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アルタワグナー戦記  作者: H氏
シーズン1 皇女慟哭編
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スミカ イリエ

荒野を二台の超巨大貨物トレーラーが走る先頭のトレーラーには客室と隊長室があり積む巨人機はミヨコの乗る管制索敵専用機とアズマの乗る壊れた森林伐採作業用巨人機、後ろの二台めのトレーラーにはスタッフルームがあり皇女の『銀狼リイバルガイア』にアズマ用の中古の解体作業用巨人機を積んでいる、そしてその横に二台の巨人機『黒竜』と『白凰』その前方に三台の補給物質を積む軍用トラック。


先頭トレーラーに収納された森林伐採作業用巨人機の腹部にあるコックピットハッチがゆっくりと開きツインテールのちょっと童顔で丸眼鏡の娘がコックピットの中を覗く、彼女が着ているのは体にフィットしたパイロットスーツ、オレンジ色で彼女のスタイルの良さを引き立てている、彼女の名前はミヨコ カナエ年齢はアズマより三歳若い二十四、1010小隊の目であり耳であり口となる彼女はアズマに恋心を抱くが告白する勇気が無い乙女でまたアズマはその手の事には超鈍感であるため毎日がハラハラの困った娘である。


コックピットの中ではアズマが『時忘草』のタバコを吸いながら寛いでいるそんな様子を見たミヨコは少しホッとしてアズマに声を掛ける、「わっ煙っぽい!アズマっち、何そんなところで寛いでいるのよ心配したでしょうが早く出て来ないとスミカさんに怒られるよ。」


「スミカちゃんにはここで少し休むと報告した。」、とアズマは疲れた表情でミヨコに答える。


「スミカちゃんって、相変わらず隊長を子供扱いだねアズマっちは、・・仕方ないか、アズマっちのほうが実際は軍歴が長い先輩だもんねぇ。」


アズマはコックピットの中から出て格納庫にある簡易椅子に座りながら、「いや、そう言う訳じゃないんだけどさぁ、」、精神年齢五十の俺から見れば彼女もかなり年下に見えるんだよなぁ、実際この分けの分からないジェネレーションギャップには本当に困っているのが本音。


「ところで、今何時、俺はどれだけ寝た?」


「今十四時、ほれっ食べなよ、アズマっちは三時間は寝てた。」、ミヨコはアズマに近づきながら持っているショルダーバッグから携帯食を取りだしアズマに投げる。


アズマは、ミヨコが投げた携帯食を片手で受け取りそれを口に入れながら、「でっ、精霊機のパイロットはどうしたの?」


ミヨコは、少し暗い顔でアズマの横に簡易椅子を組み立てそれに座りながら、「自害してた、フェンさんとリルさんに確認してもらったんだけど、何か皇女の元部下みたいだたったよ。」


「えっ! 俺達殺っちゃったってわけ?」


「それはないよ、姫様の味方なら自害なんかしないと思うしたぶん敵なんじゃないかなぁ、自害した理由は私達には分からないけどリルさんは納得してたみたい、ほら水分補給も大切だよ飲みなよ。」、ミヨコはバッグから水分補給飲料のペットボトルを取りだしてアズマに渡す。


アズマはミヨコから水分補給飲料を受け取りそれを飲みながら、「その事、姫さん知ってんの?」


「たぶん知らないと思うよ、フェンさんもリルさんも言わないそんな感じがした。」


「そうか・・・」いったい皇国に何が起こっているんだそれにこの事を評議会は知っているのか?何故この時期にネオホンコン奪還作戦が行われた?何をスミカちゃんは評議会から託されたんだ?分からない事が多すぎる。


ミヨコはニヤニヤしながら、「へぇー、アズマっち、姫様の事気になるんだぁー、やっぱり戦禍で生まれた恋は本当だったんだぁー!」


「ぶっ! ゲホッ、ゲホッ、」、俺は飲料をおもいっきり吹き出した、「あのなぁ、ミヨっち、映画の観すぎ!あの状況でそんな事起こる分けない!」


そうだホンコン戦役は、映画や、小説等のメディアが沢山の情報を流したがその大部分はフィクションだ、特に俺と姫さんの関係は人気があったようで実際に俺が十年の入院生活から社会復帰してもまだ世の中にはホンコン戦役のコミックやアニメ、書籍等が溢れかえっていた、俺の口座には肖像権の使用料がまだ毎月入って来るし口座の残高も俺が殆ど使わないので今や天文学的数字だ。


「でもぉ、あの映像は本物でしょ。半壊した巨人機と半壊した精霊機、お互いに見つめ会う二人、当時のアズマっち格好良かったし姫様は絵になるぐらいの美少女だったしまるで気が付いたら恋人同士が戦っていた、そんな雰囲気があったょ。」


「そりゃ驚くだろっ、お互いに相手が化け物と思って闘ったんだから。」実際の年で十二年前、精神年齢で五十年前、随分昔の話だ。


妖精族、このアルタワグナーの大地でもっとも精霊に愛されている一族、特長は額にある精霊紋、その色でどの精霊に愛されているか分かる、赤は火、蒼は水、黄は大地、碧は風、その四大精霊に、光の白、闇の黒が重なる。


かって彼等は純粋で高貴な一族だった、だが人族を知りその欲と知識を知って彼等は変わった、彼等は人族をまね人族を越えようとしただから皇王が生まれ皇国が誕生した。


俺は厳しい顔で、「ミヨっちもうこれ以上はこの話し終わり、でっ『蒼竜』との合流予定時間はいつ頃?」


ミヨコはアズマが皇女にあまり興味を持っていないような気がした事を知ってホッとした表情で、「ちぇつまんなぁぃ、えぇとぉ明日の正午かな、一応休憩を入れてそれで、休憩補給時に隊長がアズマっちに話しがあるってさぁ。」


スミカちゃんが俺に?アズマは頷きながら、「そうか、・・明日の昼か、ならば『蒼竜』に着くまで、」、皇国に何かが起こっている皇王の皇女に対する憎しみが俺が考えるより遥かに強いなら、「もう一波乱、いや、二波乱はありそうだな。」


アルタワグナーの中央平原に風が吹き、雲が流れるその雲はやがて雨雲となり、誰しもが嵐が来ることを予感した。




ネオホンコン郊外から四百キロの中央平原に小隊の休憩と『黒竜』と『白凰』両巨人機の燃料補給でトレーラーとトラックが停車した時、小雨が降る中をアズマは先頭トレーラーのスミカがいる隊長室に行き、その扉を叩いた。


「アズマです。」と扉を叩きながら俺、中からスミカちゃんの声が「入れ。」


アズマは扉を開け中に入った、中は折り畳みの簡易デスクと簡易ベッドがある何の飾り気のない質素な隊長室だ。


「アズマ、そこに座れ」デスクに向かっていたスミカはアズマにサブチェアーに座るように勧め、アズマが座ると彼女は口を開いた。


「アズマ、お前に聞きたい事がある、」


「ちょっと待ってください、俺も、スミカちゃ、隊長に聞きたい事がありますお互いに一問一答にしましょう、では俺から。」と俺はスミカちゃんにたたみこむように言った。


スミカは眼鏡を持ち上げながらため息をついて、「お前なぁ、まあいい何が聞きたい。」


「まず、『妖精王の招待状』の件、妖精王とは?皇王の事ではないのですか?」


スミカは暫く考えた後、アズマに妖精族の真実を話し始めた、「妖精王とは、精霊が決めた妖精族の真なる王オベロンを指す。」


「真なる王オベロン!」、俺が始めて聞く言葉!


スミカちゃんは続ける、「そうだ、妖精王の力は絶大で全ての妖精族は妖精王に従わなければならない、そしてこの事は我々、人族はほとんど知らない、」、スミカは更に話を続けた、「一ヶ月前、現妖精王でありリィーファン皇女の父、ダイフォン皇王が亡くなったこの事実も評議会の一部議員しか知らない。」


「ダイフォン皇王が亡くなった!」、その事実に俺は驚愕した、一般に妖精族は延命だ人族の平均寿命は百五十歳だが彼等は人族の倍の三百歳が普通、確か皇王は百五十歳にもなっていない寿命じゃなければ何かが皇王に起きた事になる!


スミカちゃんも俺の考えを肯定するように「そうだ皇王が死んだ原因は分からない、妖精王が崩御すると本来ならすぐに精霊達が後継の妖精王を指名する筈だが、何故か、いまだ皇国には妖精王がいない。」


皇国に後継の妖精王がいない?俺はスミカちゃんの言ってる意味が分からなかった、「?皇国以外の別の場所にいる妖精族に新しい妖精王が生まれた、そうゆう事ですか?」


スミカちゃんは否定するように首を振り「それも分からない、ただ、リィーファンの兄たち、ガリィフォン皇子、オリィフォン皇子達は精霊が妖精王を指名しないのは精霊が誰を妖精王にするのかを迷っているからだと考えた。」


「迷う?」、妖精王を指名する事を何故?


「精霊は、本当は優秀な兄たちに妖精王を指名したいのだが、ホンコン戦役の英雄であり、皇国の民に人気がある愚妹のリィーファン皇女が存在するから自分達を指名しないのだと、彼女がいなければ自分達が精霊から妖精王に指名される、そう考えた。」


なんとも呆れる、自分が皇に成れない理由を皇女のせいにするまるで八つ当たりじゃないか、「皇女は、皇王に嫌われていると世間では噂だったけど兄弟までとは・・それで皇子達が彼女を殺そうと刺客を、」


「それも分からない、皇子達なのか側近なのか家臣達なのか皇国の権力争いは複雑だ、」


俺の頭はパンクしそう、胸のポケットから『時忘草』のタバコを取りだし、「隊長、吸っていい?」と一応スミカちゃんの許可を取り、


スミカはアズマがタバコを吸う理由を知らないので呆れながら、「ハッカの匂いのする草か?千年前の嗜好品を真似たものだろう確かタバコと呼ばれていたな、変わった趣味だが吸ってもかまわん。」


アズマは胸のボケットから出した、『時忘草』のタバコに火を付けてその煙りを吸った、そんなアズマを暫く見ていたスミカは再び話しを始めた。


「ここまでは皇国の話しだ、ここからは此方の話しだ、アズマ」


「此方の話ですか?」、まだ何か話があるの?


「三ヶ月後、ネオロサンゼルス、ネオニューヨーク、ネオベルリン、ネオシャンハイ、ネオオオサカの五大都市が此方に転移する。」


「えっ!!」俺は、タバコを口から落としそうになり急いで手に持った。


アルタワグナーの世界の人族は全て移民であり初期開拓団が移住して五つの都市を作って百年、此方で生まれた二世、三世が活躍し始めているが、現在も本国とは政治的に経済的にも繋がりがあり人材交流も盛んだ、二十年前本国で都市全体で移民が出来る大規模転移法が開発されたと言う噂は聞いたがそれがたった二十年で現実になるとは。


「また、急ですねぇ、」、俺は本心をスミカちゃんに言った。


「これも極秘事項だが、此方の人口は年三倍に増えているが本国の出生率は遂に一割を切った、もはや彼方では人族が滅びる事が確定し本国の評議会も全世界の人族が此方に移住する事を決断した!」


「全世界の人族が此方に移住!!!」、話の内容のスケールがあまりに大きく重大なため俺は絶句した!


アルタワグナーの預言が現実になろうとしている。


そうだ人族は滅びようとしている、文化は低迷し人は子を宿さなくなった。


今から五百年前、本国暦、本国では西暦と呼ぶそうだが二千五百年に二人の偉大なる科学者が生まれ、一人は世界に裏と表がある事を発見した、


アルタ オーソン博士


もう一人はその世界に渡る転移法を発明した、


ワグナー ウェルズ博士


この世界は彼等二人の名前を取ってアルタワグナーと呼ばれている、彼等の経歴には不明な部分も多いが最も有名な共著は彼等が三十五才の時発表した『アルタワグナーの預言』と呼ばれている。


彼等は人類学的、統計学的に人族は滅びの道を歩んでいると説きその原因が惑星そのものにあると解説している、惑星は長い休眠期に入りそこには知能の高い生物を惑星を支配する種族を許さないと説いた、惑星は原始への回帰を求めているだから此のままでは人族は滅ぶそしてその解決法がアルタワグナーへの移民、人族は五百年の内にアルタワグナーに大規模な都市を作りそこで多くの種族が交わり子をなし人族は新たなる種族として生まれ代わるだろう、そう預言した。


その預言が今真実になろうとしている。


「そうだ、アズマ、五大都市を皮切りに翌年には百を越える都市が転移する、その翌年にも、もはや、我々には皇国と悠長に戦争をしている暇はないんだ。」スミカは話を続け、客室に目を向けながら「だから、評議会は皇国と講和を結びたがっているそして、その相手がリィーファン皇女だ。」


だからリィーファン皇女をネオトウキョウに連れて行く、そうゆう事かと俺は納得して、「リィーファン皇女、と言うことは共和国は皇国の権力争に積極的に介入すると、」、スミカちゃんに聞いてみた。


「そうゆうことだ、だから皇女の説得のために、我々はあのカードを評議会より託された。」、スミカは一呼吸置いて、「期限は二ヶ月、講和が結ばれなかったら、Dディが発動され我々は皇国を、妖精族を滅ぼす。」


俺は再び驚愕した、「滅ぼす、つまり皆殺し、」、何故一介の小隊の隊長が種族全体を滅ぼす等と言うんだ?


スミカは強い決意の眼差しで、「・・我々も瀬戸際だ、刃向かう者は滅ぼすそれが人族だ!」


全ての人族の代表でもあるかのように俺に話すスミカさんこの人は一体何者なんだ、ただの誇大妄想狂か?そう言えば興味がなかったからかこの人の事を俺は何も知らない、アズマはゆっくりと煙りを吐き出しながら聞く、「隊長は、何故そんな重大な機密事項を俺に話したんですか?」


スミカは、アズマの目をしっかりと見つめながら、「シン アズマ、・・いったいお前は何者なんだ!」と俺に聞いた!


「えっ!!!」俺は、タバコを床に落とし、あわててタバコを拾おうとした時、


けたたましく鳴る警報音、


ファンファンファンファンファン!!!


スピーカからは、ミヨコの声が、


『精霊機接近、タイブ獣王型!』


スミカがマイクに叫ぶ、「警戒体制四、『黒竜、白凰』出撃準備!」


俺は椅子から立ち上がり「じゃ、隊長、俺も出ます。」スミカさんは俺が何も答えない事に苛立ち、「待て、アズマ、最後に一つだけ答えろ!」


俺は、スミカさんに背を向けながら「何ですか?」


「お前の力が何なのか、何が目的なのかは問わない、ただ一つお前は我々の味方なのか、それとも敵か!!」


アズマは立ち止まり彼女の問いの意味を考える、そして一呼吸おいて考えぬいた答は「・・・少なくとも、今は貴方の部下だ。」


「アズマ!」スミカは複雑な気持ちを抑えて、ただ一言アズマの名を呼ぶ。


「それと、隊長、貴方はやっぱり普段の軍服よりたまに着ているスーツのほうがとっても似合って素敵だと思いますよ。」そう、スミカちゃんあなたは戦う事だけしか出来ない軍人より策謀と権謀と交渉が得意なスーツの似合う政治家が適職だと思うなぁ。


アズマは隊長室のドアを開け、小雨降る荒野に出ると静かにトレーラーにある隊長室のドアを閉めた。


アルタワグナーの中央平原は、真夏なのに肌寒く吹く風は強さを増していた。




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