品なお遊び。

祖母から叩き込まれたようにお行儀よくしながら、話し方も可愛らしくと気を遣う。

それでも口さがない姫の一人や二人はいるもので、父親が異国人であることや、両親と共に暮らしていないことを(あわれ)むような言葉を使い、その(じつ)育ちの悪さや作法を(けな)してくるのだ。

始めこそ気のせいとも思って流していた菖蒲も、段々と明け透けに馬鹿にされるようになっては黙っているのも限界だ。

「まぁ、菖蒲様は快活(かいかつ)だけれどとても可愛らしい所もおありになるのよ。ご両親と離れて暮らすことはお寂しいはずですのにそんな様子も見せずいじらしいこと。でも頻繁(ひんぱん)に文を通わせていらっしゃるから宮中の話題についてもきっとお詳しいわ」

大納言家の三の姫である撫子(なでしこ)は、今日の主催者らしく菖蒲を(かば)うと、そっと閉じた貝を手に乗せて微笑む。

詳しくはないと否定しかけて、その貝が口は閉じていろという意味だと菖蒲は理解する。

貝合わせの遊びは地貝と合う出貝を探し出す遊びで、貝の中の絵も楽しめることから女の子に人気があり、選んだ貝が合うかを閉じて見せてから開いて手元に置いて数を競う。

宮中のこととなると誰もが興味津々で憧れる姫は多く途端に質問攻めにされた。

「宮中のことはあまり他言できないの」

もっともらしく言えば深くは聞かれないのでなんとかやり過ごせる。

その日、口さがない者達は気まづくなったのか他に余計な口を滑らせる子はいなくなり、遊びは何事もなくお開きとなった。



母の文によれば、撫子は気立てもよくしっかりとした性格でありながら、温和な姿勢を崩さない出来た姫君で、よく観察(かんさつ)し手本とするようにとのこと。

他の姫達との交流によって円滑(えんかつ)なお付き合いや、(すき)のない受け答えを学べと。

宝珠と本気で争う貝合わせを恋しく思いながら、こんな(はず)ではなかったと振り返る。

礼儀作法は苦行でしかなく気力は()がれるばかりで、体を動かしたくとも剣術も馬術も禁じられ、庭に降りることも許されず、男の子と顔を合わせてはいけないなんてーー

「あぁ、つまんないわ」

宝珠と許されている三日に一度の文通には、主に愚痴と日々の些細(ささい)な事を知らせている。

どんな姫達と遊んだのかと書いて送ると、宝珠からは仲良くなれるための助言などを(もら)えてとても参考になるのだ。

同じお屋敷に住む従姉妹姫達など、庭で一緒に遊ぼうと近寄っただけで泣かれてしまい、以来避けられている。

菖蒲には他に相談できる友達がいないので、ついつい宝珠にはなんでも話してしまう。

作法も性格も完璧な宝珠なら、きっと苦労もなく姫達と仲良くなれそうだ。

「母上の理想の姫って、宝珠を女の子にしたような姫に違いないわ」

庭から香る梅の香りが宝珠の使う文の香を思い出させ、会いたい気持ちがいっそう強くなるのに母の言い付けには逆らう勇気もない。

せめて母上を満足させられる姫を演じられるように励もうかと思い始めた菖蒲。

しかしすぐに突飛な思いつきが頭に(ひらめ)

「そうよ、手本なら身近にいるじゃない」

文の最後に、女の子だけの遊びの会を左大臣邸で(もよお)すので、女装して助けに来て欲しいと(つづ)る。

これなら楽しくなりそうだわーー


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