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前回あらすじ

ヒデは小学生の頃の初恋相手である星野と高校で再会したが、彼女は自称宇宙人の宇宙オタクになっていた。そんな現実を受け入れられないまま過ごしていたある日、地元の公園にUFOが現れる。星野の話ではUFOの放つ光が青い光なら平和を好むアル・スハイル・ムーリフ星人、赤い光は凶暴なマルカヴ星人だという。一人公園へと行く彼女をヒデは放っておけない。結果、マルカヴ星人は現れなかったが、ヒデは彼女への気持ちに気づいたのだった。

「俺見ちゃったんだよ」

 カズは鼻息を荒げ目を見開いて興奮していた。野球部の朝練終わるとがすぐに走って来たのだろう。帽子を被ったままの額には汗が浮かんでいた。隣の席の星野は読んでいた本から視線を上げて、机の前に立っているカズを見上げた。


「何を?」

「昨日、光が丘公園で素振りをしていたらUFOが俺の頭の上を飛んで行ったんだ! 星野! あれ絶対ヤバイ奴だよ」

 カズが星野にそんなことを言うのにはわけがある。星野は宇宙オタクの自称宇宙人だ。そうなってしまったのは俺の責任でもあるのだが、高校生活で彼女は変人扱いされるどころか高尚な占い師のような立ち位置を確立していた。


「落ち着いて、カズ君。UFOの光は何色だった?」

「それが赤だったんだ」

「赤?」

 思わず聞き返してしまったのは星野ではなく俺だった。星野は嬉しそうに俺を見る。彼女は『UFO・UMA図録』と書かれた本をペラペラとめくるとそのうちの一枚を俺とカズに見せた。

「赤い光のUFO。マルカヴ星人に間違いないわ」

 そこには頭が真っ赤なタコ、体が人間というグロテスクな宇宙人のイラストが載っていた。宇宙オタクの星野の話では円盤型で青い光を放つのは平和的な宇宙人で、赤い光は攻撃的で危険なマルカヴ星人なのだという。


「そうか、思った通りだ。マルカヴ星人は人間をさらいに来たのかな? ということは俺も危なかったってことか?」

 カズが身震いをする。入学して間もない頃はオタクの彼女に引き気味だったカズだが今ではすっかり星野の信者だ。

「そうね。カズ君をさらわなかったってことは昨日は偵察だったのかも。実行に移すとしたら今晩ね。何か対策を練らなきゃ。協力してくれる?」

「俺には第一発見者としての責任がある。行くよ」

「カズ、明日は夏の甲子園の予選だろ?」

 カズは1年生にしてレギュラー入りの野球部期待のエースだ。そのエースが試合前日に宇宙人退治なんてありえない。彼は悔しそうに頭の帽子を手に取るとそれをぎゅっと握りしめる。その手はしっかりと型をつけたロゴ部分だけは折らないように気をつけていた。

「マルカヴ星人に侵略されたら甲子園どころじゃなくなる! だから俺は地球を救う!」

(何でこいつ、こんなに洗脳されているんだ?)

「カズくん……」

 星野はカズの心意気に感動して目をキラキラとうるませていた。


「バーカ。試合の方が大切に決まっているだろ」

 カズが待っていたとばかりに俺を見る。嫌な予感が瞬時に俺を襲った。

「ヒデ! もしかして俺の代わりに行ってくれるのか?!」

「ヒデ君が来てくれるなら心強いわ!」

 ガクッ。頬杖をついていた手から俺の顎が落ちる。

「俺は……」

 行きたくないと言いかけると星野が俺にマーブル柄の小さなスーパーボールをチラつかせた。

「そう。私はやっぱり孤独な宇宙人なのね……」

 星野は大げさに悲しんで見せた。

「わかったよ」

 俺の答えを聞いて彼女はニカッと笑う。


 俺は星野に弱い。彼女が大切に持っているあのマーブル柄のスーパーボールは小学生の頃に俺が星野にあげたものだ。当時、宇宙オタクであることを隠し、思い悩んでいた星野に俺は恋心を抱いていた。そして俺の宝物だったスーパーボールを星に見立ててプレゼントした。結果、そのことが宇宙オタクの彼女に勇気を与えてしまったのだ。


「じゃあ放課後、うちで作戦会議ね」

 星野はさらっと言った。

「お前んち行くの?」

「うん。この前は一人でマルカヴ星人に挑もうとしたんだけど、無謀だったみたい。後でパパに怒られちゃった。だから次にこういうことがあったらパパに相談する約束なの」

「パパ? 俺、お前のパパに会うの?」

 混乱する俺の肩をカズががっしりと掴む。

「ビビるな、ヒデ! 宇宙研究家の星野のパパがいればマルカヴ星人なんて怖くない!」

(いや、そこじゃないんだけど)

 俺と星野は友達とも恋人とも言えない微妙な関係だ。それなのに父親に会うとかハードルが高すぎるだろう! 俺はとりあえず開けていたワイシャツのボタンを閉めた。



「ここが私の家よ」

 星野の家は白が基調の洗練されたデザインだった。草花にあふれたイギリス風の庭園がさらに建物の品を高めている。ただ、屋根から所せましと伸びる多種多様なアンテナとベランダに置かれた玄人向け天体望遠鏡がその上品な家のデザインをすべて食っていた。


「君がヒデくんか!! 待っていたよ!」

 出迎えてくれたのは星野のパパだった。丸い眼鏡をかけ、優しい顔をしているが、そんなことよりも頭についたカチューシャと魔法陣のような怪しい柄のTシャツに目が釘付けになる。

「これが気になるかい? 素人は地面にサークルを書きたがるがね、そんなのはナンセンスだよ。こうやってTシャツに描いておけばいつでも宇宙人とコンタクトが取れるんだ。ナイスアイディーアだろ?」

「はぁ……」

 星野パパが歩くたびにカチューシャについた銀色の玉がビロローンと揺れる。

「星野、あれは?」

「あれはヘッド超音波受信機なの。LEDが内蔵されてて宇宙人から信号が送られてきた時に、モールス信号のように光で応対することができる画期的な道具なんだ」

 玄関からリビングに案内される短い間にも見たことのない模型やはく製、写真が所狭しと置かれているが、何から聞けばいいのかすら分からない。


 しかし、リビングはママの趣味なのか家の雰囲気通りのホッとする空間だった。

「さて、ヒデくんはどんな宇宙人が好きだい? 私は最近ね、好きな宇宙人で性格がわかる宇宙人占いにハマっているんだよ」

 星野パパはソファに座り込むと嬉しそうに話し始める。話し出すと止まらないのは星野とそっくりだ。

「パパ、そんなことより―—」

「ああ、そうだったね」

 すると星野パパは星野が持っている宇宙大百科の2倍はあろうかという大判の本と雑にクリップで止められた書類を持ってきた。


「実を言うと私はマルカヴ星人を研究していてね。そのきっかけというのは若い頃、『月刊 宇宙の人』の編集長をやっていた私にこの写真が届いたことなんだよ。投稿者は子どもと遊んでいるときに偶然撮ったらしいんだがね」

 星野パパが取り出したのは書類に貼られた1枚の写真だった。古いその写真に写っているのは、頭の部分が赤い怪人だ。頭からは触手のようなものもかろうじて確認できるが、かなりぼやけているので、それが宇宙人であるとは断言できない。しかし、星野パパは自信にあふれていた。


「これは非常に貴重な写真だよ。そしてこの写真を元に私が描いたイラストがこれだ!」

 バンという大きな音とともに分厚い本が開かれると、そこにはよりリアルなマルカヴ星人の姿が描かれていた。頭は完全にタコのなり、いかにも悪そうな目つきをしている。

「UFO・UMA図鑑のマルカヴ星人も参考元はパパのイラストなのよ」

 星野は誇らしげだった。俺は写真とイラストを見比べたが、こんなぼやけた写真からこのイラストに行きつく想像力の方が尊敬ものだ。


「うふふ、いつもこうなのよ」

 星野のママがティーカップをテーブルに置きながら笑う。軽く巻いた髪に白いエプロンが似合う星野ママは若々しくきれいだった。星野も普通にしていれば星野ママのように上品なたたずまいになるのだろう。


「私はよく分からないの。かぐや姫は好きだけど。ほらあれも宇宙人の話でしょ」

「ママ、かぐや姫は月の住人だからね。地球人は元々月から来たという説もあるから宇宙人とは断言できないわ」

「あら、そうなの?」

 星野ママは穏やかに微笑む。俺は唯一、地球人ぽい星野ママに安らぎを覚えた。しかし、その安らぎも長くは続かなかった。


「ヒデ君、良かったらソファの背もたれにこのクッションを使って」

 星野ママが差し出したのは、赤い体に何本も尾のついた得体の知れない生物をモチーフにしたクッションだった。この生物を例えるならタコ型の犬か犬型のタコといったところか。その生物がボールで遊んでいる姿がクッションには描かれていた。


「これは……?」

 手縫いの刺繍が無駄に美しいクッションを手に取り、戸惑う俺に星野が説明をした。

「それはマルカヴ犬。ママは宇宙人をインスピレーションに宇宙犬をデザインするアーティストなの」

(なんでもアーティストって言えばいいってもんじゃないだろ)

 星野パパはマルカヴ犬クッションを食い入るように見つめる。

「これは使えるかもしれないぞ! 私の研究ではマルカヴ星人は球体が好きなんだ。この写真が撮られたのも子供のボールを追いかけていたところだという話だしね。よし、こんな作戦はどうだ?」


 星野パパの眼鏡が光る。星野もうんうんと相槌を打ちながらパパの話に聞き入っていた。

「誰かが囮になりマルカヴ星人が現れたところでボールをたくさん転がす。それに気を取られているうちにマルカヴ星人を生け捕りにするんだ」

「スーパーボールならたくさんあるわ」

「よし! 名付けてスーパーボール大作戦だ!」

 星野パパが腕を天に掲げると頭のカチューシャが揺れる。星野は揺れる玉に目もくれず、真面目な顔で大きく頷いた。


「行くぞ! エイエイオー!」

 俺は半ばバカバカしくなりながら親子の会話を聞いていた。しかし星野パパは俺を強引に輪の中に入れると熱い眼差しを向ける。


「ヒデ君! さぁヒデ君も一緒に。地球軍の団結を深めるんだ!」

「ち、地球軍?」

 動揺する俺に星野と星野パパが拳を上げる。その目は『一緒にやれ』そう言っていた。

「お、俺はちょっと……」

「さぁ! ヒデ君!!」

 星野パパの顔が近づき、耐えられない俺は仕方なく拳をつくった。

「行くぞ!」

「エイエイオー!」

 俺はいろいろな意味でマルカヴ星人が憎らしくなってきた。そうして3人だけの地球軍が発足したのだった。


「うふふ、楽しそう」

 星野ママは優しい笑顔を浮かべ地球軍を見守っていた。


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